お嬢様の防戦 その3

「お嬢様。

 野党の民主同盟党の対策チームがお嬢様に話を聞きたいと」


「帰ってもらって。

 どうせ役に立たないから」


 現状、流れは実に悪い。

 マスコミは『また華族の特権』『財閥に法は効かず』と派手にぶっ叩いており、それに真っ先に乗ったのが野党である民主同盟党である。

 何しろ彼ら野党は与党の牙城である『華族特権の剥奪』と『財閥解体』を訴えていたので、彼らが話を聞くというのは私達へのバッシングの場をマスコミ向けに用意するという事でしかない。

 そして、そういう民意の上に恋住政権は乗っている。

 今や過半数に近い無党派層の空気を恋住総理は読むのが上手く、その空気を現実化して落とし込むのができるから彼は未だ政権を保っていられる。

 おまけに、今年前半からの与野党のスキャンダル合戦で、与野党内で恋住政権に対抗できる政治家が軒並み消え去っている。


「試しに聞くけど、私が米国に亡命したら、何日ぐらい生きていられると思う?」


 その道のプロであるアンジェラはとてもあっさりと言い切った。

 真顔で。


「今、亡命するなら、日付変更線を越える前に、エヴァがお嬢様を殺しますね。多分」

「ですよねー」


 まだ『同盟国の要人』という事で配慮されているのだ。

 その配慮が無くなった時、私がやらかした今年頭のITバブル大崩壊の仕手戦を米国は忘れてはいない。

 きっちりと報復するのが、覇権国家というものである。


「このタイミングで仕掛けてきたのはどうしてだと思う?」


 ムーンライトファンドのオペレーションルームでの緊急会議にて私は一同を見渡す。

 アニーシャが考えながら手を上げた。


「そうですね。

 お嬢様の粛清という目的で仕掛けたとするならば、『ぬるい』としか言いようがないですね」


 さすが元KGB。

 権力抗争が即座に命に関わるだけに読みがシビアだ。


「叩いてるのが桂華鉄道の橘さんで、一条さんも桂華金融ホールディングス上場問題で叩かれている。

 つまり、お嬢様の手足だけを叩いており、桂華院公爵家当主の清麻呂様と清麻呂様が社長を務める桂華岩崎製薬を叩いていないというのもポイントですね。

 お嬢様の手足をもぐ事だけを狙っています」


 桂華院家の没落でないのがポイント。

 総理の狙いは、金ではなく人だった。

 アニーシャの言葉を北日本政府工作機関出身の北雲涼子が補足する。


「政府与党内のお嬢様派といえる泉川派は内閣に取り込まれており動けません。

 おまけに、恋住政権では閣僚は一本釣りされたので派閥の影響力そのものが落ちています。

 現状で謀反を企んでも加東元幹事長の二の舞になるだけでしょうね」


 支持率が下がっているとはいえ、四割もの支持を集めている総理に弓を引くというのには度胸がいる。

 繰り返すが、今年前半のスキャンダル合戦で恋住総理に対抗できる政治家が軒並み消えたのが致命的に痛かった。

 つまり、今総理の強行を押し止める人間が居ない。


「お嬢様に一個よろしくない報告が」


 そう言って立ち上がるのが岡崎祐一。

 なお、彼が立ち上がる時、アンジェラとエヴァの目が鋭くなるあたりまだ許していないらしい。

 半年程度しか経っていないからなぁ……


「バーレーンの仕掛け。

 内調が嗅ぎ回っています。

 多分バレましたよ」


「あー」


 私はコテンと頭を打ち付ける。

 総理が激怒する言い逃れのできない理由が私にはあったのだ。



 来年のイラク戦争の参戦。



 そりゃ、政府でない小学生が切り盛りしていたら面白くないわな。

 とはいえ、外務省はその頃スキャンダルと与党内の大喧嘩で機能していなかったじゃないですか。

 と文句を言っても、それを口に出せず。

 私はなんとか打開の手段を探る。


「手はあるかしら?」


 私の希望を情け容赦なく撃ち砕いてくれたのは、今渦中にさらされている橘だった。

 淡々とかつあっさりと、私の望みを断つ。


「総理の意向はこれ以上無くはっきりしています。

 『おとなしくしておけ』。

 多分それだけです」


 そして岡崎以外の一同のジト目が私を襲う。

 おい。岡崎。

 共犯者だろうが。何か助けろよ。

 目をそらすなよ。


「お嬢様。

 お嬢様がこの桂華グループの、ひいてはこの国の為に働かれている事は橘含めて一同が重々承知しております。

 ですがあえて言わせていただきます。

 少しお休みになられてはいかがでしょうか」


 ああ。そうだった。

 そもそも、あのITバブル大崩壊の仕手戦前から、『もう良いじゃないか』と手仕舞いを考えていたのが橘たちである。

 つまり、この恋住総理の攻撃はある意味当然のものであり、『ほれ見たことか』という因果応報であるという訳だ。

 皆を代表して橘が私に降伏を告げた。


「お嬢様。

 イラクから手を引いてくださいませ」


 今回の一件、総理どころか橘たちまで敵だったと。

 そして、この決定的な一言にアンジェラもエヴァも動いていない。

 これは日米間で私の排除が決まったな。

 中間選挙での支援を切り捨てても私を見捨てるだけの理由を米国は手に入れた訳だ。


「それが世界の意思ってものかしら?」

「それを小学生のお嬢様が感じることが間違っておられるかと」


 座敷牢に閉じ込められる訳でもなく、財産も地位も没収されない。

 世に言う悪役令嬢の断罪と追放に比べればずいぶん温いものだろう。

 だが私は、この年で決定的な敗北を否応なく噛み締めていた。

 そして恋住総理はこの一手を無駄にしない。




「金融機関の不良債権処理を終わらせるために、大手メガバンクに公的資金を一斉に注入します」

「また、不良債権になっている保有株式の売却を進めるために政府による買い取り機構を創設します」

「近年の華族の特権を利用した犯罪を防ぐための法案を秋の国会にて提出します」


 攻める恋住総理を無党派層は支持した。

 その頂点を彼はテレビの中で言う。


「北樺太問題についてロシアと話し合い、平和条約締結を目指します」



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 あれ?

 これ悪役令嬢お約束の負けシーンじゃね?



民主同盟党

 この時の代表がポッポ。

 この時点でお嬢様の負けは決まった。


無党派層

 あの総理の凄い所は、無党派層の思考と感覚を本能的に掴んでいた所。

 それを現実化できるように黒子が動いていたのもあるけど、今でもあの感覚は無党派層の意識と限りなく近い。

 まぁ、某政権のトラウマが無党派層の風に吹き飛ばされないようになったというべきか。

 この間の東京都議選を見ると、まだ無党派層は侮ったらいけない。


華族特権剥奪と財閥解体

 この総理でないとできない大仕事であり、これがあるからこそあの総理はここで動いた。



Q この政権見捨てたら?

A この時の野党の代表ポッポだぞ


Q この国見捨てたら?

A 多分殺される。どこかわからないけど


Q なんでこんなに容赦ないんですか?

A この作者チートオリ主主人公がフルボッコで負けるの大好きって言ったやん♪

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