天音澪と三人の姉 ボードゲーム編

 天音澪には三人の姉がいる。

 血のつながっていない姉だが、『お姉さま』と呼んで慕っているのは小学生になっても変わらない。


 子どもにとってパーティーというのは退屈なものだ。

 そのため、食事の終わった子どもたちは別室に集められて、親が来るまで子どもたちで遊ぶという事があったりする。

 そんなキッズルームではTVがあって子ども向けアニメが流されていたりTVゲームで遊んでいたりするのだが、ボードゲームという選択をした人間が居る。

 まぁ、長姉なのだが。


「だからなんで3がそんなに出るのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 長姉こと桂華院瑠奈のハイソプラノな悲鳴がキッズルームに響き渡る。

 ガバ運に翻弄される長姉を尻目に、次姉の春日乃明日香は悪役令嬢もかくやという笑い声で着実にその3から小麦を集めていた。


「おーほっほっほ!

 瑠奈ちゃんは、3連続で3が出た時点で盗賊をこのマスに動かすべきだったのよ!!」


「確率考えたら、そんなもったいない事できないわよぉぉぉ!!!」


「すいません。

 その小麦木材と交換してください」


「澪ちゃんなら2:1でいいわよ」


(ぐいっ!ぐいっ!)


「蛍ちゃん、羊で小麦と交換?

 どうしようかなぁー」


 なお、次姉はこういう所で容赦がないが、プレイングにガバが出る。

 ついつい身内に甘くなってしまうのだ。

 で、そのあたりをサイコロ運とプレイングにガバがない末姉の開法院蛍に突っ込まれて負けるのだ。


(明日香お姉さま気付いて!

 蛍姉さまが最長交易路と最大騎士団を持っているって事に!

 後一枚カード引かれて、ポイントカード出たら勝ちなんですよ!!)


 妹故にそれを言わない天音澪の奥ゆかしさ。

 なお、その顔色から澪が気づいているのを察していながら、春日乃明日香とそのトレードをやろうという実に良い性格をしているのが開法院蛍という姉である。

 そして、勝利ポイントカードをしっかりと引いて勝つのも開法院蛍という姉である。

 ガチ凹みしている上二人の姉を尻目にVサインをする末姉を見た澪以下の子どもたちは、この末姉だけは敵に回さないようにしようと心に誓ったという。




 そんな感じで桂華院瑠奈が何処からともなくボードゲームを持ってくるので、自然とそれをする子どもたちも増えてくる。

 桂華院瑠奈とつるんで遊んでいる帝亜栄一や泉川裕次郎や後藤光也も参加しようという事になった時、大人数パーティープレイでもするかと桂華院瑠奈が持ってきたゲームが大波乱の幕開けになろうとは誰もこの時は思っていなかったのである。


「第一次大戦前の欧州の国盗りゲームかぁ……ルールがえらく少ないな?」

「サイコロとかないってランダム性が無いって事だね」

「あー。

 これ、行動決定前のプレイヤー交渉が勝敗を分けるやつか」


 男性陣三人は即座にこのゲームのヤバさを把握するが、女子四人はいまいち分かっていなかった。

 なお、このゲームを用意してくれたのが秘書のアンジェラという時点で色々と察して欲しい。


「じゃあ、プレイヤーの列強担当国を決めるわよー。

 とりあえず、10分の交渉時間を挟んで、期間5年で遊んでみましょうか」



桂華院瑠奈

 ロシア帝国


春日野明日香

 大英帝国


開法院蛍

 オスマン・トルコ帝国


天音澪

 イタリア王国


帝亜栄一

 ドイツ帝国


泉川裕次郎

 オーストリア・ハンガリー帝国


後藤光也

 フランス共和国



ゲーム開始


「澪ちゃん。

 同盟組みましょう」


 初っ端から長姉の誘いがやって来る。

 彼女の担当国のロシアは国土が広いために、攻める国と守る国を決めないと守りきれないのだ。

 そういう意味では、ちゃんとセオリーの遠交近攻を守っていると言えよう。


「いいですけど、何処攻めるんです?」

「女の子で同盟組んで、男子タコ殴りってのはどう?」

「それだと、私、フランスとオーストリアの集中攻撃食らうんですが?」


 そんな感じで桂華院瑠奈と別れると、今度は泉川裕次郎が接触してくる。

 ヒソヒソ話だけでなく、密書が飛びまくるのがこのゲームである。


「不可侵条約を結びましょう。

 お互いに領土を決めて、ここから先は入らないというやつ」

「いいですけど、何処攻めるんです?」

「栄一くんがやる気で、桂華院さんに勝ちたいみたいでね。

 それで二人でロシア攻めだよ」

「私、瑠奈お姉さまにその情報言うかも知れませんよ?」

「構わないよ。

 むしろ言ったほうが、こちらとしては旗幟が鮮明になるからやりやすいんだ。

 あと、ここで不可侵を結んでおくと、フランスだけに専念できるんじゃないかな?」


 そこで10分経ち、プレイヤーは行動予定を書いて審判役の秘書のアンジェラに手渡す。

 そして、各国が欧州というパイを切り分けてゆく。


「あーーーー!

 蛍ちゃん、黒海は中立化しようって言ったのに、海軍進出させてるぅぅぅ!!!」

「瑠奈お前、その展開こっちが全力で殴りに行くのを読んでいたな!!!」


 ほぼ同時に上がる桂華院瑠奈と帝亜栄一の叫び声。

 さらに次々と各国の行動でそれぞれ悲鳴と怒声が上がるのがこのゲームの見どころである。


「うわぁ。

 開法院さんバルカンを容赦なく攻めるなぁ……」

「イベリア半島は私のって言ったじゃん!」

「イベリア半島には手を出してないだろうが。

 『たまたま』海軍の進出が重なっただけだ」


 悲鳴と怒声と怨嗟と策謀が渦巻く欧州の闇をたっぷり堪能した小学生たちは、しばらく仲が悪くなったのは言うまでもない。

 とはいえ、仲直りするのも早いのが小学生の良い所なのだが。


ゲームの勝者?

 案の定この人だったよ。


(ぶいっ♪)




────────────────────────────────


 これを書くために久々に『おこんないでね』(田中としひさ アスキーコミックス)を引っ張り出してきた。

 カードゲーム編も作ってMTGでもさせるかねぇ。


今回のボードゲーム

『カタンの開拓者たち』

 サイコロで収穫物が決まるので、本当に3とか11でのフィーバーが稀によくある。


『ディプロマシー』

 欧米では社会の授業に使われているとかいないとか。

 交渉ゲーであり、人間という生き物は怖いという事をこれでもかと見せつけてくれる。

 何がえげつないかって、交渉が基本口約束だから、裏切りのペナルティーが低いように見えるという所。

 そして、それがバレると他のプレイヤーに警戒されてフルボッコにという……

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