深夜経済番組 町下ファンド代表インタビューより

「本日は古川通信にTOBを宣言なされた町下ファンド代表の町下氏にお話を伺いたいと思います。

 どうぞよろしくおねがいします」


「よろしくおねがいします」


「さて、まずはこの古川通信のTOBについてですが、その目的を教えて頂けないでしょうか?」


「古川通信は足尾財閥の一企業として、帝国電話を頂点とする通信事業を足掛かりに今の発展を築き、コンピューターやパソコン等のIT分野に進出しております。

 ですが、財閥の影響下においてその経営資源が効率的に働いてないのです」


「財閥企業ですから、それはある意味当然なのでは?」


「ですね。

 そこは否定しませんが、ならば財閥側がコントロールすればいいだけの話です。

 ですが、古川通信は足尾財閥がコントロールできていません。

 まずはそこを問題にしたいと思っています」


「と申しますと?」


「古川通信の本当の親会社は何処なのかという話です。

 はっきりと言いましょう。

 古川通信の、いや、日本の電機産業の本当の親会社である帝国電話が古川通信をコントロールしています。

 財閥親会社だけでなく、日本の元国策企業が古川通信を縛っている。

 これはおかしいでしょう?」


「またはっきりと言いますね?」


「今回古川通信の社長が解任されましたが、この社長のお父上が帝国電話総裁をなさっていたというのを知っていると、今回のTOBにおいて色々と見える景色が違って見えると思いますよ。

 そして、その社長に退場を促したのが、桂華金融ホールディングスを始めとする銀行団。

 おかしいじゃないですか?

 会社は株主のものです。

 今の話の何処に、株主が出てくるのでしょうか?」


「では、町下氏は今回のTOBを通じてそのあたりを訴えると?」


「はい。

 理想は過半数を握って経営権を押さえたい所ですが、社長の解任については我々も賛同します。

 今回のTOBは、株主の権利を無視しないで欲しいと言う意思表示でもあるのです」


「TOBの目標は3分の1越えと言う事ですが、その意味を教えてください」


「3分の1越え、つまり33.4%を越えると拒否権が発動できます。

 今回の社長解任を仕掛けた桂華金融ホールディングスが行った四洋電機救済だと、飛ばしの損失処理をしたあと、足りない資本を第三者割当増資で桂華金融ホールディングスが補っています。

 致し方ない事ですが、この方法だと既存の株主の持ち株比率が下がり不利益を被ることになります。

 今回の古川通信は、経営不振ではありますが資産も多い。

 株主利益を損なわずに経営再建は可能と思っております」


「古川通信は、TOBに乗らないようにとコメントを出し、対決姿勢を強めていますが?」


「我々も対決をしたい訳ではありません。

 会社が発展し、株価が上がる事を望んで……」




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帝国電話

 民営化された電話会社。

 ここを家長にした電電ファミリーなるものが電機業界を牽引してきた。


拒否権

 正式名称は『重要事項の特別決議の阻止』でこんな事ができる。

  他企業との合併・会社の分割

  定款変更

  事業譲渡

  株式の募集

  取締役の途中解任


第三者割当増資

 会社の資金調達方法の一つで、株主であるか否かを問わず、特定の第三者に新株を引き受ける権利を与えておこなう増資の事。

 ただ、これを行うと既存株主の持ち株比率が下がるというデメリットがあるので、発行手続きは厳格に決められている。

 当然、基本的には拒否権発動の対象になる。

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