お嬢様の部活動 初等部編

 初等部も高学年になると部活なるものが解禁される。

 学生生活の華であるが同時に時間を拘束されるとも言う。

 その部活解禁が五年生の秋なのだが、春ではないのは理由があって体育祭や文化祭のアピールタイムの後に解禁という流れになっているからだ。


「瑠奈。

 お前何か部活入るのか?」


 お昼休みの食堂。

 栄一くんの唐突な前振りに、私はあっさりとそれをばらした。

 今日の日替わりランチはハンバーグである。


「ええ。

 剣道部にでも入ろうかなと」


「え?」

「桂華院さんが?」

「意外だったな」


 一斉に声を上げるみんな。

 お前ら私を何だと思っている。

 なお、栄一くんが陸上部で裕次郎くんが剣道部、光也くんは帰宅部である。

 基本家の都合が優先されるので、強制力はあまりなく純粋な部活として初等部の部活動は機能していた。


「てっきり陸上部だと思ったよ」

「お誘いは来ていたわ。

 手が足りない時、応援に出ることはするけどね」


 まぁ、体育祭で派手に活躍していれば、お誘いが来ない方がおかしい。

 とはいえ、陸上部に行ったら行ったらで主力として扱われるのもちょっと面倒だなと思って、比較的人が少なくて幽霊部員OKの剣道部に入ることにしたのだ。


「しかし桂華院が剣道部か。

 できるのか?」


「まぁ、家の人にいろいろ教えてもらいましたから」


 光也くんの疑問形に私は胸を張って言い切る。

 これでもチートスペックの悪役令嬢である。

 悪役令嬢たるもの、文武両道でなければならない。

 私はハンバーグをぱくりと口にした後で、ケチャップを拭きながら話す。


「まぁ、一度誘拐されかかったので、自分の身を守れる程度の嗜みは持っておこうかと」


 なお、九段下のビルの地下にはこの手の訓練施設もあって、時々稽古をつけてもらっている。

 ロシア系軍事武術の流れを組んだ北日本式剣道なのだが、これがなかなかおもしろい。


「ちなみに、教えてもらっているのがうちのメイドの北雲さんなんだけど、なかなか面白いわよ。

 何しろ最初の授業で剣道全否定」


「は?」


 声を出したのは裕次郎くん。

 彼は家でも剣道をしているから明らかに話に乗ってきた。


「だって元がロシア系武術よ。

 逃げて逃げて逃げ切って相手が疲れ切った所を叩くのが国是の国が道云々なんて言うものですか」




 剣道を含めた武道やスポーツは心技体が大事と教わるのだが、それは勝負等の場合。

 お嬢様はまず前提が違いますという前置きをかまして北雲さんは道着姿の私に言い切る。


「お嬢様がこの技を使う状況を想定してください。

 お嬢様がこの技を使うという事は、まず襲撃を受けている時で、しかもお付が居ない状況。

 心技体なんてどうでもいいぐらい不利な場面で使う事になります」


 納得した私に北雲さんは話を続ける。

 剣道ではなく護身術の方に話が行っている気がしないでもないが、この時点の私は気づいていなかった。


「お嬢様の場合、まず使える武器が一つあります。

 その声です。

 欧州からお声が掛かるその歌声ですが、同時に大声も出せるので『助けて!』と大声で叫んでください。

 それだけでも相手はお嬢様の声を止めるという事で一手消費します」


 納得した私はついでに質問してみる。


「私が誘拐されかかった時は、スタングレネードで驚いた後ショックガンで気絶させられたわね。

 身内の護衛に」


「それはお嬢様が護衛を一人しか置かなかったからです。

 この手の警護は、複数置くことで相互監視させて身内の裏切りを防ぐようにしています。

 最近お嬢様が出る際には必ず複数のメイドが付いているでしょう?」


 なるほど。

 運転手にメイドに護衛、近くには橘かアンジェラが居るなと納得する私に北雲さんは話を続ける。


「我々はこの手の状況で戦うために以下のことを徹底的に叩き込まれます。


 呼吸し続ける

 リラックスを維持する

 姿勢を正しく保つ

 移動し続ける


 この辺りができるようになってから、竹刀を持ちましょう」


 ふむふむ。

 このあたりは元軍人だけあって考え方が合理的だなぁと納得した私に北雲さんは笑顔で告げた。


「そして、この手の武道の前提になるのは体力ですが、その体力づくりは下半身からです。

 ですから走りましょう。

 もちろん、女らしい美しさを維持したまま筋肉をつける事は可能ですわ」


「はい?」


 その数分後。

 道着からランニングウェアに着替えて、北雲さん他二人に挟まれて皇居のお堀を走る私の姿があった。

 ……あれ?

 道着着替える意味ないじゃん?




「なぁ。

 瑠奈。

 思ったんだが……」


 栄一くんの妙に言いにくそうなツッコミを裕次郎くんが珍しくはっきりと言う。

 真顔で。


「多分、桂華院さんのやっているの、剣道じゃないと思うな」


 とどめを刺してくれたのは光也くんだった。

 PHSのネット検索で調べていたらしい。


「多分ロシアの軍隊格闘術のシステマだと思うな。

 それ」


 やっぱりか。




「キャー!!!

 桂華院さまーーーーーー!」

「桂華院先輩かっこいい!!」

「見て!

 また一本取られたわ!!」


 システマが剣道に応用できないといつから思っていた?

 なんて脳内でかっこつけながら私は礼をして面を取る。

 学校の部活にシステマ部なんて無いのでそのまま剣道部の週一幽霊部員となったが、チートボディは見事に両方を吸収してこうして都の大会優勝と相成った。

 なお、翌年の剣道部の新入生の数が凄いことになったのは言うまでもない。




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システマ

 知り合いがはまっているのを思い出してなんとなく入れてみる。

 システマ的な身体の使い方の4つ基本原則は、


 兵站線の維持

 指揮系統の確保

 戦線の維持

 戦略的縦深防御


と言葉をかえるとまんまロシアの戦い方だなとなんとなく納得。


皇居マラソン

 今は有名になったけど、皇居外周は一周約五キロ。

 ちょうどいい運動になる。


いつから思っていた?

 元ネタは『BLEACH』のあれ。

 これがしたかっただけの話だったりする。

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