緊張と決断の会議
デウス・
陰陽師最高戦力十二天将筆頭。
単純な戦闘能力を数値化すれば、最高水準を叩き出す四名が、円卓を囲う形で集結した。
「全員揃ったね」
蘆屋道満。本名、
代々受け継がれて来た蘆屋道満の名を受け継ぎ、現在に至る。
歴代の中でも最強とされており、おそらく唯一、歴史上初めて
決して声を荒げない、怒鳴らない。静寂と静謐の具現化とでも言うべきその人は、まず初めに円卓に就き、他三人を待っていた。
「やはりあなたが最初ですか」
「そしてあなたが次ですね、ミケランジェロ卿」
本名不明、教皇ミケランジェロ。
御年99歳の身でありながら、
事実上、最強の人間と言ってもいい類の人である。
「今回は、ちゃんと来てくれるのですか?」
「多分。そう言うそちらは」
「こちらも……お互い、気難しい部下を持つと苦労が絶えませんな」
「聞き捨てぇ、ならないなぁ。誰が気難しい部下だって? んん?」
十二天将筆頭、貴人。姫廻出雲。
二枚看板を除けば、最強の陰陽師はこの男で間違いない。
「オタクだって納得出来ねぇだろぉ? んん?」
「……どうでも」
十二星将筆頭、獅子宮。クリスティアナ・リリーホワイト。
十二天将最年少、
デウス・
「早く始めましょう、ミケランジェロ
「あぁ、そうしよう」
「珍しく急かすじゃねぇの。何、今日はそんな緊急案件だったっけ? なぁ、あぁ」
「それも含めて話すから……早く、座って」
強者揃いが向かい合う。
もしも本部を大王が襲撃して来ようものなら、真っ先に迎え撃つだろう四人が揃った。
尤も、本部は一般人生活区域と同じ結界で覆われているし、大王もさすがに敵のアジトに乗り込む事は馬鹿のする事と考えているのか、今までに来た事は一度もないのだが。
「まずはミスター・イズモ。この間の大王との戦い、よく持ち堪えてくれましたね」
「勿体ないお言葉でぇす、猊下ぁ。しかし……あぁんな苦戦もいいところの戦いを褒められると、何と言うかそのぉ、ねぇ……?」
「他意はないんだ。謹んで受けなさい、出雲」
「へぇい」
一触即発。
一挙手一投足。一言一句の中に混ぜられた感情は、敬意だけとは言い難い。
敵意や殺意にも似た、同じ敵を見据えているから協力しているだけの古き体勢の残り香が両者の間で燻り、いつ何が何処で殺し合いに発展するかわからない状況。
その場に一兵卒の姿があっても、最後まで立つどころか、意識を保つ事さえ出来なかっただろう程に、空気は淀み切っていた。
「キリがないから、さっさと議題に移ろうか。議題は、今後の方針だ」
「今後とは、どこまで先を言うおつもりかな?」
呆れたとばかりの口調が問う。
組織内最高齢。そして、
それは毎度、議題につまった会議の中で行なわれる雑談のようなもので、抽象的な表現ばかりが集うお遊戯会も同然。
眠気を誘うしかなかったのである。
「そのような曖昧な表現では、老いぼれさえも騙せませんよ。今後、この先、抽象的に過ぎる。もっと具体的に言って頂きたいですな。それで、今後、とはどこまで先の話ですかな?」
何とも説得力のある言葉だった。
普段軽口な出雲でさえ、元々無口なクリスティアナも無論のこと、返す言葉に詰まる。
長く生き残り、責任ある立場を任せられて来たが故にある言葉の重圧に対抗出来たのは、他でもなく、議題を最初に振った道満だった。
「恐怖の大王討伐について……というのも、すまないね。少々言葉足らずで嫌な空気を作ってしまった。順を追って話をしよう」
「……では、話して頂きましょうか」
一応は落ち着いた。
だが、本番はここからだ。
ここで適当な話を続けてしまえば、間違いなく怒りを買う。
それこそ今後の議会を拒否されるような事があれば、最悪だ。
2人の将軍が考える最悪の間で、歴史上最悪の陰陽術師の名を与えられた女は、三本の指を立てた。
「
「ほぉ」
恐怖の大王の側近とも呼ばれる13体。
発見された順番に番号を振られ、いつしか呼ばれた
階級は最高位Sの中でも更に高位かつ特別な数字の8位。過去、幾人もの陰陽師、
「して、どれを潰す」
「
「鋼鉄の処女か」
アイアン・メイデン。
13体の中では1番勝率が高いとされ、過去、将軍を含めた討伐隊が幾度か組まれたが、結果、1番多くの術師を屠った規格外。
血濡れた拷問器具。かのエリザベート・バートリーを思わせる姿と振る舞いから、付けられた個体名がアイアン・メイデン――鋼鉄の処女。
「正気ですかぁ、道満様ぁ。1番勝率が高いってぇ、もう誰も信じちゃいませんよぉ」
「またみんなの士気を下げる。結果は見えてる」
出雲、クリスティアナ共に否定派。
となれば、当然ミケランジェロも乗る気ではない。
これがただの発言ならばここで終了。
後味の悪い最悪の会議に終わったが、道満はここでカードを切る。
「対アイアン・メイデン戦を選んだ理由は以上3つ。1つ、大人数より少人数で臨む方がいい。2つ、こちらの予定期間内、彼女が本部から1番近い。3つ、彼女を破壊可能な術者が十二天将へと昇格した」
出雲は驚愕。
クリスティアナ呆然。
ミケランジェロはまだ何とも言えない表情。
ここで行けると言い切るは早い。
が、言わねばならない。行けるのだと。勝てるのだと。
「十二天将、白虎。金刀比羅虎徹の万物切断術式はここだけの話。過去、彼女と最も戦えていた過去の白虎の術を応用、改良、改竄した物でね。その切れ味は、君が保証してくれるかな出雲」
「……あぁぁ。確かに、実体こそ掴み損ねていましたが、まぁ、大王の霧を切ってましたからねぇ、彼。霧の端に触れる事さえ難しいってのに、よぉく見たら切ってるから驚きましたよぉ」
「それ、ホント?」
「ホントも本当、マジホントぉ」
「それが本当なら……確かに、今までよりはまだ、勝算が、高い、かも……?」
道満のカードは切った。
2人の筆頭は好感触。権威の影響もあるだろうが、2人は根気よく説得すれば、まだ納得して貰えそうなところまで来た。
残すは目の前の教皇1人。
自分達にはない経験値の高さ故、思考の尺度が違っている事がままある。彼を納得させるのは、容易ではない。
「だが、彼は最近療養期間が開けたばかりだろう。それに、まだペアを組んで日も浅い。早計ではないのかね」
「それは御尤も。故に未だ、ペアとしてのコンビネーションも確立されているとは言い難い状況です。そこで白虎の組はブルーエメラルドに遠征へ行き、長期任務をこなして頂きます」
「長期任務……なるほど。だから、アイアン・メイデンなのか」
「それもまた、第4の理由と言えましょう」
沈黙。
一息置いて、ミケランジェロが十字を切る。
「よかろう。ブルーエメラルドへの長期任務は認める。だがそこで使い物にならなければ、アイアン・メイデン攻略は中止とする。幾ら個体が強くとも、協力も出来なければ話にならぬ」
「妥当な落ち所だね」
「当然だろう。相手は魔性などという括りから抜けた、殺戮兵器なのだからな」
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