敗走、帰還。そして治療
デウス・
その報告に組織は震撼したものの、相手が恐怖の大王と知ると逆に落ち着きを取り戻した。
大王になんて勝てる訳がない。
そんな潜在意識があろう事か、大王を倒すために創設された組織内部で浸透している矛盾を示していたが、叱責する者も誰もいない。
今回も大王は倒せなかった。そうした報告が1000年、続いて来たのだから。
# # # # #
「今回も失敗ですか?
「……
ベッドに寝かされ、大量の管に繋がれた
敗走でも敗北でもなく、失敗と言った彼女の言葉選びに、道満は若干の苛立ちを覚えた。
「素質のある子供達を集めて、蟲毒のように競わせて、生き残った子供に施術して、生きる兵器と化す……もうこれで、何度目です? 失敗。初号機はまともに稼働せず、以降は暴走傾向にあり、落ち着きを取り戻したと思えば今度は戦力不足。いい加減、諦めるべきなのでは?」
「だから、彼で最後さ。これ以上不毛な実験を繰り返しても、何の成果も得られない。この芦屋道満が手掛けた最初で最後の機体。それが彼だよ」
「だから十二天将、白虎まで与えたのですか? 貴人に次ぐ四天王が一角の座を、我が子可愛さで与えたのですか? 先輩、彼に肩入れし過ぎじゃないですか?」
大王の討伐失敗は、もう今更の事だ。
しかしそれは組織全体ではの事であって、各個人の胸の内はそうとはいかない。
普段は先輩を立て、反論も反抗もしない晴明だったが、この時ばかりは自分の立場も面子も忘れて、もどかしさから来る怒りに呑まれていた。
「先輩。これは育成ゲームとかじゃないんですよ? 推しの子を成長させる遊びじゃないんですから、真面目に取り組みましょうよ。毎度毎度厖大な時間と予算を削って、本来なら与えるはずもなかった称号まで与えて、あんな中二病発症患者の何処が良いんですか――」
後悔した。
己が軽はずみな言動を。
失敗した。
喧嘩を売る相手を選び損ねた。
胸に描かれた
「苛立つのもわかるが、言葉選びには気を付けな。力不足というのなら、虎徹より先におまえだろう。晴明。まさかおまえ、先代と自身が同格などとは、考えていまいな……おこがましいぞ」
道満は決して怒鳴らない。声を荒げたりしない。
大声を出しているところなんて見た事がないし、彼女の大声を聞いた事もない。
が、だからこそ響く。
諭すように、落ち着かせるように、言い聞かせるように鼓膜を揺らして来る静かな怒りが、頭に乗るなと警告を発す。
「安倍晴明と蘆屋道満。同格の二枚看板とされながら、人知れず、安倍晴明の名を受けた方が実力的に上とされているが……実際、今の私達では、どうなんだろうなぁ」
「えっと……」
「なぁ、芦田? 役不足なのはどちらだ? 力不足なのはどちらだ? 何なら今ここで、ハッキリさせようか。なぁ、芦田?」
「……! ご、ごめんなさい先輩……失礼、します……」
道満がそんなにも怒ると思っていなかったらしい晴明は、そそくさと逃げ出していく。
丁度そのときに治療室からコールが鳴り、道満は虎徹の姿を見下ろしながら、揺れる受話器を手に取った。
『討伐達成ならず、申し訳ございませんでした』
「……開口一番、それか。君以外に怪我人が出なかっただけ、まだマシだよ。寧ろよく戻ってくれたね。ご苦労だった。傷口の洗浄も済んでいるから、しばらくしたら自室で休みなさい」
『了解しました』
起き上がる体。
胃、生殖器官を摘出するため、体に残った手術跡。しかしそれ以上に、体中の至る箇所に残った生々しい傷跡は、魔性によるもの以外にもあった。
それこそもっと幼い頃。彼が金刀比羅虎徹になるより前から、他でもない彼らによって刻まれた、痛々しい古傷が。
古傷を見ると思い出す。
彼女がまだ道満の名を与えられるより前。陰陽師ですらなかった彼の幼き頃。
初めて出会った少年と青年は、朽ち果てた魔性を間に挟み、向かい合う形で立ち尽くし、魔性の体液を滴らせていた。
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