第5話 転生しちゃったよ

 俺の発言に島本が反応する。

「これ?鏡がってこと?そうか。君、海外に売られそうになってショック受けて記憶喪失になった?大丈夫?君の義父は人身売買で逮捕になったよ。で、君は退院したら養護施設に行く手配になっているから」

島本は俺の頭を撫でながら言った。本当の意味で、あのクソ閻魔大王のせいで面倒くさいことになった。

 俺が美少女になって、俺の本体はどうなったのだろうか。

確認しなければいけない。その前に俺が転生?してしまった白石しらいし喜和子きわこはどんな人物なのだろうか。

「島本さんだっけ?俺、いや、私の家族って」

「君の家族?」

「はい」

「確かね、これだね」

島本は自身のカバンから何かしらの書類を取り出す。

「えっと。君は他界している白石みわこの子供で、年齢は七歳。小学校一年生かな。君を売ったのは義父の白石しらいし義隆よしたか。コイツはみわこさんがなくなってから借金をしまくり、君を反社のモトミヤ会に売った。今回、モトミヤ会が外国に君を含む若い子供を売り飛ばそうとした矢先、船が沈没したんだ。辛うじて君は命が助かり、モトミヤ会摘発と、白石義隆は逮捕となったわけだ」

「そうなの」

「ああ。そうだよ。君は運がいい。他の子もいたんだよ。でも、君だけしか助からなかった」

島本は俺を指差してきた。やけに島本が胡散臭くて俺は変な顔をする。

島本はニヤニヤと笑う。その笑いが気に入らず俺は島本に食って掛かる。

「島本さんは何でそんなに笑っているのですか?」

「なぜって?それはね。面白いから」

「面白いって」

「うん。面白いよ。中川くん」

「!」

いつの間にか島本の見た目は江間川大輔になっていた。俺は江間川を見てため息をつく。江間川は笑いながら俺の肩を叩く。

「いやーどう?美少女になった気分は?」

「どうにもこうにもない。俺の身体はどうなっているんだよ」

「どうって?ああ、大丈夫だよ。今、君の身体はまだ生きているよ。勿論のこと目は覚ましていないけど」

「どういうことだよ。それにお前」

「ああ、この状態のこと?これは一時的に島本の身体を借りているだけ。そうだね、さっきの喜和子ちゃんの説明している辺りからね」

「それは解ったから。つか、お前、俺を元の身体に戻してくれるんじゃなかったのかよ」

俺は江間川の服の襟を掴み、揺する。7歳の身体では力が足りず、びくともしない。江間川が笑う。

「っはははは。本当、面白い。女性を酷い目に遭わせていた君が美少女に。こんなに面白いことはないよ。俺、中々、いい仕事したっしょ。君も女性の苦痛を味わえばいいよ」

俺は江間川に何かを反論しようと思ったが、江間川の顔は島本に戻ってしまった。

「え?どうしたの?恐い顔して」

「あ、いや、別に」

「心細いよね。小学校一年生の君がこんな目に合うなんて」

島本は俺がショックを受けているように見えたらしい。頭をゆっくりと撫でる。

なぜか俺はその手に安心した。島本は自分語りを始める。

「僕もね、実は本当の親に育ててもらえなかった。養護施設に入って、仲間と供にNPO法人を立てたんだ」

島本の優しい手が離れる。俺は白石喜和子が少しだけ可哀相に思えてきた。

母親に先立たれ、義父に売られた。俺の器に入れられた白石喜和子は今どうしているのだろうか。恐らく目覚めていないから眠っているだろう。

「大丈夫だよ。君は僕たちが守るからね。じゃあ、また来るね」

島本は病室を出て行く。看護師の女性が入れ違いでやってくる。

看護師は俺を見るなり優しい目で見つめる。今の俺は小学校一年生の少女か。全く実感がないが、そうなのだろう。

「大丈夫?さっきNPOのお兄ちゃん来ていたね」

「はい」

「これから大変だと思うけど、あのイケメンのお兄ちゃんが助けてくれるからね」

「そうですね」

「喜和子ちゃんは美少女だからこれから将来、玉の輿もイケるかもしれないね」

「あはは。どうも」

よく美人薄命と言ったものだが、もしかしたらこの白石喜和子もそうなってしまいそうになったということなのだろうか。仮に売られていたとしたら、ロリコンどもに愛玩にされていた可能性もある。それはあまりにも可哀相に思えてきた。

そんなことを思っていたらお腹が空く。

「お腹すいたよね。もうすぐお昼だからね」

看護師は俺の点滴を片付けると、病室から出て行った。

これからどうなるのだろうか。あの江間川だから、元の姿に戻す気があるとは思えない。

俺はきっと、このまま白石喜和子なのか。

最初は絶望的思えたが、妙にこの身体が馴染んでいくような感覚がある。

俺は白石喜和子になっていくのだろうか。じゃあ、俺自身、中川劉は消滅していくのだろうか。

そんなはずないと深く考えるのを止めた。

確かに、元の身体の中川劉に戻ったところで俺に居場所なんてあるのだろうか。

その不安に俺は飲み込まれそうになった。

俺は不意にテレビに気付く。

「あの、テレビって見られますか?」

「テレビ?ああ、これね。つけるね」

看護師はチャンネルを持ち出すと、電源を入れる。テレビ画面が浮かび上がった。MCの中年男性が騒がしげに喋っている。

『ねぇねぇ。中川君、大丈夫かね』

丁度話題が俺たち「ダウト」の話題だった。

【ダウト解散発表直前で、中川刺され入院】という見出しが出ていた。俺が刺されてから、この身体に転生するまでに時間が大して経過していないのか。

MCの中年タレントは確か、坂下さかした公男きみお。元々は子役としてやっていたが中年になりMC業をやっている。

何度か奴の番組に出演したが、不快な男だ。

坂下は俺を目の仇にしている感じがした。理由は恐らく俺の素行だろう。

かつても俺のスキャンダルにあること、ないことを吹聴していた。

『相方の岩崎君はどうしているのかな。何か新しい相方と結成するとかしないとかで』

坂下は面白がっている。こいつは俺が死んだものとして話を進めているらしい。非常に不快で仕方ない。

俺はテレビを消そうと思ったが、看護師が話しかけてくる。

「喜和子ちゃんはダウト、どっちが好き?」

「え?」

「ダウトって知らないかぁ?今話しているグループだよ。中川なかがわりゅうと、岩崎いわさきたかしのコンビのお笑いグループだよ。私は隆かな。だって劉って顔すごくイケメンだけど、女遊び酷いし。刺されたのは可哀相だけど」

「へぇ」

俺はあからさまに現実の声を聞きと少しゲンナリした。目の前の看護師の減らず口も同時にイラついた。

俺自身の評判が良くないのは解っている。この身体に転生する前に聞かされた。

俺の表情が変だと思ったのか、看護師が俺を見た。

「あ。もしかして、喜和子ちゃんはりゅうしだった?」

「推し?別に。ただ、刺されたみたいで可哀相だなと」

「そっか。まあ、そうだよね。喜和子ちゃんは優しいね」

 優しいとか言う看護師が若干じゃっかん鬱陶うっとうしく思えてきた。俺はわざとらしく上目使いをする。

「お姉ちゃん。お腹すいたぁ」

「そうだね。もって来るね」

俺が上目使いで甘えた素振りで言ったら、看護師は病室から出て行く。

中々にこの外見は使えると俺は確信した。この美少女はどれだけ良い外見しているのだろうか。

俺は鏡を引き出しから出す。

改めて白石喜和子の外見を見たが、中々な美少女だ。

俺は好みじゃないが、多くの人が好ましく思う見た目には違いなかった。

俺はベッドに横たわり、テレビをぼんやりと見る。

坂下が楽しそうにしている姿は中々に不愉快だ。チャンネルを変えようとすると、

坂下が隆の話を始める。

『あ。そうだ。岩崎君に会ったよ、この間』

坂下の言葉に出演者が身を乗り出してくる。俺自身もその言葉に目が離せなくなった。

坂下はにやにやと笑う。俺はそれが癪に障ったが、次の言葉を待つ。

『「中川君がヤバイことになったけど、岩崎君はどうしてる?」みたいな感じで聞いたらさ。「劉は心配ですが、ダウトはもう解散なのでどうにも」みたいのを無表情で言ってたよぉ。仲が悪いのは本当なんだね』

坂下は面白そうに言って笑った。改めて癪に障る奴だと思った。

こんな奴が人気の司会者というのが全く理解できない。民衆というのはバカばかりなのかもしれない。

俺はテレビを消した。隆は本当に坂下に会ったのだろうか。俺は横になる。

その後、看護師がご飯を持ってくるついで何かを言っていたが、俺が無視を決めていたら静かになった。

 

転生しちゃったよ 了

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