第4話 閻魔大王なんているのかよ (下)
俺が江間川に視線を
「中川。お前、やっぱ、まだ死んでない」
「そうなの?」
「うん。この書類見て。病院でこん睡状態ってある。でさ、君としてはどうしたい?」
「は?」
「うーん。だから。君はこのまま、
「は?意味分からんのだけど。そんなの元のほうがいいだろうが!」
「あーはいはい。中川君。君、そんな態度でいいの?俺、こう見えて神様からの絶大なる信頼を得ているわけ。だから、俺への態度で君の運命なんか簡単に決めることができるの?わ・か・る?」
江間川は俺の顔を睨み、嫌みったらしい表情だった。
こんな奴が神様に信頼されていることのが可笑しく思えた。
というのも昏睡状態の俺を勝手に死亡にして、天国や地獄に送ろうとしていた奴だ。
世も末どころか、絶望しかない。神様が俺に絶望というプレゼントを寄越してきたようなものだ。
「くっそ」
「クソね。君のほうがクソ。君は女性の敵」
「は。女性の敵ねぇ。江間川さんってモテなさそうだもんね」
「っふ。今のうちだよ。俺にお願いすれば、元の身体に生き返らせてあげる。歯向かうならば」
江間川は俺を睨みながら牽制する。江間川の目は恐かった。
「わかったよ。江間川様。俺を元の芸人の中川劉に戻してください」
「よろしい」
「ありがとうございます」
「なんのその。じゃあ、目をつむって」
俺は江間川の言われた通りに目をつむる。俺は江間川が近づいた気配を感じた。
江間川は俺の両肩を掴み、座るよう促す。俺はその通りに座る。江間川は何かを唱えている。
「万物の神が宿りしとき、器に戻る」
江間川がそう言うと、ゆっくりと身体が軽くなっていく。
身体が浮いた感覚がしばらく続く。その状態が一分くらい続いてから、江間川が俺を座らせる。
江間川は俺にゆっくりと目を開けるよう促す。「いいか。ゆっくりと目を開けろ。現実世界に戻れる」と言った。
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俺がゆっくりと目を開けると、見たことのない天井が広がっていた。恐らく、ここは病院だろう。
「……え?」
「目覚めた?」
俺の隣にいる人は全く見たことのない人だった。恐らくは30代くらいの男性で短髪。
爽やかで嫌味のない人だった。けれど、どうにも俺はこの爽やかさが
仕事の仲間でも関係者でもない。
「君は海外に売られそうになったんだよ」
「は?」
「そうか。ショックだよね。義父とは言え、自分の父親に売られるとはね」
「あの、何を言っているのか」
この人は一体、何を言っているのだろうか。ネタを振っているのか。
だとしても悪質すぎる。病人の前までお笑いをやれってことか。それとも俺がダウトの中川劉と気付いていないのか。
「あの。何のことだか。俺はダウトの」
「ダウトってあれ?お笑いの?僕も彼らのファンなんだ」
「はい?」
俺はこの男が何を言っているのか解らなかった。目の前にいるのが俺だと気付かない。どういうことだ。
「まあ、ツッコミの中川君ってカッコイイしね。君くらいの年齢のコだと憧れるんじゃない?」
「あの。俺」
「さっきから君、俺って言っているけどボーイッシュな感じなの?」
「だから何だよ!あんたは!」
「ごめんごめん。僕はね、NPO法人のこどもセイバーの
「白石喜和子?」
「そうだよ」
俺は思わず自分の顔を触る。肌の質感が滑らかできめが細かい感じがする。
ベッドの布団から浮かび上がる自身の足の長さが短い感じがした。俺は一気に布団をめくった。
手術胴着から見える二本の足は小さく、長さはやはり短い。
俺はこの短時間で理解した。これは江間川により、本当の身体に戻されたのではなく、少女に転生させられてしまったようだ。
「あのさ。鏡ない?」
「え?鏡?」
「そう鏡」
島本は引き出しの中から鏡を出し、俺に手渡す。俺はその鏡に映った姿を見る。
髪の毛はおかっぱで目鼻立ちがはっきりとした美少女だった。
「は?」
「は?って君どうしたの?」
「つか、これ」
閻魔大王なんているのかよ (下) 了
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