第47話

 フウカが黒災に飲み込まれ、辺りがシンと静まり返る。さっきまで溢れていた人々の悲鳴すら消え去り、まるで音が吸い込まれたようだった。


 いつの間にか隣に立っていたミオも呆然とフウカを飲み込んだ黒災を見ている。周りの黒災は、なくなるわけでもなく、ただ時が止まったかのように成長をしなくなった。



「……ミオ、今のうちに燃やしてくれ」



「えっ?」



 今フウカがどうしているのか俺達には見えない。でも新たに黒災が現れなくなったのは俺たちにとって好機だ。今の間に、燃やさなければ。



「何が起きているかはわからないが、きっとフウカが止めてくれてるんだ。だから燃やしてくれ、全部」



「でも……」



 ミオがためらっているのは、フウカのことがあるからだろう。俺が首を横に振ると、彼女は何かを察したように頷き、深く息を吸い込む。



「バーナーを手に取れ! 黒災が動きを止めている今のうちにすべてを燃やせ!」



 ぽかんと口を開けて静まり返った戦場を眺めていた隊員たちが、ミオの声で目を覚ましたように体を震わせた。咆哮をあげ、足元に取り落とされたバーナーを手に取り、広がった黒災を燃やしていく。


 長い時間がかかって、最後に残ったのはフウカの取り込まれた黒災だった。中に怪物がいることも相まってか、隊員たちはバーナーを向ける手を躊躇する。



「いいんですね……隊長」



「今は、あの怪物の動きも止まっているだろう。あれが動き出す前に早く燃やした方がいい」



 俺がそう言うと、ミオが合図を出し、黒災に炎が向けられた。ひときわ巨大なそれが、じわじわと火にむしばまれていく。


 気づけば、頬に涙が伝っていた。心臓が苦しい。娘を二度も、黒災に奪われるなんて思っていなかった。


 黒災が3分の1ほど燃えたところで、あの怪物が姿を現した。隊員たちは皆一瞬怖気づき、恐る恐るバーナーを向けているのがわかる。けれどその怪物の足に炎がまとわりつき、勝てると確信したのか彼らは今一度歓声を上げた。


 怪物は抵抗することなく、こちらを見ることもなく、ただじっと炎に身を任せていた。


 十数分が経って、辺りには怪物を燃やしたことで出た大量の灰が浮遊していた。風も吹かず飛んでいかないため、ゴーグルに張り付いて視界の邪魔をする。周りを見るのも一苦労だった。

ひとつはっきり言えるのは、あの怪物はもういないということだ。辺りには、黒災のせいで地面が荒れた草原が広がっているのみである。


 地面に燃え移った炎が消えきる前に、俺はフウカのいた場所へと走り出した。ゴーグルの灰を擦りながら走るうちに視界が真っ黒になっていった。


 煩わしくなってゴーグルを外す。ほとんど変わらない視界の中、ひときわ荒れた地面の上に、横たわる少女の姿が見えた。


 フウカだった。

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