第46話
真っ暗で、静かで、懐かしい空間。ママの中だ。一瞬自分は人間に近い体になったのだから、ママの中に戻ったらぐちゃぐちゃになってしまうのではないかと思っていたけれど、体は形を保っている。やっぱり私は人間じゃないんだ。
目の前には、ママが私の弟と呼んだ彼がいる。私のように人の姿ではない、人になりきれなかった獣のような彼の目が、私を見ている。
いや、これは、ママの目だった。
「どうして、邪魔をするの」
何度も何度も頭の中で聞いた声が鼓膜に響く。彼が話しているのは、ママの言葉だ。彼は自我もなく、ママに体を乗っ取られている。
ママは、本当は私たちを自分でママのために動く“子供“にしたかったのだろう。でも私のときにそれは失敗した。だから、弟はこうやって操られている。
私がママの思う通りの子供になっていたらよかったのだろうか。でも私がそんなことになっていたら、パパたちと出会えていない。そんなのは嫌だった。
「みんなと一緒になりたいでしょ?」
ママは、黒災でみんなを取り込んで、一つにしようと考えている。そこに理由なんてない。だってママは、私たちは、そういう存在だから。
ママを裏切ったのは私の方だ。悪いのは私だから、私がここでママを止めなくちゃいけない。
「私は、パパを、みんなを殺してまで一緒になりたくない」
ママの感情が、信じられないというように揺れたのがわかった。心の中がちくりと痛む。私はママの行為を認められないけれど、私が生まれてからずっと一緒にいてくれたのはママだ。
ママがいなかったら、パパともシグレともナオヤともゴウとも出会えていなかった。私はずっと、ママとふたりぼっちだった。いずれみんなが、世界が、1つになってしまうとしても。
外の音が聞こえない。パパは私たちをちゃんと燃やしてくれるだろうか。ママは狂ったようになんで、どうしてを繰り返している。
そのときふと、ママのほかにもう1人の気配があることに気が付いた。弟だ。彼はママに操られているけれど、その存在が消えたわけではないのかもしれない。
「ねえ、あなたも嫌だったら嫌だって言っていいんだよ。ママの言うことを全部聞かなくたっていいの」
真っ暗闇の中で、もっともっと暗い瞳が一瞬揺れたような気がした。その瞬間、ジジ、と何かの燃える音がして、足元から赤色と熱気が入り込んでくる。ママの悲鳴が聞こえた。
気づけば頬を涙が伝っていた。自分で決めたことなのに、やっぱり死ぬのが怖い。パパたちに会えなくなるのも嫌だ。
でも自分が頼んだのだ。万が一パパに泣いているところを見られないように俯いて顔を覆う。明るくなってくっきりと姿の見えるようになった弟が、一歩こちらへと近づいた。
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