仏間の隣

 天井から吊るされた電灯の豆電球がぽつりと灯っている。


 高い天井からすっと伸びたコードが電灯に繋がっているが、

 オレンジ色の淡い光は狭い範囲を照らすばかりで部屋の隅には闇が溜まっている。


 私は目を向けた。音のする方へ。

 もう何度目だろうか、止んだと思えば始まり、暫く続いて止まる。

 音は隣の部屋から聞こえる。


 父の伯父が無くなり父と愛犬と共に久々に福島へ帰省した。伯父は近所に住んでいたため、近所の斎場で葬儀が執り行われた。

 この家は最後に祖母が住んでいたが、祖母が亡くなってからは住む者が居ない。


 和室が三つ連なっている。一つ目の部屋に父が床を取って寝ている。

 続いて仏間、その先の和室に私が今寝ている。

 隣の仏間に顔を向ける。そちらから音がするからだ。

 ぶぶっぶぶ  ぶぶぶぶ  ぶぶぶぶ ぶっぶぶぶ

 木製の机の上で携帯のバイブレーションが震えているような音だ、

 私のスマホは枕元にある。

 父がわざわざ仏壇に携帯を置くわけが無い。父の部屋から響いているとしては音が近すぎる。夜更けに鳴っている理由も思い当たらない。

 音を止めに行こうとも思うが、思いとどまる。理解の及ばない事象を人は怪奇と呼ぶからだ。私は布団を被って朝を待った。


 朝、父にそれとなく携帯をどこに置いて寝たのかを訪ねるとリビングの畳の上だと言われた。それは私の寝ていた部屋から最も遠い部屋だ。

 昨晩の奇妙な音の話をすると、父はやっぱりとだけ言って席を立ってしまった。


 次の晩、私は愛犬をケージから出して布団の中に引き入れた。

 犬種はミニチュアシュナウザーだ、体温が高く布団の中で暑そうに舌を出していたので布団から出してやった。

 父の布団と私の布団を行ったり来たりしていたが、暫くすると私の布団の上に丸まって落ち着いた。

 私は愛犬を撫でながら眠りについた。


 夢現、犬の吐息が聞こえる。歩く爪が畳を叩く音がする。

 私の頭の周りを行ったり来たり行ったり来たり。

 鼻先が髪に触れる。

 撫でてやろうと動かした腕に愛犬が触れた。

 布団のうえ、丸まった姿でそこにいる。


 私は怖い。布団の上か、頭の上か、どちらが怪異なのか。

 朝は遠い。






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