お盆におじいちゃんが来た

 これは怖い話なのか分からないが、僕が実際に聞いた話だ。


 僕の両親の実家は福島の西会津と言う片田舎に有る。

 帰省の際には数時間掛けて高速道路を走り、一般道に降りてから

 更に街を抜けた山の中だ。

 目の前にはダム湖があり、住人以外は寄り付かない土地だ。


 2010年頃、その田舎で祖父と祖母は二人で暮らしていた。

 祖母はガンを患っていて入退院を繰り返していた。必然的に祖母が先に死に

 祖父の面倒をどうやって見て行こうかと家族が考えていた。


 しかし現実は何が起きるか分からない。

 年が明けて早々に祖父が交通事故で死んだ。

 普段は見通しの良い交差点だが、除雪によって積まれた雪で曲がり角は死角に

 なっていた。信号機は黄色の点滅を繰り返すだけの交差点だった。


 祖父は50ccカブ、相手は軽トラックだった。

 お互いに一時停止を怠り衝突した。


 弟と現場を見に行ったが、アスファルトには事故で出来たアスファルト傷と

 祖父の取れない血痕が残っていた。

 花でも手向ける気遣いが有れば良かったが、男二人で暫く点滅する信号を無言で

 見つめた。


 祖父の葬儀で号泣する若い男を見たが、今思えば彼が事故の相手だったのだろう。


 その年の盆に帰省した。

 初盆のため父は先立って福島に入っていた。

 僕らが到着して落ち着くと他愛の無い近況報告を祖母を交えてした。

 話の途中で父が困ったような顔をして、ばあちゃんが、、、と始めた。


「ばあちゃんが見たんだって」

「何を」

「じいちゃんを」

「どこで」

「玄関に立ってたって」


 真昼間、ばあちゃんが居間に座っていると、いつの間にかじいちゃんが

 玄関に立っていたそうだ。じいちゃんは家の中を見渡すと何も言わずに

 消えてしまった。


 ばあちゃんが嘘を言う理由も無いし、僕が「本当に?」と聞き返して、頷いた祖母の潤んだ瞳に嘘は無かった。


 お盆には故人が本当に帰ってくるのだと思う。

 その後すぐに祖母は亡くなった。あのとき、じいちゃんは婆ちゃんを迎えに来たのかも知れない。


 二人なら黄泉路も心強かったろうに、僕もそうありたい。


                了

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