お母さんETがいるよ
私の実家は新潟で米農家を営んでいる。
私たち家族は東京に住んでいるがお盆の時期は必ず帰省して新潟で過ごす。
今年も例年通り実家に帰省した。
娘と夕涼みを兼ねてあぜ道を散歩する。
オレンジ色に変わり始めた空を眺めながら、カエルや虫の声を聞きながら歩を進める。歩くたびに道端のカエルが田んぼへ飛び込んで逃げていく。
娘はそれを面白がって走って追いかけていく。
稲穂を撫でた風が私たちに触れていく。
涼しいなと稲穂の水平線を見渡すと80m程先に不自然に林がそそり立っている。
林の周囲数百㎡は全て田園で有るのに、そこだけ木々が残されている。
陽が落ち始めているとは言え、林の中は既に光が届かない。あれだけ木々が鬱蒼としているのだから、蝉の声でも聞こえてきても良さそうなものだが閉じられた箱のように音が漏れて来ない。まるで絵に描いた木々のようだ。
相当な昔は全てが森だった場所なのだろうが、先祖達が何世代もかけて、開墾して耕し農地に変えた場所。しかし、どうしてそこだけ林が残っているのか?
昔、死んだ母に言われた事を思い出した。
「あんたあそこには近づいたらいけないよ」
「なんで?遊びに入りたい」
「あそこはね、飛び地って言って神聖な場所なの、だから無暗に立ち入るとバチが当たるから入ってはダメよ」
私は母の言葉を信じていた訳ではないけど、同級生も皆同様に親から禁止されていたから無下には出来ず言いつけを守って大人になった。
一応、娘にも同じことを言い含めると、娘は林を見つめたまま暫く黙った。
私の手を取って娘が見上げて行った。
「ETが居るのね」
「え?」私は返答に困った。
昨晩TVで見た映画に影響されているのだろう。ETが納屋の陰から顔を出すシーンを娘は想像しているのかも知れない。
「居るかも知れないね。だからそっとしておいてあげようね」
適当に話を合わせて、近づかないように促す。
「うん。お友達もいるから寂しく無さそうだもんね」
娘は林を見つめて言う。
その晩、父が所属する消防団に緊急収集がかかった。
私が理由を訪ねると父は懐に御札を忍ばせながら振り向いた。
「飛び地で首つりが出た。仏さんは二体だ」
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