間違い電話
携帯電話が震えている。
また知らない番号からだ、携帯に登録の無い番号からの着信なので液晶に番号で表示されている。その下に発信先の都道府県名が表示されている。『高知県』と。
茨城出身の僕には高知に親戚も友人も居ない。ましてや仕事の付き合いのある人間も思い当たらない。だからこの着信には出ないでいた。先週も掛かってきたが、今週だけでも三回目だ、さすがに気になって携帯を手に持って番号を睨む。
一向に震えが止まらないので「えいっ」と決心を決めて出てみる。
お婆さんの声が聞こえた。
「もしもし、私です。いつ来れますかぁ、誰が来れますかぁ」
名乗りもせずに一方的に問いかけて来る。
質問の意味も分からないので「すいません。人違いです」そういって切った。
もう掛かって来ないだろうと思っていると二日もするとまた着信がある。出てみる。「もしもし、私です。いつ来れますかぁ、誰が来れますかぁ」
同じ事を聞いてくる。埒が明かないのでこちらから質問してみる。
「誰が来て欲しいですか」
「3人のうち誰でもいいですよぉ」
偶然だろうか、我が家には三兄弟がいる。
「一馬でいいですか」
試すつもりで長男の名前を言ってみる。
「はいぃ いいですよぉ」
電話は切られた。
その晩から一馬が帰ってこない。町内全員で探すが見つからない。
僕はバカバカしい電話のやり取りなんて不安と心配で一切忘れてしまっていた。
沢山の人から電話が来る。嫁、会社、友達、同僚、警察、消防団、高知県。
反射的に取った電話の奥からお婆さんの声がした。
「一馬きましたよぉ」
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