この蠟燭が消えるまで

語理夢中

二人乗り

 この町には交通量の多く事故も多い交差点がある。

 警察も注意喚起を行い未然防止に努めているが一向に事故は無くならない。


「アリサ、あなた高校はどこにする気なの?そろそろ決めないと」

 アリサは母親に問われても気のない返事を返すだけで流れる車窓の景色を

 眺めていた。

「ほら、あの制服の高校ならいいんじゃないの」

 母親が指を指す方に高校生が自転車で同じ方向に並走している。

 アリサは目をやっただけでまた気のない返事を返した。

「でも、あそこはダメね。どうどうと二人乗りしてる」

 高校生は自転車の荷台に私服姿の少年を乗せて走っている。

 荷台の少年は必要なまでに高校生にしがみ付いている。高校生も荷台に人を乗せているせいか、前傾姿勢で力いっぱいに自転車を漕いでいる。

 車は前方の車の減速に合わせてブレーキをかけた。前方で大型トラックが左折を開始している。

 並走していた高校生は変わらずにペダルを力いっぱいに漕ぎ続けている。

「えっちょっと!」

 エリカが高校生を見て声を上げた。

 母親も目をやると高校生はトラックを目がけるように自転車を漕ぎ進めている。荷台の少年もそれを止める様子がない。

「ねぇ!トラックいるよ!」

 二人は声を上げたが少年はそのままトラックの後輪に消えた。

 見るに絶えず二人は瞼を固く閉じたが、その分研ぎ澄まされた聴覚が現実を知らせた。

 潰れる自転車のフレームが軋む音、その合間に血肉が爆ぜる音が混じり、太い枝が折れるような音が一斉に鳴った。刹那トラックのブレーキ音と共に肉を引きずり潰すスリップ音。一瞬の間を置いて周囲の車から全員が下りて来て駆け寄った。

 そして全員が同じことを思った。『もうだめだ』と。

暫くして警察から二人は目撃内容を聞かれた。高校生が並走していたこと、二人乗りをしていたこと。止まることなくトラックに飛び込んだことを話した。


 数日発ってエリカの学校からも事故の内容説明が朝礼であった。あの痛ましい事故で高校生は亡くなったそうだ。原形を留めないほど遺体の損傷が激しかったそうで、即死だったろうと朝礼で校長は言った。そして校長は続けた。

「一人の未来ある少年の命が一瞬で奪われた痛ましい事故だと」


エリカにはあの事故で荷台の少年が助かったとは思えなかった。

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