第3話 死後の星

 暗黒の中、緑や青や金色の明滅が無限の広さを持っているのではないかと思われる空間に無数に浮かんでいます。

 私も気がつけば、水流に乗った様に金色の流星として闇を素早く流れていきます。

 あれ、私の人生は一巻で終わったはずなのに。

 これは死後の世界なのかしら。

 三途の川とはまるで違う光景ですが臨死体験とはその体験者の宗教観、民俗が色濃く反映されると聞きますので、特に特定宗教への信心がない私にとっては死後の世界とはこの様なものなのでしょう。

 同じ速さで流れる金色の流星が傍らにもう一つあります。

 ああ、あれは朝霧蘭丸先輩の魂なのだ、と私は特に前知識もなく確信しました。

 二つの黄金の星は永久にその場に留まっているだろう明滅とは違って、まるで目的地がある様に流れていきます。

 あら、前方に現れた二体の人影は何なのでしょう。

 こちらに疾く接近してくる二体の姿は他の存在とはまるで違い、人の形をしていますわ。

 見つめれば甲冑の騎士。全身をくまなく覆った金属の鎧で相貌は兜の面頬で見えず、二人とも何者なのか解りませんわ。もっとも私は死後の世界に知己はいないはずですが。

 その二人の騎士がそれぞれ担いでいるのがその姿に似合わない柄と刃の長い黒い大鎌。

 もしかしたら、あれが死神というものなのかしら。

 でもそれならば既に死んでしまった私達に用はないはず。

 そのシルエットが見る見る内に近づいてきますわ。

 大きく振りかぶった二つの長い大鎌はまるで空間を斬る如く、私と朝霧先輩の魂に向かって一気に振り下ろされます。

 何かよく解らないけれどヤバいムードがぷんぷんしますわ。……かわせ! 自分!

 一心に集中すると光る流星たる私の位置はついと流れ、危機一髪のタイミングで大鎌をかわす事に成功しました。

 どうやら朝霧先輩の方も同じくついと流れ、一つの大鎌が振り下ろされるのをかろうじてかわしました。私と同じ事を考えているのかしら。

 すれちがった二つの影は急反転して私達を追ってきます。

 一体、何なのかしらと私が思っていると流れゆく私達の前に流れの終点が見えました。

 それは暗黒の空間の窓の如く開いた有形の二つの穴。それぞれによく似た赤子の形をしています。産まれたばかりの無防備なシルエット。

 赤子に向かって私達、流星の速度は速くなり、大鎌振りかざす騎士を振り切って左右に並んだそれぞれへと吸い込まれていきます。怖くないかと問われれば怖いですけど、私は後ろに迫る二つの謎の騎士より離れられる安心の方が強くありますわ。

 赤子のシルエットに私の流星が飛び込むと、暗黒が反転して周囲が眩しいほど光の世界となります。

 すぐに光の世界は落ち着き、周囲は室内照明の柔らかな光に照らされる落ち着いた光景となりました。

 そして私はおくるみをまとって小さな揺り寝台の寝かされた金髪縦ロールという赤子の眼と耳で新しい世界を知るのです。

 転生ね? これが異世界転生なのね?

 私のスマホに入っているライトノベル『異世界転生したらチートでハーレムでラッキースケベの猫耳美少年メイドだった!?』他、沢山の転生物でさんざん勉強してきたから解りますわ!

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