第28話 食事④
さらに別の者はあまりの酷さの食事に手をつけることなく、長時間経っていたことから飢餓状態がひどく、記憶も飛んでいたためその近く部屋にいた当事者では無い者の証言だった。どうやら食事を運んできた研究者に無理やり食べさせたらしい。というのも部屋の外が見れるわけではないから、声だけ聞いていたというのだ。
「これがご飯って言うならあんたも食べなさいよお!! こんなとりあえず栄養取れてりゃ大丈夫だろ的な、必要最低限のモンぶち込んで煮込んだだけのクソ不味いべちゃべちゃした物体ばっかよこしやがって! ホラどぉ? 不味いでしょぉ?! こんなの食べんの嫌でしょぉ?! 自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないって知ってるぅ???」
こんな声が数分にわたって周囲一帯に響き渡っていたらしい。その間に哀れな被害者である研究員はどうにかして部屋を抜け出し、周囲の幽閉されている者たちにも食事を配りに来た。
「すみません。食事はこれから改善していくので、今日はこれで勘弁していただけないでしょうか……。本当にすみません……」
「あ、ああ。改善されるってなら待ってるから、今日はそれで勘弁するから、な、そんなに怯えなくても。なんなら話聞くぞ?」
錯乱する声と、被害者(研究員)の髪や顔、白衣にまでこびりついた食事だったもの、そしてまるで不十分な供物と共に神の生贄になってしまった者のような怯えきった態度に思わず悩み相談会に発展しそうだったという。
経緯はともかく、こちらもちゃんと数日後には食事が改善されたようだ。予想外だったのは、近くに幽閉されている者たちも似たような者が多いと勘違いされて、その区画の食事が全員分改善されたということだ。証言者は、あんな風に暴れるつもりはなかったが、勘違いでも食事が改善されたから幸運だったと、そしてあの時だけは心から研究員に同情したと語った。
「じゃあみんなが脅したから食事が変わったんだ!」
花凛はやっと欲しかったものが手に入ったとばかりに、聞いた話から手に入れた自分なりの解釈を見せびらかした。
「おどしっ、いや、うん。うーん、まあ、そうなるか……。俺たち的にはちょっと強めの交渉をしたつもりだったが、そうなるよな、うん」
「そこ、脅しとかいう言葉が純粋無垢な子供から出たことに動揺してんじゃ無いよ」
桜羽は明らかな動揺を見せた男の頭を軽くはたいた。
「いくらそう見えても、私らと同じようにここにいる時点でそれなりの地獄はみてきてるんだ。穏便に連れてこられたやつなんて一人もいないだろうよ」
各々あまり思い出したくなかった自分の過去が脳裏に浮かび、そして忘れることにした。せっかく自分達で手に入れた食材で作った、まともな食事までもがあの悍ましい思い出たちに侵食される気がしたのだ。あれだけ盛り上がっていた食事会議は、誰一人喋ることなく残りの時間が経過していった。
食事に普段よりも時間を取られた一行は、その日は川を越えて次の村へと進むことは断念して、食事をとった場所で野宿をすることにした。元々もう明るい時間ではなかったから、無理をして進む必要はないだろうとの判断だ。
しかし、寝るにはまだ早い。今日は久々の子供たち向けのお勉強会が開催されることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます