第29話 お勉強会
子供達向けのお勉強会とは、逃走道中に大人たちが様々な分野のことを主に時羽と花凛に教える会である。
内容は多岐に渡り、服の繕い方や着物の着方から始まり、食べれる野草と毒草の判別方法、料理方法、食べ方、火をつけ焚き火を作る方法などがいままでの会では教えられてきた。
会といってもわざわざ集まって行うことは少ない。例えば着替えの時に着物の着方を教えたり、焚き火を作るときに実践で教えたりと生活の中で自然と行われることが多い。
もちろん子供たちの身の回りのことは全て桜花が教えたが、子供たちが馴染み始め、他の大人も構いたくなったのだろう。生きるために必要なことがどんどん教え込まれていった。
大体の自分のことができるようになってきた二人に合わせて今日は生きるためのことではあるが、教わってきたこととは少し離れた場所にあることを知ることが目的である。
それは、皆が今いる国についてだった。
「時羽、花凛。お前たちはここがどこかわかるか?」
「わからない」
「えっとね、多分大和国(やまとのくに)のどこかなんだろうけど詳しいことは分からない」
「よし。よく知っていたな花凛。だが時羽。落ち込むことはない。お前はずっとあそこに長い間いたのだろう。外のことは知らなくて当然だ」
桜羽は分からないことがあると素直に言えた二人の頭を軽く撫でてやった。
「ここは花凛の言った通り大和国やまとのくにといういわゆる島国だ。土地は南北に細長く伸びている。それで今私たちがいるのは東側の土地。私たちが逃げてきた施設は一番北側にあり、今は南に向かっている。私たちが目指す場所は西寄りの東にある村だな」
大和国(やまとのくに)は、四つの大きな島とその周りにたくさん存在する小島から成る島国である。といっても西に産まれた人は東側にはいけないし、東に産まれた人は西にはいけない。東西の真ん中の地点からその先に進むことはお互いにできないのだ。
これは神々の怒りが原因である。
「おとは、しつもん」
「何だ?」
珍しく手を挙げて質問をしたがる時羽に桜羽はすぐに反応した。
「なんでいききできないの? おとはのあしのはやさと、うんどうしんけいならどこまでだっていけるでしょ」
「運動神経の問題じゃないんだ。じゃあ何でか。それは見るまでのお楽しみにはなるが言葉だけで説明しよう。東西の境目には大きな木が何百本も生えていて、その隙間は蔦植物と結界で塞がれている。さらにはその周りに森がある。毒で満ちている森がな。そしてその森には魔獣も放たれていて容易には近づけない。つまり、何重にも誰も通らないようにがっちがちに固められているんだ」
「はい。じゃあ海から行くのは?」
「それも残念ながら無理だな。地上よりも障害物は少ないが、強力な結界が貼ってある。でも私らを追いかけてくる軍の文化はおそらく外の国のものだし、結界ができてからかなり時間が経っているから、もしかしたら抜け道みたいなのがあるのかも。いつかは可能になるかもな」
「そらは?」
「それも難しいな。木のてっぺんは地上から見えないほど高い。そこまで飛べる奴はそうそういないし、いたとしても森の毒素でやられておしまいさ」
とてつもなく大きな木々の隙間を埋める蔦植物は、根っこから森の毒素を吸い上げ放出している。つまり、飛んで森を越えられたとしても、次に待っているのは蔦植物が放出する毒素で汚れた空だ。結果として飛んで越えるのも無理があるだろう。
「さあ、今日の話はここまでだ。悪いが私は座学は苦手なんだ。村に着いたらそういうのが得意な奴が多分帰ってくるだろうから、そいつに頼んで聞こうな」
時羽たち子供組と、見張りを残した大人たちはすぐに支度を終えて眠りにつき、明日へと体力の回復に努めている。あんなに人の声で満ちていた今日の焚き火の周りは、いまや静寂と焚き火からする音だけが一帯を包んでいた。
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