第27話 食事③


「食事だあ? んなもんかろうじて具が入ってる汁物、量の少ない炊き方も雑な米、茹でた草! 以上!」


「せめて野菜って言いなさいよ。確かに葉物率高かったけど他のものだって出たでしょう一応」


「他の者達は? 皆同じようなものか?」


 返ってきたのは肯定ばかりだった。どうやら時羽以外の者たちは、ゲロのような見た目をした視界的暴力はなはだしい食欲を削ぐ代物は出されていなかったようだ。そして、施設に幽閉されていた際は皆違う部屋にいたが、出されていた食事は同じ様な物だということも分かった。


「だよね! でも来たばっかの頃はお粥みたいなドロドロしたの? ばっかり出されてたんだけど、急に変わったの! 何があったのかなぁ」


 花凛はずっと気になっていたことをようやく聞くチャンスを得て、目を興味で輝かせながら身を乗り出した。


「そうか。嬢ちゃんは来てから日が浅いうちに逃げ出せたから知らないよな。簡単な話あれだ。食事内容にもう我慢ならねえって抗議したんだ」


「そうそう、これ以上こんな食事なんか出してみろ、お前ら何らかの損害は覚悟しとけってね。元々あの施設研究員なんて室長以外人間しかいなかったし、軍服のやつらも女の小隊長くらいしか脅威になるのいなかったし」


「脱走したとして逃げ切れる可能性もそれなりにあったけど、逃げ切れない可能性も捨て切れなかったから大人しくしてただけで、俺もあの場所にいつまでも捕まってる気はさらさらなかったから。施設の奴らもちょっと不味いと思ったみたい。大人しくしてることを条件に食事の改善がされたんだよ。まあみんなが同じようなことしてたのは、今初めて知ったんだけどね」


 視界的暴力になりうる食事が出されていない訳ではなかった。大人たちの証言と花凛の記憶から、出されていなかったのはある時期以降だと追加で判明した。


 逃走集団の大人組は食事改善騒動の当事者ばかりで、当時の話が山のように出てきた。しかも面白いことに、同じような時期に騒動が発生しているが、その当時メンバーたちはそれぞれ別の場所で幽閉されていたから面識はなく、計画を共に企てたわけでもなかった。研究者たちからしてみれば傍迷惑な話だが、結果的にメンバーたちの自覚なくそれなりの騒動になっていたようだ。


 その騒動について、ある者は食事を一週間ほど拒否した話をした。


 食事改善騒動当事者は妖怪の血が濃いものが多く、食事を取らないくらいでそう簡単に死なない。だが、現在妖の血を濃く継ぐ者は少数者であり、その生態が広く知られている訳ではない。多少食べなくても死なないことは分かっているが、その限度を見極める材料がなく、おまけに貴重な実験体を死なせるわけにもいかず、慌てた研究員は交渉という名の脅しに屈したようだ。


 またある者は、壁に穴を開けて交渉したと話した。壁を殴ってヒビを入れ、笑顔でこう言ったと。


「食事改善か、脱走か。選べ。ちなみに今の力は一割以下だ」


 そう言ってもう一回壁を殴り、風穴をあけた。

 研究員たちは女小隊長、つまり紫苑がいればほぼ脱走は不可能だと分かっていたが、万が一の可能性が捨て切れないことと、脱走と捕獲のための戦闘による建物への損害を考えると、食事を改善した方がマシだと判断した。

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