第26話 食事②

「そうかそうか、初めてか。食べ方は後で教えてあげよう。だから一つだけ答えてくれ。あの場所でどんな食事を出されていたんだ」


「きのうおとはがかかえてかえってきたひとが、くちからだしてたやつみたいなの。あ、でもにおいはちがかった。あんなきけんそうなにおいはしてない」


 "きのうおとはがかかえてかえってきた"。桜羽は昨日の偵察を思い出した。確か樹齢も高く幹がしっかりした、立派で高さもある木があったから、現在地と周辺の村と追手の確認のために登った時のことだと推察した。確かあの時は機動力がある桜羽が、視力も方向感覚も優れている仲間の一人を抱えて登ることで時間短縮したのだ。


 ただ問題があった。短縮しすぎたのだ。一気に駆け登った時点で、抱えられていた者は胃のあたりがぐるぐるしていた。村や追っ手を探しつつ遠くの景色を見ることでなんとか誤魔化したが、トドメに急降下だった。


「村の位置は?」


「んー、もうちょい行ったところに川があるから、そこ越えてさらに森抜けてすぐくらいかな。そんなに遠くないよ。ついでに追っ手もいなさそう」 


「分かった。じゃあ降りるぞ」


「何で立ったままなの?ねえ、普通屈んで慎重に降りるんじゃって、っぎゃぁぁぁああっ」  


 桜羽は枝を軽く蹴って枝に引っかからないように、木から少し離れるように飛び降りたのだ。抱えられていた者は一瞬浮いたと思ったらすぐに内臓が浮くような感覚がした。その嫌な感覚に耐えること数秒、無事地上に生還することはできた。


 体は足がふらつき膝をつく程度の被害でまあ耐えられたが、胃という内臓は耐えられなかった。膝をついたその衝動で最後の砦が突破され、盛大にその中身を口からぶちまけた。つまり口から出していたものとは吐瀉物だ。言い換えればゲロである。となると時羽にとっての食事とはものすごく簡単に一言でまとめると、「ゲロのような見た目をしたもの」であると理解した。


「……っ全員集合ぉぉぉ! これより緊急調査を行う!」


 桜羽は叫んだ。それはもう大きな声でだ。おそらく追っ手がいたら一発で見つかるくらいの声量で仲間達の注目を集めた。


「なんだなんだ?」


「ご乱心か?」


「虫でも混入してた?」


「苦手なものでも入ってたのかしら」


「こんなここら辺にあるもん煮た、ただの汁物でも派閥争いが起きるのか……」


 危機的状況を共に乗り越えた仲間たちはノリが良い。久しぶりのまともな食事を、少しの間置いてでも構わないとわらわらと集まってきた。しかも全員だ。呼びかけの理由に関する予想はそれぞれであるが、とにかく全員集まって唐突な緊急調査に応じた。


「聞きたいことはただ一つ。施設で出されてた食事についてだ!」

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