第25話 食事①
次に、花凛は年相応に物事を知っていたが、時羽と名付けられた少女は知識が少なく偏りがあるということだ。
時羽達くらいの年齢の子供なら当たり前に知っていそうなことでも名称を知らなかったり、認識がずれていたり、そもそも存在自体知らないというように数えればきりがないほどだ。
そして桜羽や花凛が特に衝撃を受けたのは衣食住についてだ。
まずは"衣"についてだ。盗賊との一戦の末手に入れた着物に着替える時に、施設に来る以前のことを覚えていた花凛は自分で着付けることができたが、時羽はそもそも着物の存在自体知らなかった。最初は桜羽が着付けてやり、その次からは教えながら着替えをすることとなった。
次に"食"についてだ。これに関しては面倒を見ると言った桜羽だけではなく、逃走集団全員を巻き込んだ騒動にまで発展した。きっかけは、初めて世間一般で言うギリギリ食事と言えるくらいのものを作れる程度に物資が整った後の食事の場で時羽が発した言葉だ。
「何ぼーっと見てるんだ? せっかく温かいんだから冷めないうちに食べな。熱すぎるなら冷ましてやるぞ?」
まるで初めて見るかのように、配られた汁物を見ている。
逃走してから今日までの数日間で食べていたのはそこら辺の木に生っている果物が主であり、量も栄養も十分な食事が取れているとはいえない。施設で桜羽達が出されていた食事は、最低限以下だったかもしれないがちゃんと主菜副菜汁物が揃っていた。
配られた汁物は、森の中に生息していた動物の肉と、そこらへんに生えていた食べれる草を煮込んだもので、味付けなんて贅沢な物はされていなかったが施設でのものよりは豪華なものであった。確かに施設以前の記憶のない時羽にとっては未知のものかもしれないが、ここまで得体の知れないものだと感じるだろうか。桜羽は嫌な予感がした。
「これごはん?」
「ああ、そうだ。今まで出されていたものより沢山の物が入っているから珍しいかも知れないが、それは全部食べれるものだ」
「はじめてみた」
はじめてときたか。それは汁物に入っている食材のことを言っているのか、汁物自体を言っているのか。桜羽はせめて前者であることを願った。
「それはそこに入っている食材のことか? それなら肉というものだ。果物とか植物系のものとは見た目がかなり違うが、毒なんかない美味しいものだから安心して食べていいぞ。食べるとなんやかんやあって幸せな気分になる」
「ううん、なかにはいってるのもだけど、こんなみためのたべもの、はじめてみた。どうやってたべればいいの?」
願いは砕かれた。紛れもない後者だった。
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