第24話 あなたの名前は②
結局春宮夫妻という単語で意見を変えた者がいたことで、少女たちを連れていくことに反対派と賛成派が同じくらいいた均衡状態が崩れ、とどめに「連れてきたのは自分だから責任は取る」と力強く宣言して桜羽は意見を押し通すことに成功したのだ。
そして、宣言通り桜羽は花凛と少女たちの分まで服や食事を用意し、生活に必要な知識を教えていった。その中で分かったことが幾つかある。
まずは、白い髪を持つ少女に名前がないということだ。ある程度必要な物資を確保でき始めた頃、桜羽は少女たちと落ち着いて話をすることができた。その時に発覚したことだ。
「落ち着いて話すのは初めてだな。ああ、怯えなくていい。私はお前たちの味方だ。名前は桜羽おとは。これからよろしく。」
少女と花凛はキョトンとした。何も反応がないまま警戒心が溶けきれてない少女たちを気にせず、桜羽は質問を続けた。
「2人とも名前は?」
「あ、えと、花凛」
名乗られているのに名乗らずじっとしてしまったことに気付いた花凛は慌てて名を告げた。どうやら対人関係における1番基本的なことは知っているようだ。一方で、少女はどう答えていいか分からないようだった。
「花凛、か。いい名前じゃないか。これからよろしく。そっちの白い髪のお前は、名前が分からないか?そうだな、今まで自分じゃない人になんて呼ばれていたかは覚えているか?」
また少し迷って、少女は遠慮がちに口を開いた。
「えす、えぬ、ぜろ、ぜろ、に、だけど、これはちがうってかりんが……。だから分からない」
「SN……そうか。花凛の言う通りだ。そんな番号忘れちまいな。(間違いない。この子は)」
番号を聞いて桜羽は、はっと何かに気付いたようだったがそれについて少女たちの前で言及することはなかった。
「名前が無いままだと不便だな。よし、じゃあ本当の名前が分かるまで仮のものを私がつけよう。もちろん気に入らなかったら拒否してくれて構わない。納得いくものを一緒に探そう」
「うん」
少しの間黙り込んで考え込んでいたが、桜羽はすぐに候補を挙げてきた。
「今思いついたやつだが、"時羽ときは"なんてどうだ。意味は"時"代の流れに飲み込まれず、"羽"ばたいていける者。」
「……それがいい」
一つ目に挙げられた候補からいきなりしっくりきたらしい。少女は名前を聞いてすぐに反応した。
「一つ目で気に入ってもらえるとは光栄だ。じゃあ今日からお前の仮の名は時羽だ。人に名前を聞かれたらそう答えるといい」
「ときは……」
白い髪の少女は初めてつけてもらった"時羽"という名前を噛み締めるように呟いた。
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