第19話 妖狐VS妖狐②

 紫苑は尾の二本を自らから分離させ、狐を生み出した。狐は向かってくる桜羽に襲いかかり、紫苑の元へ向かうのを邪魔する。


 桜羽は腕や足を噛みちぎろうと牙を剥く狐たちを二匹同時に刀で受け止めた。止められてもなお刀を噛み砕き、桜羽までもを噛み砕こうとする狐を、力一杯弾き飛ばす。


 狐との距離ができた隙をついて、桜羽も同じように尾を二本分離させ狐を生み出した。その狐に襲い来る方の相手を任せ、自分は本体へと斬りかかる。


 反撃する間が無いほど激しい剣戟を浴びせ、桜羽は紫苑に一切の攻撃の隙を与えなかった。一度受けにまわってしまった紫苑は、豪雨のように浴びせられる剣戟を、ひたすら防いでいた。このまま攻撃を受け続けていては押し負けると思った紫苑は、一度攻撃をいなして隙を作り、後ろに跳んで桜羽から距離をとった。


「せいやっ!」


「当たるか!!」


 足が地面についた瞬間、強く踏み込み今度は紫苑が攻撃を仕掛ける。だが桜羽の方が上手なのか、攻撃は難なく防がれてしまう。それどころか、攻撃の合間を縫って反撃を喰らう始末だ。


 二度斬りかかれば三度目の斬撃の前に反撃を喰らい、受け手に回る。間髪入れずに攻めても、なんの危なげもなく受け止められた。紫苑もギリギリではあるが攻撃が直撃するのを避けていることから、お互い決定打に欠けているまま受けた斬撃と仕掛けた攻撃の数だけ増えていく。


(何かがおかしいわね。あれだけブランクがあってこんなに動けること自体あり得ないけど。まあそれはこの際いいわ。それより何で本気で踏み込んでこないのよ。目的は? 何するつもりなのよっ)


 負けそうなのに負けない。相手には自分を殺せる程の、甘く見積もっても自分を斬り捨ててこの場から去ることができる程の力があると確信できるこの状況は、紫苑にとって不安要素にしかならなかった。


 一体何をするつもりなのか。


 劣勢に追い込まれている今、戦闘以外に思考を割くことが出来ず、気味の悪さと焦りだけが残る。だが、その理由はすぐに分かった。


「遊びはここまでだ! 今は見逃してやるが、次会った時はどちらかの首が落ちる時だと思え! あの時の件、一生許さん!」


 そう言って桜羽は、懐に隠していた手のひらで包み込めるほどの大きさの煙玉を地面に叩きつけた。爆発の騒ぎに乗じて逃げた短時間でそんなものを確保していたと思っていなかった紫苑は、反応が遅れまんまと視界が奪われてしまった。匂いで判断しようにも、何か仕込まれていたのか周囲の煙の匂いに惑わされ捕捉できず完全に見失ったのだった。

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