第18話 妖狐VS妖狐①
「こんの、クソ野郎どもがぁぁぁぁぁっっ」
矢は少女に到達する前に全て薙ぎ払われた。
いつまで経っても体に矢の刺さる感覚のないことに違和感を覚え、腕の隙間から周囲をそーっと見た少女の目に映ったのは、自分と同じような格好をした白だった。その白は地面で蹲る少女の側で膝をつき、頭を撫でながら優しく話しかける。
「まだ生きてるね? もう大丈夫。後は私に任せて寝てな」
瞼が重い。音もあまり聞こえない。自らの体から今もなお流れ続ける血でできた血溜まりに倒れ込んでいるから暖かいはずなのに、寒い。
「むこうで、つかまってる黒い子も。『いっしょにいて』『にげて』って、いわれてる」
目の前にいる白が何を言ったかはっきりとは分からないが、少女は敵ではないはずだと思った。それに、まだ花凛が捕まっている。このままでは花凛から言われたことをこなせないと思った少女は、目の前にいる白に消えそうなほどか細い声で伝えた。
「そうかい。その子はあんたの大切なんだね? 安心しな。その子も、もちろん助けるさ。だから今はおやすみ。大丈夫。あんたの周りに結界を張っておいてあげるから」
そう言って頭を撫でると、少女と同じ髪を持つ女は少女の周りを囲むように薄桜色の結界を張り、敵対する女の方に向き直った。
「久しぶりだな紫苑。うちの一族のモンが世話になったね」
「あら桜羽(おとは)。何年ぶりかしら?」
「数の数え方も忘れたのかこの老狐め。何十年の間違いだろう? 妖力がほとんど感じられんところを見ると、そろそろ寿命なんじゃないのか?今更人間のふりなんかして何がしたい」
「抑えてるのよ。この服動きやすいんだけど、尻尾の生えている前提で作られてないから尻尾出してると邪魔なのよねぇ。それに、後ろの子庇うってことは私と戦うつもりなんでしょうけど、体鈍ってるんじゃないの?」
「前の借りもある。試してみるか?」
「私は構わないわ」
先に動いたのは桜羽だった。話している間、密かに後ろから近づいて来ていた軍服の刀を奪い取ったのだ。
武器を得た桜羽は紫苑の元へと急速に接近しながら妖力を解放して、戦闘態勢へと入った。それを見た紫苑も一般の人間程度に抑え隠していた妖力を解放する。
頭には人間の耳が消えて獣の耳が、腰のあたりには狐の尾が、指先には鋭い爪が現れた。そこには二人の人間ではなく、二匹の妖狐がいた。
妖狐の尾の数は、その者の使える妖力の許容量を示すものでもある。単純な話、使える妖力が多ければ多いほど攻撃の規模も大きくなるし、撃てる数も増える。妖力をたくさん消費するような燃費の悪い技も使えるし、複雑すぎて妖力の消費量が規格外の術も使用できる。つまり、妖力が多ければ多いほど、戦闘において有利になりやすいというわけだ。
そして双方が持つ尾は双方九本。即ち妖狐として持つ力は最高位であることを示す。唯一違うのは毛の色だ。紫苑は狐色を、桜羽は純白を持っていた。
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