第17話 白の選択肢⑥
女が示した選択肢は、一回死を逃れられるというたった一瞬の救いだ。その後には花凛が少女に願ったものとは真逆のものしか存在しないだろう。
「いらない。うけとったら、いわれたことをやれないから」
「そう。まだ痛めつけても大丈夫そうね。もっとギリギリになったら、また聞いてあげるわぁっ」
女が地面を蹴った。走りながら持っていた刀を鞘に収め、背中にあるもっと小さな鞘に収められているナイフを取り出した。そしてナイフを大きく振りかぶり少女に襲いかかる。
少女は瓦礫を掲げ一撃目を防いだが、斬られた勢いで圧された瓦礫が額にぶつかった。二撃目は左脇を狙われた。体に引きつけたナイフで思いっきり薙がれるが、それも後ろに跳んで避ける。
三撃目で薙いだナイフをそのまま突き出された。その攻撃に対する回避は不完全に終わり、腹に2cmほど刺さった。刺された箇所が熱を帯び、燃えるように熱い。
(いつもならよけられるのに)
体を動かそうとしても動かない。思っているよりも低くしか跳べない。ナイフの軌道は見えているのに、避ける速さが追いつかない。
少女は追い詰められていた。辛うじて決定打になるような攻撃はないが、完全に避けきれなかった斬撃による塞がらない浅い傷と、斬撃の間を縫うように四方から飛んでくる矢が少女にダメージを与え続ける。
「こっちのナイフにも塗ってあるのよっ、さっき言った薬っ」
「うぐっ」
今のニ撃で鎖骨のあたりと右腕が斬られた。右腕は深く斬られ、血が流れ出す感覚がよく分かる。もちろん血は止まらない。
それでも少女の心はまだ折れていなかった。変わらずに自らにナイフを振るってくる女を睨みつけ、反撃の機会をうかがう。花凛が捕まっていた方を見て、まだ自分の手の届く範囲にいるか確かめる。精神は屈していなかった。
しかし、体は違った。意思に反して力は抜けていくし、朝食を食べ損ねた空っぽの胃は必死にありもしない中身を外に吐き出そうとする。
「うっ、おえぇぇっ」
握っていた瓦礫は手から零れ落ちた。両足で立っているはずなのに体は左右に揺れ、バランスを取ることができない。体勢を立て直せないくらい体が傾き、少女は地面に踞った。
「今よ、一斉射撃!」
遠くから援護に努めていた者達に指示が下った。わずか一秒後、少女を中心に矢の雨が降り注ぐ。少女の目には、それが酷く遅く写っていた。
(あとすこし、ほんのすこしだけうごければ)
この場から動くことができないと悟った少女は、せめて矢が当たる範囲だけでも減らそうと体をぎゅっと縮めて腕で頭を守り、目を硬く瞑った。
矢が少女の体を貫くまで後——
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