第20話 妖狐VS妖狐③
(ちっ、あんなものどこに隠し持っていたのよ!)
煙玉は簡易的なものであったから視界はすぐに確保できたが、肝心の桜羽は見つからない。ふと後ろの気配に気づき振り返れば、たった数秒の隙をついて自分のすぐそばを走り抜けていった桜羽と、いつのまにか後ろに居た男、そしてその人質になっている花凛が見えた。
「その汚い手を離しなぁっ、おらあっ!!」
「がっ! うぐっ」
そしてわずか一秒後、桜羽は花凛を捕獲している男の顔面に、回転をかけて威力を上げた後ろ蹴りを喰らわせ花凛を救出した。男は反応が間に合わず攻撃をもろに喰らい、倒れたと同時に後頭部も強打した。鼻も顎もかち割られているし、これで暫く激しい戦闘はできないだろう。
ここで紫苑は自分が誘導されていたことに気づいた。なかなか決まらない決定打となる攻撃も、絶妙な隙も全て紫苑を誘導して黒髪の少女を助けられる位置に行くために手を抜いていたのだと分からされたのだった。
桜羽は少女と同様に実験体として捕らえられていたことで、戦闘に対して何十年という空白期間があった。だから紫苑は負けることはないと高を括り桜羽との真っ向勝負にでたのだ。そうでなければ、忠誠を誓った主人なんかではない雇い主の実験体など捨て置いて早々に退散していただろう。
紫苑は戦ってしまったことを今となっては誤算だったと思った。長期間実験台として体をいじくりまわされ、最低限の食事しか与えられず戦闘の機会もなかった者が、まさかあそこまで戦える力を残していたなんて想定すらしていなかった。
「たった数十年の時で戦い方を忘れているとでも思ったのか、考えが浅いわ愚か者め! この私に舐めてかかったこと、後悔でもしとくんだなぁ!」
「余計なお世話よ! せめて最後に一撃でも喰らっときなさい!!」
自分の考えの浅さを指摘され苛立ちを覚えた紫苑は、最後の悪あがきとばかりに距離を取った桜羽に向かって刀を思いっきり投げつけた。我武者羅に投げた刀は、逃げる桜羽の背中に吸い込まれるように空中を進むが、直前で木の枝へ跳び乗ったことで、皮膚を突き破り内臓を傷つけることは無かった。いつのまにか白い少女も救出していたようで、両手に子供を抱えた桜羽はそのまま森の中へと消えていく。
戦闘の凄まじさに気圧され、巻き込まれないように距離を取ってみていた軍服や白衣の人間たちは呆然とその背中を見ていた。
「……っ追え、逃すな!」
思い切り蹴飛ばされた花凛を人質にしていた軍服は、捕獲対象をただ見送るだけの間抜けたちに向かって叫び、その声で捕獲対象が逃げるのをただ見守るだけであった者たちが、自分たちのやるべきことを思い出した。慌てて追いかけようとするが、今度はすぐに後ろから止まれと指示が投げられた。
「無駄よ。混血ならともかく、ただの人間では絶対に追いつけないわ。」
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