第7話 逃走④
「ねえ、なんでそとにでたいの?」
体力に余裕があるのか、少女は花凛に質問をしてみた。この子ならばきっと答えてくれると思ったのだ。
「ここにいたら私は壊されちゃう。あなたもそう。ここにいる奴らは、私たちのこと同じ生き物だってみてないのよ。それに、外には自由がある。私は帰るべき場所を失ったから、それを探しに行くの! あなたは? あなたは何をしたい」
「何を……」
少女は考えてもわからなかった。
「したくない、ことなら……ある」
苦しくて、喉を締めてもっと苦しくしたくなって、心がざわついて二度と味わいたくないような感覚。
「じゃあそれをしなくていい場所を探すの!」
「……」
少女は黙ってしまったが、何か思うところがあるようだった。
全力疾走していた頃に比べれば、半分ほどのスピードになってしまったが、進んだ分だけ出口に近づく。最後の廊下なだけあって、5分もかからず出口らしきものが見え始めた。といっても、どうやって破壊されたかは分からないが、扉であったであろう部分はその役目を放棄し、外から差し込む光が見えている。
(ああ、やっと外に出られる!)
花凛は自分の中に何か込み上げてくるのを感じた。もういつぶりに観たのかは分からない日の光がすぐそこに見えるのだ。
ーー外は前と変わらないだろうか。1秒でも早く、あの光を浴びたい!
肩の痛みなど忘れたかのように、足を早める。あと少し走れば花凛はここにきてからずっと求めていたものを手にすることができることに、ここ数年感じた記憶のないほどの喜びを覚えた。
一方で外に出ることに関して何の憧れも希望も持たない少女は、光の方向を警戒していた。おそらくこの道を抜けた何処かに何かいることに気付いたからだ。居るのが敵か味方か、人型か獣かは分からなかった。だが、確実に何かいる。
それでも少女は花凛を止めなかった。これまでと同じようについていくだけだ。どうせ自分が何かしたところで、状況が変わるわけではない。まして良くなることなど今まで無かったのだから。
「やっと、やっとだ……」
光に近づくにつれその眩しさに目が眩み、出口を直視できない。その光が一等強くなった時、ついに外に出ることができた。
花凛は何年ぶりか分からない外の空気を大きく吸い込んだ。そして体を思い切り伸ばし、陽の光を目一杯浴びる。捕らえられ、連れてこられてからの終わりの見えない絶望の日々は終わったのだと、そう全身で感じた。
その後ろで少女は初めての感覚に不安を覚えていた。周囲を見てもいつものような壁はなく、見たことのない形のものが地面に刺さっている。上を見上げれば、それは果てしなく周囲の物と同じように今まで見たことのないような色をしていた。
自分を制限するものは何もない。開放感というのか、窮屈さがなくなったというのか、自らの周りを遮るものがなくなった風通しの良い感覚に驚き警戒するが、同時に記憶にない懐かしさが込み上げてきた。
(わたしは、これを知っている?)
今はまだ答えは出なかった。
「外だよ! これが外だよ! 外に出れたんだよ! このままここを離れよう! もうこんな所ニ度ときてたまるもんか! あははっ」
全身で喜びを表現している花凛は、困惑している少女に満面の笑みで抱きついた。こんなことをされたのは初めてだった少女は、されるがままだ。
少女は抱きついてくる花凛に何をするわけでもなく、ただ初めてのこと尽くしでとても疲れたと思っていた。本当に逃げ出して良かったのかすら、未だに分からない。この先何処に行って何をすれば良いかも分からない。
先の見通しのない逃走も、側から見れば理不尽な束縛からの開放につながった正しい行動だったと言えるだろう。しかし少女にとっては、今の自分の気持ちが落ち着かない原因だった。それでも目の前ではしゃぐ花凛を見ていると、自分がとった行動は一番悪いものではなかったのだと、そう思える気がした。
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