第5話 逃走②
花凛は出来るだけ大きな瓦礫を選んで、乗っても崩れないか確認しながら一歩一歩着実に登っていった。
高く登れば登るほど足場は少なく、崩れやすくなっていく。しっかりしてそうな足場を選んでも、足を乗せて体重をかけるとぐらりと揺れることがある。ただ手で掴んだだけの瓦礫でさえも、積み重なっている瓦礫から離れて下へ落ちていくこともあった。
落ちそうになっては他の瓦礫に飛び移り、足を滑らせては他の瓦礫を手で掴んで何とか持ち堪え、何度も落ちそうになりながら一番上の小さな穴まで登り切った。
穴の中は小さく立つことはできないため、四つん這いのままその出口を目指す。尖っている瓦礫や小石が混ざった足場は、体を切ってしまう可能性があった。手で地面を軽く撫でて凹凸を確認しながら尖っている部分を避け、ゆっくりと進んでいく。ついに穴の端まで辿り着き、瓦礫の山の先が見えるようになった。
花凛は軽く周りを見渡した。特に危険はなさそうに見える。武器を持った人がいる訳でもない。爆弾らしきものも見当たらない。炎の海という訳でもなかった。
今までに通って来た道と同様に損傷箇所が多く、積み上がるほどではないが散乱している瓦礫もあり足場が悪くはなっている。それでも地雷のような罠が仕掛けられていない限り、これ以上小さな傷を増やさずに走り切ることができそうだった。
この道を進んでも大丈夫そうだと判断した花凛は、手足を切らないようゆっくり後退しながら入って来た場所と戻った。反対側に戻り、穴の中から下を見下ろすと、先ほどと同じ場所に白髪の少女は待っていた。その姿に少し安心する。
「向こうはとおれそうだったからのぼって来て!」
花凛は下で待っている少女に叫んだ。それを聞いた少女は、先に登っていった花凛が通っていった道をなぞるように登っていく。あと少しで登りきれるというところで、花凛に引き上げられた。
「ここから先、見えにくいけど危ないところいっぱいあるから。ゆっくり進むよ」
少女は頷いた。前を進む花凛を見て、その真似をしながらゆっくりと進んで行く。そうして少女は初めての、花凛は2度目の穴の反対側のへの到着をしたのだ。
ここで問題が発生した。どうやって下まで降りるかだ。出口は入口よりも小さく、今のままの体制だと、瓦礫の中から足場を探して慎重に降りていくということができない。前を向いたままそれをしようとすると、瓦礫を掴むことが難しいのだ。
後ろを向いた状態ならば、登って来た時と同じような体制で足場を探しながら降りていけば良いだけだが、今更体の向きを変えられるほどの広さもない。
一体どうしたものかと考えるが、安全に降りることのできる方法は思いつかない。
「とびおりる。あそこならあいてるからケガしない」
そう言って少女は、瓦礫の山から少し離れた場所を指さした。
今まで黙ってついて来ていた少女が、初めて花凛に自分から話しかけて来た。嬉しいやら驚きやら花凛が受けた衝撃は大きく、初めは言われている意味が理解できなかった。
何の反応も返さない花凛に、少女は続けた。
「このくらいなら、とびおりれる」
確かに少女が指をさした場所は、見えている瓦礫も少なく距離もそう遠くない。満足な助走をつけられないこの状況でも、あそこまで跳べる可能性は十分にあるだろう。
そして、少女達がいる場所の高さは地面から2メートルくらいのところだ。着地先の地面が見えない崖の上から飛び降りる訳ではないから、恐怖心も無に等しい。
「わかった。じゃあわたしの後にすぐついて来て。けった勢いでここがくずれたらつぶされちゃう」
少女は花凛の目を見て頷いた。
「それじゃあいくよ。いち、にの、さんっ」
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