第2話 この出会いが運命を変えた①
朝自然に目が覚めると、ちょうど食事が部屋に運び込まれるところだった。それを食べ終わった頃、部屋に人が来て少女を別の部屋へと連れて行く。そこで言われたことを終え、また元の部屋へと戻ってくる。そして眠りにつく。これを何度も繰り返す。後何度繰り返せば終わるのか、少女は知らない。
次の日も同じように目が覚め、食事を取る。別の部屋に連れてかれ、昨日と内容は違うが言われたことをやり、また部屋へと戻る。そうして眠りについた。
また次の日も同じだろう。少なくともここにいる少女と与える側の人間はそう思っていた。だが、変化は突然訪れた。
変化は体の底に響くような轟音と共にやってきた。それも一度きりではない。2度、3度、まだまだ鳴り響く。少女はこの轟音に浅い眠りから現実へと引き戻された。
いつもなら、目覚めた頃少女の周囲は静寂に包まれている。特に起きた直後は、まるで自分以外が周囲から消え去ってしまったと錯覚する程だ。
しかし今日は違う。廊下は誰かが走り回る音や叫び声で満ちている。ただでさえ騒がしいのに、轟音が鳴り響くたび走り回る音も悲鳴もより一層激しくなる。明らかに異常事態だ。
そんな中、少女はというと部屋の隅で膝を抱えたままそこに在った。何故なら、どうすればいいか何も与えられていないからだ。
与えられていないのに自ら何かをしようとすれば、心臓をぎゅっと掴まれるような感覚に陥ったり、普段一定の間隔で意識せずとも行われている呼吸が乱れて喉のあたりを押さえたくなったり、その感覚が消え去れば良いのにと思うようなことばかりが起きる。
そもそも、少女が何かをしようと自らの行動を選択したとしても、どうせ無駄なのだ。例えば、部屋を出る選択をしたとしよう。部屋は与える側の人が開ける以外、その扉が開くことはない。万が一扉が開くとしても、少女は枷に邪魔されそこまで辿り着くことができない。
たがら「与えられずとも何かをする」という行動パターンは、少女の中には存在しなかった。故に、轟音が響こうが、それに伴って部屋が揺れ天井の一部が剥がれ落ちようが、天井が剥がれ落ちてできた穴から炎が侵入して来ようが、扉や壁が破壊されようが、崩れた壁に枷が砕かれようが何もしない。
どうすれば良いのか、その答えが与えられるまで動くことはない。
「ちょっと、なにやってんの! はやく立って! 逃げるよ!」
破壊された扉だったものがあった辺りから誰かが少女を見ていた。それは、部屋の中に在る少女と同じような背丈の黒髪を持つ少女であった。少女も自分に視線を向けてくる黒髪の少女を見つめ返した。
見たところ、別の部屋と自分に与えられた部屋との往復の際に1度もすれ違った覚えがなかった。それに軽く息も上がっていることから、それなりの距離を走ってきたのだろう。おそらく、少女とは離れた場所に部屋を与えられていたのだろう。そんなことをぼんやりと思いながら、黒髪の少女から視線を外した。
自分の足で立って逃げる気配のない少女を見て、黒髪の少女は部屋の中へ足を踏み入れ腕を掴んだ。
「死にたいの?! ほら、いくよ!」
黒髪の少女は手を差し伸べた。
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