病室
個室の戸を開ける。一人ベッドで起き上がって、テレビを見つめる彼がいた。髪の毛は肩程まで伸びて、フケが目立つ。少し丸かった頬は、赤みがなくなり、こけてはりついているように見えた。
彼の横までいき、声を掛けた。倉知君、久しぶり。
横に立ったところで、やっと気づいてくれた様子で、倉知君は力なくこちらを振り向いた。
今日の君は12。倉知君は、ガラケーの画面を見せてきた。そこには、安っぽい星座の占いサイトが映っていた。そして、倉知君は、ベッド脇に置いてあった紙をよこしてきた。そこに書かれていた数字は以前にも増してよれよれで、言われてやっと12と書かれているのが分かる具合だった。
「倉知君の誕生日はいつなんだい?」
「12月」
倉知君の誕生日も12月らしかった。
「じゃあ倉知君も今日は12かな」
倉知君はこくりと頷いた。
すると、ベッドテーブルに倉知君はカレンダーの切れ端を広げると、ここに来客がいることにも気にせずに数字を書き始めた。これが倉知君。変わらずそこにいる。
ベッドの脇の机には、いくつもの輪ゴムで結ばれた切れ端の束があった。いつもここで書いていたのだろう。
失礼しまーす。看護師が病室に入ってきた。検温の時間ですよ、と倉知君にいう。倉知君はそっと手元の切れ端を彼女に手渡した。
そう。倉知君はここでも、はっきりと自身の存在を主張していた。ここには空気がある。息苦しい想いが少しだけ晴れた気がした。
倉知君、これを貰っていくよ。カレンダーの束を指さす。倉知君は軽く頷くと、5個ほどこちらによこした。
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