第8話 最強への閃き

 何も攻撃を受けてないのにも関わらず、ズタボロになっているサラを見て、ロテスは絶叫する。


「うるせぇ! 殺すぞ!!」


 不良少年の怒号に、彼は「ひぃ!!」と声を漏らし叫ぶのを反射的にやめる。そして、不良少年を見てガタガタを身体が震え上がる。


「おい、ナヨゴミぃ! この女は、俺がまだ殴ってもいねぇのに、なんかすげぇボロボロだぜ? おめぇはこの女にいつも守ってもらってるってオレサマは感がえっが、その通りだろぉ?」


 サラの行動を見て、普段の2人の事を予測する。


「うっ……」


 彼は認めたくないが事実である為悔しさで歯を食いしばる。


「ビンゴだなぁ!」


 不良少年は、ニヤリとする。


「オレサマは、おめぇをサンドバックとして消費しようと思っていたが、気が変わったぜ!」


 彼は、何か嬉しそうにニヤニヤ語る。


「この女はおめぇを守る為に、オレサマに立ち向かい、俺をもう少しの所まで追い詰めたぁ! オレサマは、この女を気に入った! おめえがこの女を諦めるなら俺は見逃してやるよ!」


 人を自分の娯楽として扱っている様な不良少年が、自分を見逃してくれると言う。


 この巨大な体格で野蛮な見た目の少年が心の底から恐怖を感じ、ガタガタ震えているロテスは、見逃させると聞いたが、その条件は、自分の大切な女の子を差し出すと言うことだ。


 普通の人間なら、身体中が震え上がる恐怖の相手に見逃させるのなら、普段から毎日のように、一緒にいる大切な人でも差し出して、その場から全力疾走で逃げ出すだろう。


 人間なんて弱い生き物だ。大切な人でも、普通は自分が助かる為なら差し出してしまう。


 そして、大事な人を生贄して自分の保身に走った者は自身の知人から罵詈雑言を吐かれるだろう。


 それでも、人、いや、知的生命体である以上は、生に執着するものだ。


 しかし、ロテスは、それも、普通の同年代の少年達よりも、身体が貧弱なこの少年は違う──


「断る! サラは僕の大切な女の子だ! お前の様な人間なんかに差し出してたまるか!!」


 ロテスは、確かに身体は貧弱で同年代の人と喧嘩しても勝てない所か年下相手をボコボコにされるくらいの弱者だ。だが、彼の心は、同年代所か下手な大人よりも強く逞しい。サラの隣にふさわしくなる為、身体を鍛え、多少は喧嘩もそれなりに出来るくらいには強くなった。


「ギャハハ! そんなに震えながら良く言い切ったなぁ!」


 不良少年は、口を丸くして意外そうな顔をする。


「だがなぁ!」


 柄の悪い少年は、巨大で強靭な拳をロテスに振り下ろした。


 ドガーーンッと音を立て、土煙が舞う。


「ハァハァ……」


 ロテスは間一髪サラのいる方の反対へ飛び込み攻撃を交わした。


「ギャハハ! かわしやがったか! しかも、女のいない方向へ動いて巻き込まれないようにするとはなぁ! ヒョロクソだけど良い男だなぁ!」


 彼は高笑いしながら紳士的な行動を賞賛する。


「ならなぁ!これならどうだぁ?」


 不良少年は、サラの方を向きわざとゆっくり拳を構える。


「ギャッハーーーー!!」


 彼は、動けず方膝を突いているサラ目掛けて正拳突きを放つ。


「グガッ!!」


 ロテスは、サラを突き飛ばし、不良少年の拳を全身で受け、10メートルほど吹っ飛ばされてしまう。


[こんな化け物どうすればいいんだ!!]


 ロテスは、圧倒的な絶望に叩きつけられ、意識が飛びそうになる。


[父さんや母さんみたいな、強いスキルがあれば……]


 彼は、一流冒険者の両親の事を考える。


[でも、父さんも母さんも、最初は色んな人から外れスキルって言われていたって前に話していたな……それをある閃きで凄いスキルって周りの人達の掌を回しまくってたって……]


[そう言えば、父さんからスキルだけじゃなくで、色んな事の知識を覚えろって良く言われたな……雑学を色々覚えておけば何かの役に立つ事もあるって……]


 ロテスの父は、普段は家を留守にしている。家に帰ってくると、息子である彼に何か新しく覚えた雑学を話させている。


[ん? スキル……僕のスキルは、そばかすを増やしたり減らしたりするもの。そばかすは体の染み。そういえば、人の身体についての雑学でこんなことがあったような──]



 彼はある事を閃いた。


 ロテスは薄れていく意識を目覚めさせ、立ち上がる。


「ギャハハハハハ!! 面白ぇくらいぶっ飛びやがったな!!」


 不良少年は、手を叩き大笑いする。


「んじゃ、この女は俺の拠点に連れていくとすっかなぁ!」


 彼は、ロテスに突き飛ばされ地面に横たわるサラを巨大な手で掴もうとした。


 その時──


「待て!」


「あん?」


「僕がお前をぶっ倒してやる!」


 ロテスはそう叫びながら、親指を下にし、不良少年へ歩みながら近づいてくのだった。

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