第28話『緋色坂はやはり鬼なのだ』

「氷室クン~~~、どうしたの? 私の名前を言っていた気がするんだけど、気のせいかなっ」

「さささささ、さぁ……どうだろうな」


 オレと逢瀬の介入してきた緋色坂に対してキョドりつつ、彼女の脅迫に答える。両手を背後に回し前のめりになっている態勢の美少女。普通、そんなのに出会ったら興奮や感動するのだろうが今は違う。


 少々昨晩のトラウマじみた事から、オレはコイツに対して恐怖心を抱いているのだ。


 ダメだ。


「やっぱり気のせいかな? 私を鬼だとかなんだとか言ってたのはさ」

「ああ、緋色坂の気のせいだろう。というか、オレがそんな自分が不利になる事を言う訳ないだろ??」

「そうだねぇ、そうかもねぇ」


 緋色坂は蛇みたいに目を細くしてコチラを観察する。

 怖いので俺は隣に黙って立っている逢瀬に助けを求める視線を送るが、浮かべたのは嘲笑の様なモノだった。


 嫌なYOKANが背中をうごめく。


「緋色坂さん。氷室クンはばっちしと言ってたわ。……『アイツはやはり紛れもない鬼野郎だ』ってね」


 しかし逢瀬が生み出したのは、助け舟なんて死にやがれと宣告する修羅場への一歩。


 つまるところ、コイツは言ったのだ。

 オレ、氷室政明に対し『シネ』と。

 ~~~~~っふざけないでください逢瀬さん⁉


「え、ちょ、逢瀬?」

「へぇ、そうなんだ。そりゃあ随分と酷い言いようだねぇ~~、氷室クン?」

「っすぅ……」


 オレは静かに目を瞑る。


 さてさて、コレカラ俺はどうすればいいのだろうか。

 取り敢えず、この修羅場から脱する方法を考えてみる。素直に謝ってみるか、逢瀬の言葉は嘘だと言うか。

 ないしは、ここから全力疾走、全力で逃走か。



 ───さぁ、どうしようか。



 ……結論。素直に謝るのが、無難。


「そうだな。緋色坂様、今日のオレはどこか機嫌がオカシイんだ。だから逢瀬の言っていた事も記憶ない」

「う、うわ。流石に氷室クン、それは無理があるよ」

「何の話だ?」

「……ぐぬぬ、仕方がなし。今回ばかりは許してあげるよ。私はなにせ聖女、女神様みたいな存在だからねっ! 器だけは広いんだから」


 そんなヤツが、あんな熱血指導するか?

 器が広いやつは、余裕がある人間と同意義だと思っているんだが……。コイツにはあまり余裕があるようには見えない。


 はてはて、なんていう冗談だろうか。


 ツッコミたくなるが、ツッコんだら再び俺が攻撃されるので止めておく。


「それにしても緋色坂はどうしてここに?」

 オレはスマホが壊れたから、新しいやつを買いに来たワケなんだが。……まさか逢瀬どころか、緋色坂とも出会うとかどんな稀なエンカウントだよ。


「んー、今日はメモリを買いに来たんだ。パソコンのね」

「……そうか、オレにはよく分からんな」

「そう? でもハマれば凄く楽しいよ。今は苦痛に感じてるのかもしれないけど、もう沼に一歩踏み込めばそりゃあ天国! 快楽の極み!」


 ま、まじか。

 それはもしかすると、触手プレイより気持ちが──、ッ口が滑ってしまった。違う違う、俺が言いたいのはそういう希望的観測ではない。


「ハマれば楽しいのかもしれないが。オレには合わない感じだからな、機械音痴のオレには」

「……むむむ、そう考えると。なんでなんだろうねぇ」

「何がだ?」


 すると彼女は怪訝そうに顔をコチラに寄せて、問いをぶつける。

 何の話だろうか。


「そりゃあ、なんでそんなにパソコンとか情報関連に弱いのに。……ゲームはあんだけ上手くて凄いんだろうなぁって思ったの」

「それは、なんでだろうな。俺にも分かりかねん。強いて言うと考えるならば、……まぁ才能があったんだろうな。ふはは」

「くぅ、ムカツく言い方だねぇっ!!!! 羨ましすぎて嫉妬しちゃいそうだよ」

「器が広いんじゃないのか? 緋色坂は」


 そ、そうだね。と緋色坂は悔しいそうに呟く。

 くははは、まぁ正直な話……あのゲームで俺が勝ったのは運だと思うけどな。なにせ、緋色坂は俺がゲームがちょっと上手いだけのヤツだと思ってただろうし、そのおかげで手加減してくれていただろうし。


 それを鑑みると、この程度で粋がっているオレは虚しいにも程がある。

 それはそれとして……ここに来た本件を思い出して俺はちょいと焦った。そうだ、俺はこんな事をしている暇はないのだ。


 携帯を買い替えに来たのだった。


「さて、じゃあ俺は携帯を見に行くから。じゃあな」

 そう言ってその場から去る。


 つもりだったのだが。


「あ、じゃあ私もついていこうかなっ。氷室クンだけじゃ、一筋縄では携帯を買い替えれないでしょ?」

「……私もついていくわ。貴方が店員に迷惑をかけるかもしれないからね」


 オレ、どんだけ心配されてるんですかね。

 一人で携帯を買うつもりだったんだが、緋色坂も逢瀬も何故か俺についてくるなんて言ってきやがった。

 だが警戒せよ。


 ……コイツらは陽キャだからノリでそう言ってるだけで、決して俺が好きだとかそんなワケではないのだから。


 勘違いする男はダサいぞ、氷室政明。

 自身にそう忠告して、俺は彼女たちと共に携帯のあるフロアに進むのだった。


 ◇◇◇


 数時間の迷いの後、逡巡まよいがあるままオレはある携帯を買う事が決定する。家電量販店を出ると、もうすでに夕暮れが近くなっていた。思ったより随分と長い間、ここに滞在している自分たちに呆れる。


 まさか一個モノを買うだけで、これだけで時間が無駄になるとはな。


 ……自分で言うのはオカシイな話だが、几帳面な自身の性格が影響しているのかもしれない。


「やっと新しい携帯が手に入った。でも馬鹿みたいに高かったな……」

「氷室クンっ。だからこれは携帯じゃなくて、スマートフォンだよ。もしかして:時代遅れ ?」

「ぐぬ。なんかウザイ言い方だな……まぁそrてを含めてお前らのアドバイスが正しいのか判断するのに苦労したが、正直助かった。ありがとうな緋色坂、と逢瀬」


 オレは自身の買い物に結局最後まで付き合ってくれた両隣に立つそれぞれに感謝した。逢瀬雫と緋色坂なつき。両手に花というのは、こういうシチュエーションのコトなのかっ!!


 ちと胸が高鳴ってしまう。


 そんな中、逢瀬がなんかソワソワした顔で言い放った。


「じゃあ氷室クン。そのお礼も兼ねて、ファミレスに行ってみない? もちろん、氷室クンのおごりでね」

「ん? ちょっと待て、それは聞いてな」

「いいね逢瀬ちゃん、そうしよっ!」


 逢瀬の提案を即座に否定しようとするが、既に手遅れ。緋色坂も良いねとその作戦に乗っかってきたのだから。

 ちょっと待て。オレはただでさえ高価な買い物をした直後で、財布は爆裂寸前だというのに……まだ俺から絞る気なのかコイツら。


 なんてヤツらなんだか、本当に。


「まじか、まぁ……今回はちゃんと色々アドバイスを貰ったし。少しぐらいは、奮発しても構わないか」

「おお!」

「ふむ。じゃあ、それで決定ね」


 溜息が無限に吐ける状態で、気持ちを紛らわせる為に空を見上げた。


「おお、……」

「空が綺麗だねぇ、暁って感じ! 逢瀬ちゃんもそう思うよね」

「ええ、そうですね。私もこういう絵画みたいな哀愁漂う景色は好きですから。ちょっと切なくなりますが、なんか……言葉では表せないが、いいですよね」


 すると視界に映ったのは、果てしなく先まで続く紅。

 まるで別世界に来てしまったのではないかと思うほど美しく、それに加わる逢魔の風も心地良いアクセントをかもし出している。


 とても美しい、情景。

 まるでオレの心みたいだな! ……冗談だ。


 そうして時はあっという間に過ぎていく。


 因みにだが半強制的な感じであっても、オレは初めて同級生おんなのことファミレス……外食に行く事になったので実はちょっとワクワクしていたりするのは本当の話。その後、俺は二人と慣れない中で大手ファミレスチェーン店に行って美味しくご飯を食べましたとさ。


『美少女と食べるご飯は美味い(迫真)』

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