第14話『俺の携帯へ、遂に女子のメールアドレスが降臨す』
朗報か、何か。取り敢えず喜々たる事だ。
なんと遂に俺は人生初、女子とメールアドレスを交換した。
因みに相手は逢瀬雫である。だがダメだ。油断は禁物である。
自分の携帯を握りしめて、画面を凝視した。
俺みたいなメール処女からすると、メールが来ただけで瞳がうるっときちゃうのに、それが女子からのメールなんてなったら「こいつ、もしかして俺のこと好きなんじゃね?」とか勘違いしてしまうからである。
ま。それはあくまでも勘違いでありそれはただ、俺たちが女子の喋り方に慣れていないから特別に感じるだけで、相手側からすればただ喋ってるだけだ。
なのに勘違いされるとか、可哀想にもほどがある。
因みに俺も中学時代に勘違いしたことはある。
ソースは俺ってやつなコレ。
悲しくなるから詳しくは話さんが……。
昔。告白する勇気はなかったから、よく喋りかけてくれていた優しい女の子に「音ゲーでフレにならん?」とか言ってみたのだが。
……奇しくも、全て無視で終わった。いやなにも奇しくない、必然かもしれん。
というか苦笑いしてたし、聞き取れてはいて拒否していたのだろう。その時、「あ、この人が俺に好意を抱いていると思ってたが。それは浅ましい勘違いだったのか」と気付いて深夜絶叫したりも。
黒歴史は無限に蘇ってくる。
そう考えると俺たち男ってのは、単純だな。
愚かな愚民よ。頭痛が痛いな。
……でも彼女から届いてきたメールで、そんな不安は吹き飛んだ。
『帰宅部一年生の生徒をリスト化してデータ送っといたから。明日、全員に勧誘しておいて、ゴミスケベくん』
とかいう駄文。
おい待て、ゴミスケベって俺のこと?
なんか変態から呼び名進化してない?
というか、それに俺が勧誘しなきゃならんの?
このぼっちな俺が?
俺は生粋のコミュニケーション初心者だぞ?
深夜。自宅のマンションにて。
「俺はゴミスケベじゃねぇし。それに、勧誘なんてっ出来るワケないだろおおおおおおおお!!!!!?>!?!?!?!?!?」
俺はいつものように発狂して絶望していた。
……なんでこんな事になったのかと言うと、それは遡る事部活終わり直後。
◇◇◇
「帰宅部から新入部員を探すっつたってさ、帰宅部はみんな普通の部活動は塾とかで忙しいから入れないっていう理由のヤツらしかいないから。無理なんじゃないか」
「ええ、そうね。不本意ながら私もそれはそうは思うわ。……でもやるしかないでしょ?」
「んまぁ、そうだな。あの教師の事だ、ほったらかしたら後でどんな制裁が下るか全くもって予想がつかない」
ただ、地獄に堕ちる事にはなるだろうな。
ほぼ確定で。
「……そういうえば、三野先生はどこに行ったの?」
「さぁな。多分、職員室とかじゃねーの」
「課外活動の話とか全然してもらえなかったから、説明が欲しいのだけれど」
「それは同感だ」
俺は先輩が何故か先に帰り、三野先生もどこかへ行ってしまって……逢瀬と二人きりで部室に居座っていた。
陰キャぼっちで、しかも美少女とは、どこのラブコメだ。……そう考えてしまうが、それが俺が今まで後悔してきた理由の一つ。
俺はもう勘違いしない。
これはラブコメなんかじゃない。
ただの陰キャが送る地獄高校生活録だ。
「まぁなんだ。俺はペナルティが受けたくないし。協力しよう─────ぜ」
「うーん。さっきはそう言ったけれど。今、よく考えてみたけれど……貴方と協力するぐらいなら、何かペナルティを受けた方がマシに思えてきたわ」
「おい」
「貴方と協力したら面倒な事になりそうだわ。あの一件で、イメージとは違ったから実は凄い誠実な人なのかなって思ってたけれど……見当違いだったようだし」
あの件ってなんだよ。
あれか? 入学早々、先輩にウザ絡みされてたコイツを助けた時の話か? ああ、あれで俺の事を誠実な人間だと思ってくれてたんだな。
正解だよ、うんうん……って。
「見当違いとは何のことだ」
「さぁ? その言葉の通りの意味よ。最初、貴方は陰臭くても誠実な人間だと思ってたわ。でも実際は、ただの陰キャ変態ぼっちだったからね」
「言っとくけど、俺はお前に変態とか呼ばれる筋合いはねぇからな⁉ というか、ちょっと下心があって助けたぐらいだっていいじゃない! 人間だもの!」
彼女は俺のボケを嘲笑気味に、または無視するかのような絶妙な瞳で俺を捉えた。
「偉人の名言も貴方が言うと無価値になるわね」
「うるせぇ」
あまりの冷ややかな言葉は、吐き気が出てくるほど胃に悪い。しっかりと聞き込んだら、ショックで数週間寝込んでしまいそうな勢いである。
くそう。ここでフルカウンターを放てれば。
でも俺には、そんな都合のいい言葉は思いつかなかった。
それ故に俺は陰キャと呼ばれるのだ。
まぁ流石にコイツみたいな棘野郎には緊張しなけれども。初見はおお、美少女だと緊張したけれど最近は暴言ばっか聞いていて耳も目も死んでいるからな。
「というか、協力するなら連絡手段が必要だろ? だから」
「しないわ」
「は? 俺はまだ何も言ってない」
「先に断っておいただけだけど? 嫌よ。貴方とメールアドレスを交換するなんて考えたら、わわ……体の端から悪寒が」
「なんだこいつぅ……っ!」
くそう!
俺が陰キャで連絡先交換とかに慣れてないからって、強気になりやがって! ……あ、慣れてないというか生涯今まで一回も友達と連絡先交換とかしたことなかったわ。まぁ、そんなの些細なことだ。
んなワケねぇよばか。
……それはそれとして。連絡先は、私情抜きでも普通に必要だろう。
なにせ協力するのならば、いつでも連絡出来るという利便性はやはり大きいからな。
「氷室くん、言っておくけど私はまだ貴方と協力するとは一言も言ってないのだからね?」
まだコイツはそんな事をほざいているのか。
そろそろいくら俺でも呆れてくる。
なんでそんなに人と協力したくないんだよ。
「なんでそんなに人と協力するか否かに強情なんだよ」
「? 私は人と協力するのは構わないけど。……最も、目の前にいる貴方は人じゃないから断ってるだけ」
「…………俺は人じゃないのかよ」
つまり、そういう事なのだろう。
おいまて、ふざけんなって。
「だって貴方って、今まで私の目を見て話した事なんてほぼ一度もないでしょう? コミュニケーションをとる際、人間というのは視覚情報を55%、聴覚情報を38%、言語情報を7%。それらで判断しているというの」
「3Vの法則をここで持ち出してくんな」
「つまるところ、コチラをほぼみない貴方は視覚情報を遮断しているか……ええ、そうね。貴方が私と話しているつもりでも、貴方は一切コチラを見ないから半分コミュニケーションを取ってない様に見える。人間業じゃない」
「でも逆を言えば、俺は半分でもコミュニケーションは出来ているっていってるんだよそれはな。それに俺はれっきとした人間じゃ」
そう言ってはみるが、彼女の表情を
「貴方はそうね……人間じゃないならば。何かしら。─────いっそ、ゴミにでもなっとく? あ、ゴミスケベ。うん、これでいいんじゃない?」
「……最低過ぎるだろ、お前」
「悪いわね。でも別に問題ないわ。私は中学の頃から色々な人に嫌われてたから」
彼女はそう言いながら、にこやかに微笑んだ。
まさに絶対的恐怖。何か含みのある笑い方である。
……というか、こんな可愛い美少女が中学時代に嫌われていただと? いくら陰キャでコミュニケーション能力が皆無だった俺だって、なんとなく話せる相手はいたぞ。
……いた、か?
でも幸か不幸か、そこそこの顔面偏差値と頭脳を持ち合わせていたおかげで大して苦労はしなかったしな。
……苦労してなかったけ? いや、していた。
「そう、なのか?」
「ええ」
「何が問題だったのかは分からないけどね」
「おい待て、その発言が自然体なら嫌われるべくして嫌われたっ感じだと俺の勘が言ってるんだが」
「勘違いしないで。私は自分の性格に欠如が無いとかは一言も言ってない。なんで嫌われたのか分からないっていうのは、……唐突にあれね。いじめっ子に狙われ始めたっていうの? 特に恨みを買ってないはずなんだけど、標的されちゃったのよ」
「お、そうだった、のか。……そりゃ、すまん」
どうやら、マジな話だったらしい。
俺はすぐさま謝罪した。今のは、あまりにも軽率な行為だったし……良くないと思った。でもそれも自己満足だろう。
だとしても。
謝っておくのは大切だ。
「別に良い。気にしてなんかないもの」
「ふーん、そうか」
「ええ」
その言葉は、大体気にしているヤツが言う言葉のド定番であるが……彼女は本当に傷ついていない様子だった。
それは己の中の心に芯があるからなのか、気にしてない様子。
まるで鉄壁だ。
俺ならきっとそんな状態に陥ったらレッツ不登校みたいなノリで、速攻学校が嫌いになる自信があるぞ。いや、確信かもしれない。
「っと、話がずれたな」
「ずれてないわ。元から話してなんかないから」
「……へいへい。えーーと、そうだ。メールアドレスを交換し、て─────くださ……」
「嫌よ」
っコイツ。まじでしばいたろか。
そう思いつつ、再び断られてしまった事実を受け止め歯を食いしばった。……最悪だ。これじゃ話が進まないじゃないか。
「悪いが、俺もここで引き下がるワケにはいかない」
「ほう……私とやる気? 私はね、武道もいける口なのよ?」
「え」
唐突に時間が氷結する。
アブソリュート・ゼロですね分かります。……じゃねぇよ、まじ勘弁してくれ。今のは冗談だろう普通に。
彼女は椅子から立ち上がり、拳を構えていた。
「じょ、冗談ですって先輩」
「私は先輩じゃないのだけれど」
「……へっ」
だがここまで食い下がらなかった不幸中の幸いというべきか。部室の壁にぶらさがる時計を一瞥した後に彼女は何かに気付いた様に言った。
「……もうこんな時間、か。はぁ。正直嫌だけれど、どうやら私はもう時間がないし。私も出来ればペナルティを受けたくないわ。仕方ない、わね」
「メールアドレス交換してくれるのか?」
「ええ、不本意ながら……繋げとかなきゃ、後々面倒くさい事になりそうだし」
「そりゃ良かった」
こうして。
なんやかんやあったが、俺は彼女とメールアドレスを交換する事に成功したというワケだ。…………それにしても、彼女は何故時間を気にしていたのだろうか?
その時の時刻はまだ四時半。
夜道が怖いから早く帰るといった理由だとしても、まだ下校には早い時間帯だった。
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