第12話『俺の前に現れるのは、狂人か。ねらーか』
高校入学早々、クソみたいなダッシュスタートで息切れしそうになりつつも何とか生き延びて……創作部に入部してからはや一週間が過ぎた。
創作部に入部してから一週間後、十日後の月曜日。
◇◇◇
「えー、今日は体育だ」
筋肉ムキムキというワケではないが、細痩せしている感じの三十代前半らしき体育教師がそんな当たり前の事を言いながら、偉そうにグラウンドの朝礼台に立っていた。
春の癖に、太陽は酷い熱を放射している。
クソ暑い。
なんで春なのにこれ程までに熱いんだ。
本当に地球温暖化はクソだな。
「うわー、クソ暑ちぃ」
「それなーまじやべぇ」
「うう、熱い……」
周りの生徒たちも、流石にこの暑さには文句を申している。陰口みたいにひそひそとそんな事をぼやいている姿があった。
陰キャな俺は声に出しては言えないが、それに関しては共感する所がある。
その中で一人。
また別の女生徒を睨む男が居た。
その男の名前は─────えーーと、なんだっけか。……確か、
ソイツは先日、校舎一階にて暴力をした問題生徒だ。
そしてコイツが睨んでいる生徒先ーー逢瀬雫に殴られて保健室送りになった人物でもある。
察するに、殴られた事を根に持っているらしい。いや、蹴られたんだっけか。
というか、コイツも俺と同じクラスだったのかよ。気付かなかった……陰キャセンサー発動ならず。不覚ッ!
「今回は最初の授業という事もあるので、ドッジボールでもやろう」
「おおおお!! よっしゃあああ!」
耳がピクリと反応した。
男子たちの嬉しさ絶叫が飛ぶ。
因みに俺は絶望していた。
なんだよドッジボールって、そのゲームはぼっちで影が薄い生徒たちが炙り出される地獄のサーカスじゃねぇか。
ドッジボール。
それはゲーム開始後、普通ならば。
目立つ生徒、即ち陽キャ共は互いに潰し合う。
そして両チーム陰キャ共は端っこにいるので潰し合う事は無い、攻撃的ではない故にそれらは陰キャと呼ばれるのだ。
そして互いに潰しきった陽キャ達はそれぞれが外野に行き、見事内部に残るのは…………戦わずして生き延びた生徒たち。
俺ら陰キャラというワケである。ということは、ということは?
つまるところ、『ドッジボール』とは陰キャを炙り出すゲームであり、絶対悪だ。……人○悪とでも表そうか。
まぁとっくに自分が陰キャラとはばれているのかもしれないが? 極力? 俺はそういうのはやりたくないのだ。いやマジで、冗談抜きで。
やりたくない。やりたくない。やりたくない。やりたくない。やりたくない。
「じゃあ適当に二チームに分かれろー」
でも現実は残酷だ。
◇◇◇
ビュン。と大きな音を立てて、俺の隣を豪速球が通過する。
「うお、おお……」
それは紛れもなく、相手から飛んできたボールだった。
相手から放たれたそれはまさに魔球だ。どこぞのアー○ードマッスルスーツがあれば簡単に受け流し……ちゃう、掴める筈なのにな。
まぁ、無理かな。
俺が持っていても宝の持ち腐れだな。
それにしてもそんな魔球を放ってきた相手─────逢瀬雫。
俺はソイツを睨む事に専念した。
「ぐぬぬ、同じ部活なんだし……少しは手加減しろよ」
「ここでは関係ないわ。というか他でも関係ないわ。……貴方は排除すべき敵よ」
「まじすか」
気温が暑い上に、相手からの敵対心も等しく熱々である。
っち、なんで陰キャの俺が標的にされなきゃあらんのだ。
まぁここで狙われなくなるのも悲しいっちゃ、悲しいが。
ここまでバチバチなのも嫌である。
「ぐぐぐ、……やめろよな」
外野からボールが飛んでくる。だがそれは俺へではなくて、他の生徒が標的であった。
「ぐあああ、ちょ、や」
奇しくも俺はその生徒と目が合ってしまい、ソイツは即座にコチラへと歩み寄ってくる。おい待て。その羨望の目は俺を壁にしようとしている目だ。
きっと、見知らぬ俺に助けを求めようとするなんてコミュニケーション能力抜群の陽キャなのだろう。
「た、助けてでごわす! ワイ、まだ死にたくない」
「……は、おい。ちょっと、待って」
「そこのチミ。的になってお」
「なんだテメェ!」
しかし。
急に抱きついてきたのは、一世代前のオタクを彷彿させる黒のスクエアメガネを装着する男子生徒だった。
どうやら、俺と同類らしい。狂人か、ねらーか。
そんなの手に取るように分かる。
……というかこいつ、先日氏等に襲われてた被害者小太り生徒君ですよね? そんな口調だったっけか。
イメージ違いで、開いた方が塞がらない。
まぁ、──コイツもオタクかよ。と。
いや、俺とは違うか。
陰キャとオタクは近いようで遠い存在だ。
……まぁその二つの属性を両立したヤツもいるけどな。
ちなソースは俺。
「【悲報】ワイ、死にそう」
「何が悲報だ……っ! ん、まて、お前。俺の事を壁にするのやめろ」
「ぐへへ、そんなそんな」
何故か少し親近感がある。
コイツはどうやらコミュニケーションのあるオタクの様だが。ねらー口調だけど。……それにしても、俺のことを壁にするのをやめろ。
というか痛い。腕力強すぎだろお前。
紛れもなく、ねらー狂人だコイツは。
そして追加属性としてこのオタクはホモなのかホモなのか、俺の事を強く抱きしめてきていた。……それが滅茶苦茶痛いのだ。引きこもっているヤツでは、そんな力出せない。
きっとオタク寄りのスポーツマンなのだろう。
ぼっちとぼっち。
それにただでさえこの炎天下。クソみたいに暑いってのに、蒸し暑い男に抱きしめられてそれで更にクソ暑い。
「おい取り敢えず離れろ。暑い」
「す、すまそ」
「……随分とネットに染まってる様だな」
「同類でやんすよね?」
「違うわ!」
俺はそう乞うが、どうやら体を振りほどいてくれそうにはない。……痛い痛い痛い、って。
やめてよ。ちょっと。
同類にされるのは嫌だが、言い得て妙だな。
「それって貴方の感想ですよね?」
「……違う」
「君を第三者視点で視た結果、君はワイと同じオタクとして映ったんでやす。……つまり、助けを求めても大丈夫と」
「……違う。何もかも違う。俺に助けを求めても大丈夫なんかじゃないぞ」
そんな会話をしていると。
再び魔球が吹き飛んできた。
ヒュン。と音を鳴らして、まさに電撃の一発。
紫光が弾ける様な刹那。
……外野から内部に手渡されて、内部の一人。またしても逢瀬雫が放った一撃は、俺を標的としていた。
どんだけ敵対心があるのだか。
─────だが残念だったな、逢瀬。
今の俺は、俺に抱きついてきているこのオタクの壁であり、このオタクという壁を持っているのだ。
「っしゃあ! 感謝するぜ、ねらーっ!!!!」
「ふぁっ⁉」
飛来する魔球に、
その一瞬、飛んできたボールは我が手中にある
少年マンガよろしく、この日一番暑い熱い一撃。
ふっ、これが俺の
見事、壁は壁らしく見事役目を果たしてくれた。
「ちょ、あんた⁉」
「【朗報】オレの腕ほどける」
「……伏線回収した、だと?」
「良かったな」
オタク生徒は外野へと吹き飛び、嬉笑。
思わず目から涙が出てきそうである。
くくく、くはははははは!!!!
笑みが零れる。
……なんて事をしていると、俺も先程の壁さんの末路の様に。ボールは自分を地獄へ誘うように激突した。
「油断したわね」
直後。逢瀬の声が響いていたのを、俺は知っている。
◇◇◇
「俺らの負け、か」
「そうでやんすな」
「誰だよお前」
「
「噓つけ」
コイツはどこまでもオタクらしい。
限界オタクってやつか。ああ、そうだろうな。木下は眼鏡をクイッと上げて、キランと太陽を反射させていた。
何も喋ってなくても、どうやらコイツは煩く見える。
「ともかく、戦友ということで。仲良くしましょうぜ?」
「……なんでそうなるんだ」
「だって同類じゃん?」
「同じにするなし」
なんか、木下と話しているとため息が溢れてばかりだ。
というか何故か自然と同類扱いされているし。……というか自虐するワケではないが、自分はコミュニケーション能力がないのでコイツより下かもしれん。
ぐう、そう考えるとかなり心にくるな。
「無様だったわね、弱者」
「弱者を俺の固有名詞にするな。それとあれは俺が弱かったんじゃなくて、お前が強すぎただけだからな。馬鹿にするな」
「負け犬の遠吠え、ね」
「……」
そんな中、現れるのは魔球の悪魔。
世界崩壊を招くかもしれない魔女、又は魔王。
……俺はコイツらのチームにぼろ負けした。
こっちが相手チームを倒した数は四人に対し、あっちが倒したオレ達チームは十三人。間違いなくの完敗である。
「む、び、美少女⁉」
「この人は誰?」
二人からの視線が集約。
「あーコイツは、えーと……なんて名前だっけか。ああ、そうだ。松前木下。……探偵らしい」
「へぇ、探偵なんだ」
彼女はどこか生真面目なのか、感心したように頷く。
真面目なのか、それとも天然なのか。まだ彼女については良く分からん。いや、そりゃそうか。
……何年も付き合っていた馬鹿みたいなバカップルだって、ちょっとした勘違いで今までの関係が破綻する事があるのだ。
まだ会って一週間程度の彼女について知れている事なんて、ほぼない。
「いやちょ、それは戦友、親友に対するだけのジョークだろ。ジョーク。ジョーダンだよ!」
「俺はお前の戦友でもないし、親友でもない」
「ぶぅーーーーーっ!!! これまさに正論」
俺の言葉に木下は慌てながら、俺の胸倉をぐっと掴んでくる。
「は、はぁ……」
そしてそんな会話に、彼女は少し引いていた。
──────
次回予告⁉︎
……担任の理不尽の中、創作部へ入学してしまった事なかれ主義の氷室政明だったが、災難か。彼に魔の手が再び現れる。
「一生に振り返る幸運と不幸は、決して平等じゃない」
そう論ずる新入部員、氷室政明に課せられる理不尽とは⁉︎
……次回!!
「政明、死す」
ノートスタンバイ‼︎
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