第9話『俺の教師は、職権乱用を繰り返す①』
「あちぃ……」
今は既に夕方。外はふぅふぅと風が吹いている。
それにも関わらず、外は真夏日和だ。
三十度ぐらいあるんじゃないだろうか。
「……」
春なのに、もう夏と言っても良い様な季節だし。
……街を歩く人々は、みな額に汗を浮かべている。
ただ俺は学校からの帰り道である並木道を、颯爽と、又はゆっくりと歩いていた。
そして。
「やっほー!」
「……誰ですか、先輩」
「先輩って分かってんじゃん⁉ 私だよ、わたしー。知らない? 創作部の部長である
隣には、並列する様に歩く金髪の美少女が一人。
……なんで俺の横を歩いてるんだ、この人は。圧倒的なオーラに負けつつ、俺は平然を
というか、俺に何の用だっていうんだ。
「……で、こんな俺に何の用ですか?」
「はぁ。ドライだねぇ」
「そりゃ、まだ先輩とは今まで話した事なんてないですし」
「─────ふーん」
彼女はこっちをつぶらな瞳で見つめる。
質問に答えてくれる様子はなかった。
両手を後ろに回し、体を俺の身体の方へぐいぐい寄せてくる。
……ぐ、あ。すると、必然的そのボインボインがぶつかった。
「先輩、なんですか」
「えぇ? 何のこと?」
「ふざけないで下さい。俺は忙しいんです。……何の用ですか」
「ふふふーー、それはね!」
因みにだが、彼女は巨乳である。
高校生にしては発達しすぎていると言ってもいいソレは、まさしく男子からすれば至高の一品だろう。
だが生憎、俺にはそんな趣味は持ち合わせていなかった。
されど、それを差し置いても少しドキドキするぞ……。
普通なら、そんなぐいぐい来られたら男子高校生なんていちころだろう。もしかしたら好きなのかも? なんて羨望を抱いてしまうかもしれない程に。
「創作部へのお誘いだよー」
「なんでオレなんすか」
ふと並木道の途中で立ち止まり、背後に立った彼女へ振り返る。
遠山風吹は屈託のない笑顔を浮かべていた。
なるほど、これが……魔力かッ!!
思わず見惚れてしまいそうな美貌。
唾を飲み込んだ。
「えー、そんなの君がそれっぽいなって思ったからだよ?」
「……凄く怪しいですよ」
第一、俺と彼女では全くもって接点がない存在である。だというのにも関わらず、何故唐突に俺なんかを誘おうとしているんだ?
もしかして機関のスパイか⁉ 社会陰謀か⁉
……んなワケあるか。
「そ、そうかな? でもそれは本当だよ。君のコト、ちょっと気になってるんだよね。私の長年の勘っていうか?」
「……そうですか。どういう意味かは追求しないでおきます」
「そんなぁ」
ま、そんな冗談を置いておいての話でも変なコトだ。
なんで急に俺なんかをっていうのは気になる。
……絶対裏がある、と思ってしまいそうだ。
だが、現実とは実に淡泊でそんなモンだと知っている。
……つまるところ、本当に勘で聞いてきたのかもしれない。
特に悩む必要はないな。
「じゃあ改めて聞きますが、創作部ってのはどんな部活なんですか? 部活紹介での紹介は、ちょっとあまりにも情報量が少なかったんで。出来るだけ具体的に」
「具体的に、とは?」
「あーそうですね。じゃあ活動内容について。絵を描いたり、文章を作ったり、他にも色々な創作を行っていると先輩は言っていましたが……絵を描くってのはデッサンなのか? とか、文章を作ると言ってもエッセイなのか、それとも物語なのか、とか」
「ほう。中々、聞くねぇ。……私、難しくてちゃんと答えられないかも」
そう言って、先輩は両手で頭を抱える。
しかし入るとしても、これは聞いておきたい事だ。まぁ、入る気なんてほぼないけどもこれぐらいは知っておいても損はないだろうしね。
「そうだね。まぁ絵を描くってのは、特に決まりはないし部員の自由にしてるよ。って言っても、私しかちゃんとした部員がいないからなんだけどね。文章も本当に自由! フリープレイだよー!」
フリープレイと自由は意味が違う気がしながらも、俺はそれをスルーして首を縦に振った。
「なるほど」
でも、俺には創作活動とか興味ないし入部する気持ちも大して湧いてこない。……誘ってくれるのは嬉しい事だが、陰キャの俺としてはやっていける自信がないのだ。無理だろうって思う。
「先輩、ここまで聞いて悪いんですが……。自分には続けられる自信はないので、やめときます」
「え、そ、そう……。分かった。ごめんね、時間掛けちゃって!」
「いえ、こちらこそすいません」
「あ、もし仮入部でも入る気になったら……いつでも私に声をかけてね! いつでも大歓迎、待ってるから!」
アチラはフレンドリーに絡んでくれるが、最後まで俺は他人行儀を貫き通して嵐が通り過ぎるのを見守った。
彼女が去ってから、一息ついて並木道を再び歩き出す。
◇◇◇
あれから何日か経過し、金曜日。
特に何事もなく俺は学校に登校していた。……今日もいつも通り、普通に。教室内部も、みんな学校に慣れてきたのかホームルーム前はかなり会話で賑わっている。
時刻にして七時五十分。
「な、逢瀬」
「……なに?」
「今日が確か入部届の締切だったけど、決めたのか?」
「まぁね」
いつも通り本に目を通している彼女に対して、質問をぶつけた。
どうやら、もう決めてしまっているらしい。……前見ていた感じからしても、柔道部とかだろうな。
「そういう貴方はどうなの? まぁ、変態だし、馬鹿だし、事なかれ主義とか言って気取ってるし。帰宅部……よくてパソコン部とかでしょう?」
「おい待て。その発言は俺以外の全国にいる事なかれ主義者に刺さるぞ」
言われてみれば質問した自分が考えていなかった。俺は、どうしようか。……ま、パソコンとかはあまり詳しくないので。帰宅部が無難だろうな。
「で、どうなのよ」
「ま、残念ながら……逢瀬の言う通りっちゃ言う通りだろうな。俺は、帰宅部に入る予定だ」
「ほら、やっぱりね」
彼女は俺の答えを聞くと、哀れな生物を見るようにククと微笑した。
やっぱりコイツは性格が悪い。
……悪女だ。悪役令嬢だ。
「くそっ、美少女だからって気取りやがっtttttって!」
「なんつった? 死にたいって?」
「ひゃ、ひゃい、すいません……」
それに彼女は恐ろしい。怖すぎる。下手なお化け屋敷に出てくるお化けよりも、何百倍と怖いだろう。あくまで個人の意見であるが。
陰キャの俺からすれば、そんな威圧感を出されたら声が震えてしまうのだ。
なんか俺、コイツに脅されてばっかな気がするんだけど……。
「おい、氷室。職員室へ来い」
「へ?」
俺が彼女に話し終えた直後。
その終了同時に現れたのは、担任の三野響だった。何故か腕を組んでコチラを見て、仁王立ちしている。
昔から変わらない姿だ。
「なんで急に俺を呼ぶんすか」
「お前に話がある。それだけだ」
「……私情⁉ もしかして、劣情みたいな」
「変な妄想はやめろ。停学にするぞ?」
「ちょ、それ職権乱用⁉」
なんか行きたくない気分だった。というか、なんか裏がありそうだったので微力でも抵抗してみるが─────どうやら、無理らしい。
この女教師の前では、そんな事不可能に等しいだろう。
あーだこーだぐたぐだ言っていると、彼女は無理やりに俺の二の腕を掴み連れて行こうとした。
痛い。痛い。痛い!!
「あっ、ちょ、やめ」
女性の力じゃなかった。
陰キャの俺が抵抗出来るワケもなく。
抵抗虚しく、俺は
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