第8話『俺の救った美少女は、実は馬鹿TUEEEらしい』

 その授業では、それぞれの部活に所属している先輩がわざわざコチラに出向いて、部活紹介と部員募集をしていた。

 ……まぁ全部、なんとなく思い浮かんでいた内容と同じである。


 帰宅部にするという気持ちは変わらないな。

 ……別に良いか。


「えー、これが最後の部活紹介だ」

 三野が呟くと、教室の前から一人の女生徒が入ってきた。


「どうも、二年の遠山とおやま風吹ふぶきです! 気軽に遠山様って呼んでね?? 私が所属する『創作部』では絵を描いたり、文章を作ったり、他にも色々な創作を行っています!」

「……」

「部員は私含めて三人! でもなんでか知らないけどみんな幽霊部員だから、実質私一人だよ! 誰か来てくれる事を募集しまーす!」


 其処に入ってきた美少女は、かなりのハイテンション野郎。端的に言えば、ちょっとアタオカな感じだ。


 金髪ストレートに加えて金の瞳。その姿から見るに……外国人なのは間違いない。ハーフだろうか? それにしても金の眼???

 まぁ細かい事は気にしないでおこう。


「まぁ、初心者でも大歓迎ですよ? きっと誰でも楽しめると思いますから!」


「これで終わりでーす! みんなよろしくね!」


 それだけ言い残し先輩は嵐のように消えていった。

 まるで一瞬の出来事。……普通の人じゃなかったな、と思う。部活紹介というよりは、あの人個人が印象に残ってしまったし。


「なんか、凄い人だったね……」

「天然っぽいよな。というか、可愛くね⁉」

「やべぇ、鼻血出てきそう」

「私もあの先輩みたいに可愛くなりたいーっ!」


 そして先輩が教室から出て数秒間、静かになって。その後は先輩の”容姿”についてでクラスの話題は持ち切りだった。

 ちょっと気持ち悪い感想を述べる男子に対して、キモイという女子も多々。


 ……創作部。

 なんてワードは一つたりとも出てこない。

 というか部員三人中、二人が幽霊部員とかもうすぐに廃部されるヤツだろそれ。……まぁ、創作部とか面倒過ぎて入りたくないが。


 絶対疲れるだろ。文章を書くってたって、中学とかの作文でもめちゃめちゃ疲れていた自分が意欲的に創作に取り組める筈がない。

 さて、そんな事はどうでもよくて。


「帰宅部、と」


 俺はただ自分の身の丈にあった部活を選択し、入部届を机にしまった。

 これで帰宅部は安泰だな。……ま、したい事もない少しずれた高校生な俺には、それぐらいが丁度いい。


「これで部活紹介は終わりだ。悩むだろうから、入部届は……あーー、明後日の金曜を締め切りとする」

 三野はそう言って、この授業を切り上げる。


 ◇◇◇


 放課後。

 それは男女が喧騒を巻き起こす学校中で最も物騒と言っていい時間帯だ。

 ……まだ学校始まって数日なのにらぶらぶしているカップルを見ると、眩暈めまいがする。


「っち」


 出来るだけ穏便に舌打ちしながら、鞄を持って教室を出た。

 ……まぁ正直な話、どうでもいい。そんなの気にしてるワケないが。


 また今日も中身のない一日を過ごしたと痛感しながらも、廊下を歩く。まだ下校している生徒はたくさんいるので、ちっとも寂しくない。

 というか煩い。廊下は生徒の笑い声で満タンだ。


 一階に降りると、笑い声とはまた別の声色が飛び交っている。……そして、周りの生徒がざわついていた。


「おいテメェ、ごらぁ!!! ふざけてんじゃねぇぞ。俺が買ってこいつったのは、目玉焼きメロンパンだろ⁉ なんだよこれ、焼きそばパンじゃねぇぁ!」

「う、うう……ごめんよ。氏等しら君」

「はっ、まじでしゃーねぇ野郎だ。あん? ここで殴ってもいいんだぜ?」

「そ、それだけはーーッ」


 見た感じ、どうやら喧嘩……というよりは、一方的にある生徒が切れている様子。

 パシリに失敗した感じ、か。厭な記憶を思い出す。

 言われてみれば俺もパシリにされかけた事があったな……その時はなんとか走って逃げたが。


「ったく、使えねーんだよ! お前はさ、まじで」

「ごめんって……」


 氏等と呼ばれたヤンキーぽい男子生徒は、相手生徒の胸倉を掴んでいる。

 失礼だが、相手はちょっとぽっちゃり系の体系で、いかにもパシリの標的にされそうな感じだ。見た目通り。


 ……氏等とかいう生徒だ、誰だか知らないけども。

 どうやら被害者生徒の方には見覚えがあった。


「あれって、俺と同じクラスの奴か……」


 そう。そのぽっちゃり系生徒は、俺のクラスメイトだった。確か顔だけ見たことある。名前は……なんだっけか。

 自己紹介でなんとかかんとか聞いたんだけども。


 忘れてしまった。


「ああん? おら、なんとか言えよ。じゃねーと、殴るぜ?」

「そ、それだけはお許しください"お"!」

「はっ! もう今更遅い、テメェみたいな低脳には殴って教育するのが最高効率ってもんだろ!」


 ……お?


 ─────誰もその喧嘩を制止する姿は見えない。

 この出来事を傍観する群衆には、沢山の生徒がいた。……顔だけ知ってる一年、三年生。多種多様。


 しかし、誰も止める事を知らない。

 そりゃ当然っちゃ当然のコトだ。……だって他人事だし。面倒ごとには巻き込まれたくないのが普通だろう?


 俺もそう思うしな。

 ……だけど。


「おらよぉっ!!!!!」


 その中でも、お人好しという人間はいるのだろう。だがそこには、そんなイメージの欠片は一つもない姿が。


 ─────そして、氏等の拳は。

 パシン。と綺麗な音を立てて、止められた。

 そこには、彼らを仲立ちするように氏等の拳を見事に受け止める彼女の姿が一つ。


「そこまでよ、……この学校でそれ以上みっともない姿を見せないでもらえるかしら?」



 ◇◇◇



「なんだよ、テメェ!」

「私? 私はただの優等生よ」

「くそが……女風情が気取りやがって!」

「あまりにも古い考えね。知ってる? 今の社会はジェンダー平等。それが当たり前って事を」


 そこへ華麗に現れた逢瀬おうせしずくは男が振り下ろす拳を、軽くよける。……スラッと単純に避けている様に見えるが、あれはかなり難しいはずだ。


 実際、目の前に迫る拳を回避するというのは至難の業だ。


 俺でも受け流すので精一杯というモノがある。


「くそっ、小賢しい!」

「そうね、それで結構。……貴方はまるでサヘラントロプス・チャデンシスね」

「あ⁉ 何言ってんだよ、お前は」


 その喧嘩? はあまりにも圧倒的であった。

 一発。二発。三発。と彼女は華麗に拳を回避して、その小柄な体からは想像もできない威力の回し蹴り。

 それを直に食らったヤンキー氏等は、そのまま見事にその場に倒れ込んだ。


「ぐ、あ?」

「どうぞ、保健室で眠ってなさい」


 おお、決め台詞まで流石だ。

 ……もしかすると、それを考えてから登場してきたのかもしれない。だが、そんなのを裏付ける証拠なんてないし、別にそんな事どうでも良かった周りの生徒達は─────思わず、拍手と歓声を彼女に浴びせた。


 俺も陰キャながらそれに乗っかって、まぁまぁな大声を上げておいた。



「おおおおおお! ヒーローだぁあああああああ!!」



 暫くして、教師連中らがやって来て氏等の死体からだを持ち上げて保健室に連行していく。……ここまで一方的に終わると、少々このヤンキーにも同情しなくもないな。


「凄かったな、逢瀬」

「ん? ……ああ、貴方も見ていたのね」

「ああ。でも逢瀬はこれだけ強いのに、なんで先輩たちにヤラれそうになった時に抵抗しなかったんだ?」

「……そりゃ、怖かったからよ」


 ちょいと失礼というか、不謹慎な事を聞いてしまった気がする。

 だけど本当に純白の疑問だ。本当に純粋な疑問だ。

 ……だって、あれぐらい強かったあの程度のザコはフィジカルでどうにかなった筈。


 だがしかし、どうやら彼女も女の子ってことらしい。


「ふーん、お前にも女の子らしい所があるんだな」

「っ、うっさいわね! 貴方、本当に一々言葉が多いのよ」

「……ひゅ」

「は?」


 だから、そうおちょくってみたりしたのだが。彼女が怒った瞬間の上目遣いがあまりにも悪魔的で思わずキュンとしてしまった。

 そして変な声が出る。やべぇ、脳が死ぬ。


「い、いや……なんでもない。ちょっとびっくりしただけだ」

「そ、そう」

「さてと俺は帰るから」

「ええ、別に言わなくても良いわ」


「へいへい」


 ……またいつもの冷たい状態に戻った彼女に手を振って、一悶着ありながらも俺は帰宅する為に靴を履く。

 そして、気だるくも外に出た。


 まだ四月だというのに、外はクソ暑い。

 夏はまだだぞ、おい。


 はぁ、地球温暖化も侮れないな。


 そう思う今日この頃。

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