第3話:大人気(おとなげ)なき戦い・コリウス通り死闘篇⑥



「なんというか、これ以上この仕事を続けていく自信をなくしてしまったんだなァ」

 俺が淹れたコーヒーを傾けて、デローザさんが言った。

「自信? デロさんがですか?」

 驚くアルタイプにデローザさんは苦笑して頷く。

 これまた信じ難い話だ。ディアス=デ・ローザと言えば完璧に役を作り込んだ円熟の演技で知られ、一流の俳優が憧れの役者として名を挙げることも珍しくない、いわば超一流の名優である。そんないぶぎんの役者が自分の仕事の大前提みたいなところで今更悩んでるなどとは。

「どう演技すればいいのか、分からなくなったってことですか?」

 と、俺。デローザさんは首を傾けて、

「そうとも言えるのかな。自分の感覚と世間の許容とにずいぶん距離が空いてきてしまって、それに戸惑っているうちに何もかもが億劫おっくうになってしまった。……君たちはたぶん、『騎士ナイトはつらいよ』を知っているね?」

「そりゃもちろんです」

 俺たちはうんうん頷く。名匠・マオリガッタ監督の『騎士ナイトはつらいよ』は、小さな騎士団に所属する人情厚い騎士・ティーガーが、赴任する先々でマドンナと呼ばれる女性と出会っては恋に落ち、人騒がせな騒動をおこしながら最後はなんだかんだとフラれてしまう喜劇である。中高年を中心に絶対的な知名度を誇る超定番シリーズだ。

 そこでのデローザさんの役は、ティーガーの故郷に根を張った、これまたダメ人間だけどドコか憎めない無頼漢で素寒貧すかんぴんな大男、ガジューロ。劇中、ティーガーは毎回のようにマドンナを困らせる悪党どもと大ゲンカすることになるのだが、ガジューロはそんなティーガーに助太刀することも度々で、ティーガーと一緒になって悪党をコテンパンにのしつつ、最後はだいたい力尽きて川に放り込まれてしまう。そうした活躍の多さもあってシリーズでも屈指の人気キャラクターだ。

「あれで僕が最後に出たのが、ええと……」

騎士ナイトはつらいよ、ティーガーが戦車でやってくる。笑いました」

 後を引き取って俺が答えると、デローザさんは嬉しそうに「そうそう」と言った。そのナンバーもやってる内容はいつも通りのマンネリズムだったが、クライマックスにティーガーとガジューロの二人で敵の馬引き戦車チャリオットを奪って大暴れするという、シリーズでもかなり突き抜けて破天荒なシーンがある。

 ……そりゃま、チリアーニ作品とくらべれば遥かに大人しいが、『騎士ナイトはつらいよ』の基準で語ればじゅうぶん異色だ。

「終盤、ティーガーとガジューロが2台の戦車で街を駆け抜けるシーンがあったろう。その最後、公開版ではガジューロの戦車は道の行き止まりに激突して馬ともども放り出され、そのままリタイアという流れなんだが、あれが実は後撮りでね。元々あったのと差し替えてるんだよ」

「へえ? ウラ話ですね。既に撮っていたものには何か問題でもあったんですか?」

「……そこなんだ」

 デローザさんは沈痛な表情でコーヒーを一口すすり、深いため息をついた。

「私は基本的に自分でれるところは全て演りたい性質でね。あのカットも道が平坦な所では私が手綱を取って馬を走らせていたんだ。すると、街道沿いに妙に白い屋敷があるのを見つけてね。近づくにつれ、そこが結婚式場なのがわかってきた。折良く結婚式の真っ只中だった」

「はあ」

「もちろん私はその真っ只中に戦車を突っ込ませたんだ」

「……ん!?」

 この人、今なんて……。偶然目についた結婚式に馬引き戦車で突っ込んだ?

「ナ、ナンデ……?」

「昔から言うだろう? 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえってね」

「え? あ、ええ……、聞きますね……」

「せっかく馬に乗っていたことだし、一丁実践してやろうかと思ったんだ」

「だからナンデ!?」

「ところが君、いざ式場を駆け巡ってみたものの、恋路を邪魔してる奴が一人もいなかったんだ! こりゃあ拍子抜けしたよ!!」

「そりゃ結婚式だもん! 何もかもが円満に収まって最後の最後の段階だよ!? 今更邪魔しに来る奴があると思うか!? 邪魔してんのはあんたの暴れ馬だけでしょうが!!」

 俺が怒鳴るように指摘すると、デローザさんはハハハと軽快に笑った。

「君はまだまだ世間を知らないなぁ。大きな結婚式にはね、昔から式に乱入した上に花嫁を連れ出して駆け落ちしてしまおうなどと考える大それた輩が現れるものなのさ。いよいよ誓いのキスを、なんてタイミングを狙って教会の大窓を叩いてね、ちょっと待ったー、なんて叫んで大騒ぎするんだ」

「それ大昔の幻術じゃねえか! 現実とフィクションの区別をつけてよ!」

 紳士っぽい人となりに騙されてたけど……、この人もふつうにバカじゃないのか!? 馬鹿しか来ねえんじゃねえのか、この喫茶店!?

「ま、邪魔者を馬で蹴り飛ばすカットは残念ながら撮り逃がしたんだが、そうでなくても料理が満載した机を派手に蹴散らしつつ、わあわあはやし立てながら慌てふためく来客たちの間を疾走するのは最高にハチャメチャで楽しいシーンになったんだよ。めかし込んだ賓客たちが必死の形相で右往左往する姿も真に迫っていたんだ!」

 そりゃあ真に迫ってたんでなく、単純に真そのものだったからだよ……。

「……それなのに、マオリガッタもプロデューサーも本編に使用せず、セル版記憶宝珠メモロブのボーナスシーンにすら入れないと決めてしまった。あんなに面白おかしく撮れたのに、批評家連中の愚にもつかない批判や式を挙げていた夫婦からの小うるさいクレームを恐れてお蔵にするというんだ。私は耳を疑ったよ」

 握りこぶしを固めながら正気を疑うような熱弁を振るうデローザさんを見て、俺は確信した。こいつが完全にバカだってことを。新婚夫婦かわいそすぎんだろ。

「あれは確かに会心の出来だった! なのに、それを頭から否定されたのではなあ……。以来、常に感覚のずれを感じてしまって演技にも身が入らなくなり、すっかりスランプというわけさ」

 それまで、デローザさんの話の内容に呆れつつも静かに聞いていたアルタイプが身を乗り出した。

「それがデロさんの失踪の理由……。つまり、欲求不満?」

 彼が端的にまとめると、デローザさんは「感性のトンネルに囚われたのだよ」と悪びれもせずに反論する。

「なんだかなあ……」

 レティも同じく呆れ切った顔でこぼすが、デローザさんは怯まない。

「そう言うがね、自慢の仕事に無粋な横槍を差し込まれるのはあまり良い気分ではないものなんだよ、お嬢さん。それに夫婦には賠償もしたし詫びも入れたんだ」

 ……全く無関係の人の人生最大イベントを叩き潰しておいて、なに開き直ってやがんだコイツは。

「そもそも被害者を出さないのを大前提でやりなさいよ」

 もっともなツッコミを入れたレティが持っていたティーカップを置き、そこにエリスが紅茶を注ぎ足す。

「でもわたしちょっと分かるな〜」

 おいおいおいおい。

「これだ、って思ったら試さないと落ち着かなくなるっていうか、細かいこと気にしてられないっていうか」

「そうかね、このうずきがわかるかね? 流石はディンケンスさんのお弟子さんだ」

 こんなのに共感するとかマジ勘弁してください。

「それでも、失踪なんかしてないで、家族の方に連絡くらいした方がいいんじゃないでしょうか。心配してますよ、きっと」

 デローザさんはハハ、と笑って、

「そこも難しいところでね。経験的に言って、今の私の心理状態でウチのと一つ屋根の下にいれば、瞬く間にタチの悪い喧嘩になるんだな。夫婦といえど、長く同じ相手と生活をともにしていると、時には一人で過ごす時間も必要になるんだ。だからまあ、今のフーテンな状況は余計な火種を抱えないのと気分を変えるのとで一石二鳥なんだよ」

「それでも、連絡くらいしましょうよ。心配してますから」

 意外としつこく食い下がってきたエリスにデローザさんも調子を崩されたか、

「ああ、まあ……、連絡くらいはつけた方がいいかな、確かに。死亡届でも出されたらかなわんからね」と笑いにくい冗談を言った。

 そのとき、不意をつくようにして柱時計が「ぼーん、ぼーん」と鐘を五回鳴らした。5時だ。

「あら大変! さぼり過ぎちゃった!」

 レティが驚いた声をあげる。いつもの彼女なら3時くらいには店に戻ってるはずで、5時ともなれば、雑貨屋『orange』の閉店時間まで残り一時間だ。

「あーあー、もう!」

「今日はお休みになっちゃいましたね」

 エリスが苦笑して言うのに、

「仕方ないわよ、デローザさんが来てるんだもの。けどココだってほとんど開店休業状態だったじゃない?」

 ……確かにレティの言う通りであろう。なにせ謎の紳士の正体がデローザさんだと判明してから今の今まで、たった一人の来客も無かったのだから。またしても大丈夫だろうか、俺たち。

「俺も帰社するタイミングを見失っちまったなあ。さすがにもう戻らねえと記事書くヒマがマジで無え」

 椅子を引いてアルタイプが立ち上がった。

「日曜日なのにまだ仕事あるんですか?」

 エリスが問うのに対し、

「マスコミは曜日とかあんまり関係なくてよ。たまに今日が何曜日だったか忘れるぜ」

 さてと、とデローザさんも腰を浮かす。

「私もおいとましようか」

「えー、デローザさんはまだいいじゃないですか。ディンキー先生の事とか他にも色々聞きたいお話ありますし。それに今は仕事ないんですよね?」

 なんちゅう失礼な……。

「ハハハ、まあ実際その通りだ。また来週にでも寄らせてもらうよ」

「う〜、なんでしたら晩ご飯も用意しますよ?」

「おっと、それは魅力だな。しかし……」

「エリス、お客さんに我がまま言うな。それに」と俺は先ほど鐘を鳴らした時計を指差し、「もうすぐ常連さんが来る」と言うと、エリスは、「あ〜、そうだね。長くなるしね」と不承不承ふしょうぶしょうに頷いた。

「なに? 誰がくるって?」

 レティが聞いてくるのに俺は手のひらをヒラヒラさせて、

「企業のチェーンに勧誘されてる話、さっきしたろ。毎週そこの社員が二人連れで来るんだけど、それが決まって今くらいのタイミングなんだ」

「ねー、いつも5時半なんだよね。なんでだろ?」

「迷惑かけてないようにしてるつもりなんだろ、一応。昼の忙しい時間に来られたら鬱陶しいし、かといって閉店後に来て門前払いされたかねえだろうし」

 全く面倒くさい連中である。アルタイプが鼻を鳴らした。

「申し訳ないな、面倒をつかませて。断っても来るのか」

 エリスは肩を落として困ったような顔を見せた。

「もう来ないでくださいって言っても、また来ますって言われちゃうんですよねー」

「来てもほっとけばいいのに」

 レティがそう言うのももっともだとは思うが、

「いちおう一杯は頼んでいくからなあ……。向こうが客の体裁をとってくる手前、なかなかどーも」

「変なところで真面目なんだから、二人とも」

 とかいってレティは笑うが、同じ状況なら自分だってぞんざいに扱えないくせに。たとえ見えいた方便でも、客の立場を取られるとどうにもイニシアティブを取れなくなるのが俺ら接客業である。

 すると、アルタイプが腕を組んで「うーん」と唸った。

「脅してきたりはしないのか?」

 エリスはふるふると頭を振って答える。

「怖い事はないですよ。いっつもニコニコしてて、僕たちの仲間になったらこんないい事ありますよって説得されるだけです」

「そうか……。いっそ事件でも起こしてくれた方が何かとやりやすかったんだが、まあいいか。あ、デロさん。相談があるんですがね。溜まった鬱憤うっぷん、ちょっと晴らしていきませんか?」

「うん? 何を考えているのかな」

「いやなに、気分良く暴れてもらうにはいい機会なんじゃないかと思って。お帰りのところを引き止めて申し訳ないが、ここまで来たら最後までだ。乗り掛かった船だと思って、俺の罪滅ぼし、ちょっと手伝ってくれません?」

「おいおいおい」

 不穏な空気に思わず俺は口を挟んだ。

「なに考えてるの知らんけど、暴力沙汰は遠慮するよ」

 となりでエリスも首を縦にウンウン振り回している。アルタイプは手を振って、

「そんなんじゃねえよ。俺はともかく、デロさんにそんな真似させられないだろ? 演技だよ、演技。ちょっとした小芝居打ってびっくりさせて、この店のことは今日限り諦めていただこうって算段だ」

「小芝居?」

 やはり妙なことを言う。だがアルタイプは自信ありげな顔で小脇に抱えていたセカンドバッグから分厚い手帳を抜き、そこに何かをもの凄い速さで殴り書きしだした。書きつけながらも器用に俺たちに話し始める。

「いいか? 向こうの目的は学祭のイベントを成功させたお前らごと、ココを手前の内懐うちぶところにしまい込みたいってトコロにある。非常に明快だ。だからこそ何度断ってもメゲずに来ちまうんだよ。社命で来てるのに明確な理由なしには帰れないんだからな」

 そりゃまあそうだろう。ガキの使いでもあるまいに、行ってみたけど無理でしたと報告して上司が「じゃあわかった」とは言うまい。こっちにはいい迷惑だが、してみると命令を受けた彼らにしてもとんだ災難だったわけだ。

「でも、特に理由があって断ってるんじゃないですよ。なんかイヤだからイヤなだけで」

 エリスが子供のワガママみたいなことをいうので俺が補足する。

「どこかの系列店に加わったら、これまで曲がりなりにも積み重ねてきたCafeにちようびうちらしいサービスを提供できなくなる訳で、それは俺たちにとって全くの本意ではないから、だ」

「そうそう、そういう事を言いたかった」

 嘘こけ。するとアルタイプが「だが、」と割り込んできた。

「彼らにしてみたらそれは断られる理由にはなってない訳だ。しつこく押せばそのうちイケそうだ、ってな。そこで、俺たちは彼らが納得するに足る理由を提示してやらなければならないことに気づく」

「納得するに足る理由?」

「簡単だ。もうこの店が既に他のグループの一員になってるって事にしたらいい。フランチャイズの二重登録は向こうだって願い下げだろ」

「えー? そんな簡単に行くかあ?」

 俺は鼻を鳴らし、エリスも不満げに口を尖らせて

「嘘をつくのは、ちょっと好きじゃないですねー」と言う。嘘こけ、と俺は心の中で突っ込む。

「だから芝居だって。降りかかる火の粉を躱すための小芝居。君も幻術科なら自分でも演技の経験積んどいた方があとあと得なんじゃないのか? それに今日は稀代きたいの名バイプレイヤーがいらっしゃる。なかなか得難い機会なんだぞ」

 まあそれはそうかもしれないが。しかもデローザさんは既に身を乗り出して笑顔を見せていた。

「それで、プランは纏まるのかな? リハする時間も殆どないぞ?」

 もうすっかりデローザさんの顔がニヤニヤしていた。どうも状況が厳しくなればなるほど盛り上がるタイプなようだ。初見を気弱な営業マンと見立てた俺の目は、どうやら相当の節穴だったらしい。

「至極大雑把ですけどね」

 アルタイプはずっと書き続けていたメモから数枚ほどピリッと破り取って俺たちに見せる。

「これ……、応答集?」

 文字の羅列を一瞥いちべつして俺がいうと、彼は「そうだ」と頷いた。

「相手と脚本を合わせてる訳じゃないからアドリブ劇になっちまうが、まあこっちには名優がいるし問題ない。君らの演技力に頼るようなことはほぼ無いよ。標的が到着したら、そこにセットしたセリフを少しと、ちょっとした仕種しぐさをしてくれればあとはデローザさんにバトンタッチだ。そんなに難しくはないだろ?」

 簡単に言ってくれるけどなあ……。

 そしてエリスは、渡されたメモを熱心に読んでなにやら顔をニヤつかせた。

「これ、ちょっと面白そう……。あ! このセリフ、一度言ってみたかったヤツだ!」

 とか何とか言っている。おいおいマジかよ。

「おー、その意気その意気。上手にやろうだなんて考えなくていいぞ、重要なところはデロさんがやってくれるからな」

 言われてエリスはデローザさんにむかって「よろしくお願いしまッス!」なんて直角に礼をしている。さっそく新人気取りかいな。

 デローザさんも「まあ頼むよ」なんて鷹揚おうように笑ってうなずいた。

 急速におかしくなってゆく展開に心の中でため息をつきつつ、俺はいちおうデローザさんに意思を確認してみる。

「いいんですか? なんか珍妙な方向に進んじゃってますけど……」

 するとデローザさんは「何を言ってるんだ」とまったく意に介していない様子で答えた。

「こういう状況で腕と経験を頼られることこそ役者冥利みょうりに尽きるというものだよ。筋書きのない展開、先の見えない緊張感の中の一発勝負……。いいじゃないか! 失敗を恐れて何度も撮り直してるようじゃあまだまだ、演技はライブ感が生き死にを決めるんだ!」

 そりゃアンタはこれを失敗したって生きも死にもないだろうが、痛い目を見るのはウチなんだ、痛い目を見るのは。

「それにアルタイプ君は、編集者になる前は小さな劇団で座付き作家をやっとったからな、彼の脚本ホンは素人のソレではないよ。たまたま私と縁のあった劇団だったもんだから彼の事は昔から知っているんだが、まあそれなりに有望な物書きをやっとったんだ」

「え〜」と俺が疑いの声をあげ、エリスが「そうなんですか?」と当人に水を向けると、

「まあ、な。昔の話だ」

 と濁したような回答を寄越した。

「なんで作家さんやめちゃったの? 面白そうじゃない。デローザさんも認める腕なんでしょ」

 と食いつくレティ。

「いや、色々あって……。だから全部過去のことなんだ。もう劇団に俺の居場所もない」

「はあ?」

 ああ、これは追い出されたな、と俺は直感する。そしてこの、人の目線から逃れたがるようなアルタイプの態度……。どうせ金か女か、いずれロクでもない絡みだろう。

 ふと、レティが何か大切なことに気づいたような真面目な顔で口を開いた。

「ところで、私の出番もあるのかしら?」

 アンタまで一体何考えてるんだ……。それに対してアルタイプが「出たい?」と聞き返すと、

「もちろんじゃないの!」

 一転、嬉しそうな顔を見せる。ていうかアンタも自分の店の面倒みようよ。

「しゃあねえなぁ……、流れ次第だ。まいいや、ひとまず配置について一回リハ通してこーか。デロさん、店長ちゃん、セリフ入りました? ひとまず俺が犯人役やりまーす。ハイ時間無いよー巻いていくよー。んじゃデロさん、細かいところは出たトコ勝負でバシっと決めちゃってください」

「ああ、任せなさい」

 事態を楽しんでいるデローザさんは笑顔で頷き、エリスはあわててキッチンの中へ引っ込む。まだ『出番』が用意されていないレティはひとまず店の奥のバックヤードへと戻り、やおらに始まったリハとやらの様子を少し見守ってから俺も奥に下がったが……、嗚呼、俺は普通に喫茶店をやってつつがなく日々を暮らしたいだけなのに、なんでいつもこうなるんだろう……。




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