第61話 ヘルカスの危機

ジン達の新居にセモアの領地を治めているジバルサバル男爵と共に尋ねてきたハリス侯爵夫妻と娘フェリシアが、ジンの新居のトイレと風呂場のシャンプーセットに感激して騒いだ夜も静かに過ぎ、爽やかな朝を磯の風が運んで来てくれている。


「おはようございます、侯爵様ご夫妻、良く眠れましたでしょうか?」


「おぉ、気持ち良く久しぶりに熟睡できた。気持ち良い朝を迎えられたよ!」


朝食を食べてジンとハリス侯爵は昨日応急処置をして戻ってきたヘルカスの街から王都寄り3キロの掘削現場に【転移】した。


この地は生憎、王族派の領主ではなく中立派のエルバル伯爵が治めている。


ジン達が着いた時にはドワーフの数人が又もやシールドをしてない部分を掘り起こしてしていた。


ハリス侯爵が止めるのも聞かず掘削をするので、やもうえずドールが実力行使して全員を束縛した。


ドワーフは元々【土魔法】に長けている民族で、ドールも少し手こずっていたが、それも殺さずに束縛すると云う条件で戦っている為で、いくら彼らが【アースウォール】で自分等の身を守っていても、ドールが背中に羽を現して飛翔してレーザービームで倒せば簡単なのだが、そうもいかない。


彼らの【土魔法】をジンが【ディスペル】で無効化して、ドールが【縮地】で彼らに当身(アテミ)を食らわし、意識を奪ってからジンが【闇魔法】の【呪術の縄】

で全員を縛り上げた。


しかし、彼らはエルバル伯爵の許可を貰って掘削をしていると口々に文句言って来るので、ジンが改めてミスリル製の物体は巨大な魔物を閉じ込めて居る構造物の一部で壊れて魔物が出てきたらこの街だけでは済まなく、世界が滅びるほどの魔物だと説明した。


ドワーフはそんな魔物はいる訳がないと取り合わず埒があかない。


とりあえず、再び作業を始めない様にジンが【呪術の縄】で解けないようにしてさらに保険のために【結界】内に入れて、エルバル伯爵と話合う事になった。


エルバル伯爵は、ミスリルが街を活性化するのに役に立つ為に掘削は辞めないと我を張って譲らない。


ハリス侯爵の方がエルバル伯爵より爵位は上なのだが、自国領地を掘削するのに侯爵殿がそれを止める権利は無いと頑として譲らない。


「侯爵殿、私は自分の領地の民の為に掘削を続けると申しておるのです。決して我が私利私欲の為では無いのですぞ!」と嘯いている。


ジンは「街が全滅してもかまわないと言うのですね?」


「魔物が出てきたら儂らで殲滅してやる、あなた方の力は必要ない」


「伯爵、王命でもか?」


「侯爵殿如何に王命でも、自分の土地を掘る、掘らないは王様に指図は受けない」


「分かった!お主が魔物に食われようが我々は感知しない。しかし魔物を殲滅出来ないからといって間違っても国は頼るな!わかったな」


「ジン君、急いで戻り対応しないと・・・」


「分かりました、とりあえず戻りましょう」


ジン達は戻り、ハリス侯爵家族と宿に泊まっていた騎士団達を王都のハリス侯爵邸に【転移】させた。


ハリス侯爵は直ぐに王様に面会を求め事の顛末を説明、中立派の重鎮ガウレス侯爵を呼び会議を開いた。


中立派は魔物の存在自体に懐疑的でエルバル伯爵が処理出来ると言っているから問題ないと放置する事を求めた。


「わかった、もし魔物がお主らの手に負えなくなった場合は死を持って償え」と王様は宣言した。


ジンは王都のギルドマスター、フェイトに状況を説明し、ヘルカスから冒険者を含めギルドスタッフ全員を一時的に王都かケーベルに退避する事を勧めた。


しかし、ヘルカスのギルドマスターは「領主の伯爵が死のうが我らの知ったことでは無いが、このヘルカスの市民を守る事がここのギルドの役目で冒険者達もそのつもりなので、ご好意はありがたいが、魔物が出て来たら我々は戦います」と言って避難することは断って来た。


ジンは侯爵に一旦セモアに戻り、皆んなを連れて戻って来る旨伝えた。


「ジン君、もし王都に寝泊まりする際は我が屋敷を自由に使ってくれ6人が泊まれるように準備をして置くぞ」


「ありがとうございます。ドールは私直属の眷属の様なアンドロイドと云う人工物なので宿泊施設は必要ございません。我々はいざという時はお言葉に甘えさせていただきます」そう言ってジンは戻った。


セモアに戻ったジンは皆に状況を説明し、恐らく数日中に異界の魔物と戦う事になるかも知れないので準備しておいてと伝えた。


「イザベラ、イリーナさん、イリアさんは絶対に『シールド』の指輪で車から出て戦う時は自分を守ってくださいね」


魔物の力は古代人の資料で事細かにわかってますが、この地にきてから数百年以上経って、どのように進化しているかわからないですから」


「ジン、一応私たちに異界の魔物の種類とスキルや攻撃力を教えてくれる?」とイリーナが言った。


「そうですね、お昼ご飯を食べたら夕方までリビングで座学をやりましょう」


お昼を食べて、アメリカンコーヒーを飲みながらジンが説明を開始した。


「異界の魔物は全部で35種類、総数は不明ですが種類からいって、数もかなりの数がいると思ってください。一番弱い魔物がゴリンプソグナという魔物で絵柄はこんな感じです」と言って、古代人の描いた物を皆に見せた。


「何となく可愛らしく見えるね!一番弱いのもわかるけど・・・」イザベラ。


「イザベラ、コイツが黒龍を瞬殺するほど強いのだよ!」とジン。


「この世界の黒龍を討伐するのに冒険者のSランクが3人かかって半日かかる事を考えれば、一番弱いゴリンプソグナ1匹でヘルカスの街は全滅させられます」


「俺はきょう、エルバル伯爵と話しをしていてつくづく馬鹿だと思ってしまったよ!自分の私利私欲のためにヘルカスだけでなくこの国、いやこの世界が滅びることも厭わないなんて・・・」


「次の魔物は二番目に弱いアルバートザウルス、こいつは火の耐性がものすごく強く逆に寒さに弱いのでその辺りが攻め所ですね、この辺りは全て剣で問題なく切り倒せます。次はメガロサウス、次が・・・」と33種類の魔物を説明して最後の2匹の魔物を説明する。


「35種類の魔物の中でこの2匹は別格な程強い、まずはトリケラトプスだが頭部に有る角は強力でアダマンタイト鋼さえも簡単に打ち砕きこの角の破壊力を止めることは出来ない。コイツには魔法は有る特殊な魔法例えば【亜空間魔法】や【ブラックホール】や【イレージング】は効くがそれ以外の魔法は全く効かない。しかも、ハリス侯爵の剣では斬れなかった」


「最後に異世界の魔物の中で最強のヘルティラノドラゴンは黒い霞のようなシールドを纏、全ての魔法を無効にし、全ての物理的攻撃を防いでしまうシールドの役割をしている」この2匹に関しては今の所俺とヒューイしか相手にならないとおもっている」


「それって私たちでも異界の魔物では相手にならないのでは?」とイザベラがいう。


「いや、最後の2匹以外は火に強い魔物は【アイスアロー】と【ブリザード】の合成とか【ウィンドカッター】とか今の3人の魔力であれば首を切り落とすことはそれほど難しくはないです。勿論古代人の生きていた頃の話で、今どの様に進化しているかは分かりませんが・・・」


「ヘルカスにいる伯爵の騎士団では上位でなく下位の魔物がこの地に出てきても仕留めるのは無理なのでは?」とイリーナが心配して言った。


「はい、間違いなく全滅するでしょ!中立派の連中が黙って見ていろと我々にいってきたので私達、ハリス侯爵と俺は伯爵達が全滅しても手出し出来ない、いやしないことにしたのですよ。ただ罪なきヘルカスの人々を守るため城壁から中には魔物を1匹たりとも入れさせないようにしますよ」


「ドールすまないがその時はヘルカスの城門の上から俺に念話で伝えてくれ、転移で全員向かうから」


「任してください」


「あとヒューイ、お前の『神龍剣』で魔法を放つ魔物がいればその魔法を奪い取り、特殊なスキルが有ればそれも奪い取ってくれ。最強の2頭の魔物は直ぐには出て来ないかもしれないが他の魔物が出て来たら頼むな」


「任せて、パパの期待に答えるわ」と頼もしい答えが返ってきた。


「次はメガロサウス、次が・・・」と33種類の魔物を説明して最後の2匹の魔物を説明する。


「最後に異世界の魔物の中で最強のヘルティラノドラゴンは黒い霞のようなシールドを纏、全ての魔法を無効にし、全ての物理的攻撃を防いでしまうシールドの役割をしている」この2匹に関しては今の所俺とヒューイしか相手にならないとおもっている」


お茶を追加で飲みながらケーキを出そうとしていたらハリス侯爵様から『遠距離通話器』で緊急連絡が入った。


『ヘルカス駐在のギルドからついに見たこともない魔物が地上に現れて、掘削をしているドワーフ35人が全員食われて死亡し、エルバル伯爵の騎士団が向かったが戻ってこない』と連絡が来た。


「みんな、ついに魔物が地上に現れた、古代人の二の舞にならないために行くぞ!」


『空飛ぶ車』に全員が乗り込み、王都のハリス侯爵の侯爵邸の中庭に一瞬で現れた

ジン達一行はお茶を飲みながら行ったヘルカス住民の避難の仕方を侯爵に説明して

侯爵とフェリシア二人と騎士団10数人を乗せヘルカスの冒険者ギルドに【転移】した。


ギルドマスターは王都から連絡を受けていてハリス侯爵、フェリシアさんの宿と騎士団10人の宿を抑えてくれていた。


ジンたちは街の中央広場の噴水の側に『空飛ぶ車』を駐車して車内で夜を過ごすことにした。


実は宿も取ってくれていたが、トイレやシャワーは車の方がお風呂もあるしトイレも水洗で過ごしやすい。


車は完全に【シールド】で守られていて、安全だ。


幸い異界の魔物の中には翼があって空を飛ぶ魔物はいない。


城壁を飛び、空を飛んで街に入ることはない。


勿論古代人の記録によればであるが・・・。


既にエルバル伯爵とその騎士団3000人が魔物殲滅に向かっていた。


「悪いがドール、伯爵達と魔物の状況を伝えてくれ」


「かしこまりました」とドールは車から出て空に飛び出し、上空から伯爵達騎士団3000人の騎士団と魔物の数匹との戦況をみていた。


[一方的に魔物にやられており、既に半数以上の騎士が食い殺されています]


[伯爵はどうしてる、片腕を失いおそらく、あっ、今首ごと引きちぎられて食われてしまいました]


[騎士団が敗走して城門に向かって逃げて来ますが魔物に殆ど食われて行きます]


[こちらに来そうか?]


[いえ、魔物は引き返して掘削した穴に戻って行きますね、口に2体、手に3体の死体を抱えて入って行きました]


[よし、俺が行って、取り敢えず穴を埋めてシールドで塞いでこよう]


ジンは【転移】で簡易的にダンジョンの外壁破損部分を修理してシールドで固めた。

車に戻って来て一応待機することにした。


[ご主人様、3000の騎士のうち70名程が敗走してもう直ぐ街の門に戻ってき

ます]


[ドール、もういいぞ、戻っておいで]


ジンは侯爵が泊まっている宿に向かい、結果を報告した。


「侯爵様、王様にに連絡して中立派を全員この街に派遣させて守らせましょう!彼らは責任持って守ると言っていたのですから・・・」


「ジン君とりあえず中立派のガウレス侯爵の館に【転移】して現況をいい、責任を取って中立派全員でヘルカスの街を守れと伝える」


ジン達はガウレス侯爵の館に【転移】した。


ジンは「ガウレス侯爵、俺はこの国の貴族でもなんでもないがあなたが決めたことがこの国ではなくこの世界さえも滅ぼしてしまう結果を呼んだ事をしっかり考えろ、さもなくば俺があなたの首を簡単に消すからな」そう言って、ガウレス侯爵の側の机を一瞬で消して見せた。


「ガウレス、とりあえず責任を果たせ、中立派全軍で今直ぐ動け」とハリス侯爵が責めた。


ガウレス侯爵はまさか本当に異界の魔物がこの地上に出てエルバル伯爵が率いる3000人もの騎士団が殲滅するとは予想だにしてなく、震えながらも直ぐに準備に取り掛かった。


[パパ、異界の魔物は一旦ダンジョンの中に戻って3000人の騎士団の死体を皆で食べているみたいよ]とヒューイから念話が入った。


[俺も車に戻るよ]


ジンは侯爵と戻って来て、敗走して戻って来た伯爵の兵士に補修した穴の監視をさせてジンは車に戻って来た。


夕食を食べてないのを思い出して、皆でナポリタンの大盛りと果実ジュースで簡単に夕食をとり、【サーチ】をかけて城門の外から魔物が来たら直ぐわかるようにして早めに休んで明日に備えた。


中立派の軍隊の先陣がここに到着するのは早くても2日後なのでそれまではここを逃げ帰った敗残兵にみさせてハリス侯爵はいったん王都の侯爵邸にジン達と戻ることにした。

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