第44話 キースでの1日

ハリス侯爵領地の山が夜になると光り、近くのトキロの村人が行方不明になる件を捜査していた冒険者のBクラス、Aクラスの連中も戻らず侯爵直々にジンに調査の指名依頼が届き、久しぶりにキースの街に戻って来たジンとイリーナ親娘は、皆の活躍で事件を解決した報告と強盗団に掘削された硝石を侯爵様に返すべくギルドで待ち合わせをして居た。


打ち上げを”とまり木”で行った翌朝、ギルドに向かう前に久しぶりに朝練をするジン。


翌朝ジンは久しぶりにバスターソード『剛力』を担いで、裏庭で素振り5000回をして、部屋で坐禅を組んで魔素の流れを意識しながら瞑想し、それを解いた。


ジンはキースの街に絞り込んで<タブレット>で【GOD】に『硝石の集積場』と入れてenterをポチった。


すると街はずれの1軒の倉庫が点滅した。

【転移】してその倉庫の場所に行き確かに硝石が有るのを確認して念のため【プロテクション】を張って誰も近づけないようにした。


再び”とまり木”に戻りヒューイと食堂に向かった。

朝食を皆でワイワイ食べてギルドに向かう。

リリアンがすぐに全員をギルドマスターの部屋に案内してくれる。


「お疲れ様、昨夜は貴重な我がギルドの冒険者達を無事に取り戻してくれてありがとう」とギルドマスターのギルバートが皆にお礼を言った。


事の顛末を細かくは伝えずおそらく侯爵様から報告が行くと思うと言葉を濁した。


ギルドマスターと話をしていたら、ハリス侯爵が来て「ジン君昨夜はお疲れ様だったね!それじゃ、奴らが隠して居る場所に行こう」


かなりハリス侯爵は焦っているようだ。

まぁ、それも解らなくはない。

なにせ、王族派の重鎮であるハリス侯爵様の地元の領地の山を無断で貴族派の連中に盗掘されて、村人まで掘削のために攫われていたのだから・・・。


「ジン君、硝石を隠している場所は分かったのかね?早速行きたいので案内を頼むよ」


ハリス侯爵はギルドマスターのギルバートも一緒につれてジンの後に付いていく。


ジンが事前に調べて【プロテクション】を掛けておいた倉庫に侯爵たちを案内した。


ハリス侯爵が「この倉庫は誰の所有の倉庫だ?」とギルドマスターのギルバートに聞くと、「ここは錬金術師のトムソンと云う奴の倉庫です」


騎士団に言って「トムソンをここに連れてくるように」と伝え「ジン君なかは確認したかね?」

「はい、間違いなく硝石が山盛りになっておかれて居ますよ」


トムソンが騎士団に連れられて、やって来た。


「何だい、こんな朝っぱらから!」


ジンは【鑑定】をしてトムソンを見ると、職業が騎士と出て、錬金術のスキルは持っていない。剣技スキルが50と出ている。


ハリス侯爵が「ここは君の倉庫だそうだが、なかには何が有るのだ?」


「これはこれは領主様、この中には錬金術用の素材が入っていますよ」


つかさず、「あなた自身錬金術をやるのですか?」とジンが聞いてくる。


「誰だお前?俺は錬金術師だぞ、自分でやる以外誰がやる?」


「へぇー、あんた錬金術ができない人がどうやって作るのか見せてくれ、ねぇ騎士さん?」


すると、いきなりダガーを抜いてジンに向かってくる。


軽くかわして首に手刀を当て意識を刈り取った。


「ハリス侯爵様、こいつは騎士と【鑑定】で出てます。錬金術のスキルは全く持ってませんので貴族派のアーネスト公爵の部下だと思われます」


「騎士団長、兵士に言って、こいつを監獄に連れて行け、他の者達はこの硝石を荷台に積んで昨日の山に持って行って全て埋め戻せ!」

「はっは!かしこまりました」と騎士団達は倉庫の中に入り、硝石の山を袋につめて、荷台に乗せ山に持っていき坑道の中に埋め戻した。


侯爵とジンも一緒に行き、埋め戻した隙間をジンが土魔法を掛けて【整地】し元の山肌に戻した。


ジンと侯爵はトキロの村を通って連れ去られていた村人達を見舞った後、キースの街に戻って来た。


ハリス侯爵と騎士団長とジンは、冒険者ギルドの会議室を借りて今後の話を詰めていく。


先ずは侯爵が王様に今回の事件の顛末を伝え、図書館の地下に広がる古代人が創ったダンジョンの事が貴族派のアーネスト公爵に知られてしまった事を伝えて彼だけが知っているなら彼の記憶を消し去る事も選択肢のひとつだと伝える事にした。


今後のジンの対応は侯爵と王様との打合せの結果を待って決める事になった。


ハリス侯爵はジンに依頼達成の白金1枚と更に賊を捕まえ硝石のありかを見つけた褒賞として金貨20枚を渡してくれた。


ジンは”とまり木”に戻り、お昼までのんびり仮眠した。


目がさめるとジンは<タブレット>の【GOD】に貴族派、アーネスト公爵邸はどこ?と打ち込んでenterをポチった。


王都ダルゼの公爵邸とベルヘアと云う街に公爵邸を構えて居た。

ジンは”いずれ近々お邪魔するよ”と独り言を呟いた。

ジンはヒューイとイリーナ、イザベラ、フェリシアを伴って、”魔女の道楽”近くの定食屋で昼食を頼む。


イザベラとフェリシアは久しぶりなので”魔女の道楽”でお茶を飲みながら時間を潰すと言い、イリーナは追加の魔道具をドロシーさんと確認しながら店に立つようだ。


ジンはヒューイとドアーフの親父の処に行って、ミスリル製の剣を渡してこようとデロスの親父さんの処に行く。


「親父さん、久しぶりです。刀を研いで貰うのと、ダンジョンで手に入れたミスリル製の剣を親父さんにあげようと思って、俺には必要無い剣だから」


「おお、ジンか!久しぶりだな。お前幾ら要らない剣だからと言ってミスリル製の剣をタダで人にあげる奴がいるかよ!」


「いやー、親父さんには世話になっているし、俺にとっては最高の刀を安くして貰ったから全然気にしないでくれよ、代わりにまたこの刀を明日の午前中迄に、少し早目に研いでくれないですか?」


「どれ、ちょっと見せて見ろ」

デロスはジンから剣を受け取り、鞘から抜いて眺めた。


「流石超一流の剣士だな、お前は!全て全く同一の場所だけで切っているな、正に名人芸だ!」と褒めてくれた。


「きょうは暇だから、夕方迄に仕上げておくから、夕食前に取りにこい、やっとくからな!」


「ありがとうございます」と言ってジン達は"魔女の道楽"に寄ってみる。

イリーナさんはドロシーさんと話こんでいて、イザベラとフェリシアは作業場で魔法談義に花を咲かせていた。


「ドロシーさん、お店の方の売れ行きはどうですか?」とジン。


「『マジックテント』が凄い人気よ!イリーナさんが追加で沢山持って来てくれたから助かったわ!」


「それは良かった!今度来る時は新しいアイテムのやつも考えて持ってきますから期待して下さい」とジン。


「ジン君、何か新しい物を考えているの?」とイリーナ。


「はい、防御服とか魔法補助的な杖などが有ればと思ってます。魔力増幅よりもその人が持っている魔法特性を瞬時に引き出す杖が有れば、魔法師の人はすごく喜ぶかなって思って」とジンが答えた。


「そうね、魔力増幅の杖より自分の特性を伸ばす杖の方が普通の魔法師には向いているかもしれないわね」とイリーナ。


「来月迄にジン君の方で作れる?」


「ええ、大丈夫ですよ、20本程度作っておきます。魔法特性別がいいのかな?それとも持つ人間に選択させる方が良いですか?」


「作るとしたら、特性別に作った方が楽でしょ?」とイリーナ。


「それはその方が全然楽ですよ」

「それじゃ、火、水、風、土を3本ずつ、こちらと本店の両方に置きましょ!」


「分かりました、全部で24本作っておきます」


「ジンは商売の事しかし考えられないの?」とイザベラからクレームが出る。


「ごめん、ごめん、イザベラとフェリシアさんはこのあとどうするの?」


「私達は、フェリシアと久しぶりなので街を散策しながら洋服見たりしようかと思っているわ」


「それじゃ俺とヒューイは夕食前迄、宿でゆっくりしてるよ」


ジンとヒューイは昼食を食べてお腹が一杯なのもあり、宿の部屋に入って

ひるねをした。


このところの疲れが溜まっていたのか、二人とも熟睡して起きたら既に5時近くで、ジンとヒューイは研ぎに出した『煌剣』を受け取りに、デロスの親父さんの店に行った。


「デロスの親父さん、どう?出来上がっている?」


「おお、ジンかぁ!もう、綺麗に研ぎ終わっているぞ、見てみろ」


ジンが鞘から『煌剣』を抜くと綺麗になっている『煌剣』が光り輝いていた。


「さすが親父さんだね、名人芸だ。幾ら払えばいいですか?」

「馬鹿言うんじゃねえよ、ミスリルの剣を貰ったジンから金なんぞ取れねえよ。キースに来るたびに俺が研いでやるから遊びによってくれ。いつでも見てやるからな」


「ありがとう、親父さん。又いい剣とか材料が手に入ったら持って来るね」とデロスに挨拶して、宿に戻った。


食堂にはイリーナさんとイザベラ、フェリシアさんが既に座って待っていた。


「どこ行っているのよ」とイザベラ。


「ごめん!剣を研ぎにデロスの親父さんところに」


「あら、デロスのおじさん元気だった?」とイザベラ。


「うん、元気も元気、相変わらずだったよ」


「さぁ、ジン君、ヒューイちゃんが揃ったところで夕食にしましょう」


「ローリーちゃん、全員揃ったから夕食お願い!」とイリーナさん。


「ハーイ!イリーナおばさん、エールは?」


「そうね、私以外は果実ジュースで」と言ってエールとジュース4本を頼んだ。


「なんとか、キースの事件も解決したけど根本的なこの原因を作った王都の古代人ダンジョンの件は解決してないわね。どうするのジン君」とイリーナがエールを飲みながら他の客に聞こえないように【遮音】をテーブルに掛けてジンに聞いてきた。

「侯爵様が王様に今回の事件を伝えて、貴族派のアーネスト公爵から他の貴族派に王都の地下ダンジョンの話が広がっているのか、はたまた、アーネスト公爵の所で止まっているのかに依ると思うのですよ。もし、他の貴族派の連中も地下ダンジョンの事が知れ渡っていたら、再度ダンジョン全体を【プロテクション】で破壊されないようにしないといけないですね!」


「どうせ、15人、いや、倉庫の人間もいれて16人の証言があっても、公爵はしらを切るわね。おそらくトカゲの尻尾切りに終わるわ」


「俺もそんな気がします。彼の所だけに地下のダンジョンの件がとどまっているなら、彼の記憶を消去してしまえばいいので楽なのですが・・・」


「何れにしても、王様と侯爵様との話次第ね」とイザベラはいったって呑気だ。

「でも、フェリシアのお父様とギルドマスターのギルバートは少々ショックよね!よりによって自分たちのフィールドが荒らされていたんだから・・・」


「そうでしょうね、お父様のあんなに悔しがるお顔を見たのは初めてですわ」とフェリシアも悲しそうな顔をした。


「フェリシア、この後、侯爵様と母上様も王都に行かないとダメね?王様と打ち合わせをして対応を考えるなら」とイザベラ。


「そうなるわね、明日家に戻って王都の屋敷に行く準備をすることになると思うわ」


「そしたら、王都でまた会えるわよ。私たちも王都に戻るから」


「イザベラはいいわね!いつもジン君が側にいて!」


「ええ?別に単なる下宿人よ、ただ人外な下宿人だけど」

「それに、殆どヒューイちゃんとドールと3人でギルドばかり行ってクエストを受けているから、下宿にはいないもの、ねぇ、ジン?」


急に話を振られたジンはケルピーのバター炒めを口にくわえたまま、フリーズしてしまった。


「貴族派がここまで暗躍していると、フェリシアさんやお母様も王様の方から呼び出されることもあるわね?私もだけど・・・」とイリーナ。


「イリーナさん、フェリシアさんのお母さんも魔法師なの?」とジン。


「ええ、ハリス侯爵一家は王家専属の回復術師と王家専属の攻撃魔法師で侯爵様の奥様は私と一緒のこの国で3人しかいない魔法属性4属性持ちの攻撃魔法が得意の魔法師よ」


「イザベラも無属性魔法とマジックアイテムを駆使すると5特性だから呼び出される可能性があるね」


「実は、イザベラに関しては私が公にしてないから王様たちに知られていないのよ、恐らく私より魔法特性が一つ多いしマジックアイテムをジン君があげてるから、ジン君たち3人を除いたたらこの国ではトップの魔法師になるわ」


「じゃ、実際は3人ではなくフェリシアのお母さんとイリーナさんふたりと云うこと?」


「まぁ、そうなるわね、3つ持っているのが筆頭魔法師でジン君が一瞬で負かしたスーベンスと云う魔法師よ。彼は風の攻撃魔法が得意なの」


「そうですか・・・」

”とまり木”で夕食を食べ終えて、明日はフェリシアを侯爵邸に送ってから王都に帰ることになったジン達は早めに打ち上げて、各自の部屋に戻るのだった。

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