第22話 新たな試み

キースから無事に戻って来て王都で黒龍と『エリクサー』のオークションが開かれる日を迎えた。


いつものようにジンとヒューイ、イザベラ、イリーナそして今日はドールも連れて来て居る。

今回も後ろの席で、番号札を持って、司会者の開始の言葉を待っていた。


司会者が「みなさん、今回のオークションの売りはまたまた出ました、『エリクサー』なる高級ポーションと何と黒龍1体丸々、もちろん鱗から牙から全て揃った完全体の黒龍が出品されて居ます。ご期待下さい、それでは開始します」


今回もハリス侯爵邸の大広間が会場となっていた。

前列と二列目に王族、貴族達が陣取って座り、三列目に有名どころの豪商が

陣取り、四列目からが小売の魔道具店、錬金術店、Aランク以上の冒険者が

座っていた。


「ジン君、面白そうな魔道具があれば札を上げて金額を言えばいいからね」

とイリーナが説明してくれた。


「イリーナさんやイザベラが気になる魔道具や素材が有れば言ってくれ、俺が札を上げて入札するから」


最初は普通のポーションのセットとかオークの毛皮などが出てくるが、アーティファクトの類はまだ出てこない。


しばらくして、『隠蔽の指輪』というのが出て来た。

何でも魔力、スキル、特殊能力を隠し、【鑑定】のスキル持ちからも隠蔽出来るマジックアイテムだ。


白金1枚から始まった。

白金2枚、3枚・・・5枚金貨50枚。


「ジンは必要ないの?有れば能力隠せるよ」


「俺はもともとステータスを改竄して居るし、スキルは読めないように【隠蔽】をかけて居るから、ただヒューイやドールには有ればいいけどね」


白金5枚と金貨50枚で値動きが止まった!


ジンが動いた、「白金6枚!」


司会者「白金6枚が出ました!どうですか?他はありませんか?、はい、では白金6枚59番の方が落札しました」


「イリーナさん、これって冒険者カード払いが出来るのですか?」


「もちろん大丈夫よ」


「でも、ジン君の場合出品して居るからそちらから値引いて貰った方がいいのじゃない?」


「そんなこともできますか?」


「勿論よ!」


「ジンって物知りのくせに、以外に常識的な事が分からないわね!」とイザベラ。

「そりゃ、このオークションのシステムをよく分からないからだよ」


「それでジン、あの指輪をどうするの?」


「うん、ドールに付けて貰うつもりなんだだけど考えたら俺がアイツに【エンチャント】で【隠蔽】を掛けて上げれば良いから店せで売る為のサンプルにでもするよ」


「ヒューイはもともと神龍だから隠す必要もないからね」


それ以降はジンが特に興味を引くものはなく、いよいよジン達が出品した『高級ポーション・エリクサー』が出て来た。


「いよいよ『エリクサー』です、白金5枚から行きます」


「白金15枚」

「おお、いきなり15枚になりました」

「白金25枚」

「白金40枚」

「白金40枚金貨50枚」

「白金45枚」「白金45枚が出ました、他にいませんか?」

「白金46枚」

「おお、白金46枚、どうですか?他には?」


「白金46枚金貨80枚!」と三列目の豪商から声が掛かった!


「は〜い、それでは白金46枚と金貨80枚で決まりです」


「いよいよ最後の大物、黒龍です。この大広間さえも入らない巨体です。完全体の黒龍、左の中庭に見えますのでご確認下さい。ものは当方がかくにんしております。先ほどまで【次元ストレージ】に入れてありましたので死んだ瞬間の状態のまま保存状態も完璧です。白金10枚から行きます」


「白金30枚」

「白金50枚」

「白金60枚」

「白金65枚」

「白金75枚」

「白金80枚」


「白金100枚」と王族派ではない貴族が声を上げた。


「白金110枚」ともう一人の王族派の筆頭公爵が声をあげる。


「白金111枚金貨50」


「白金120枚金貨50枚」と筆頭公爵。


苦虫を押しつぶした顔の公爵が忌々しそうに降りた。


「はいはい、決まりましたね!それでは黒龍は白金120枚と金貨50枚で筆頭公爵さまが落札しました」


何やら、ハリス侯爵と王族が寄って来て握手して居る。


「ジン君、見たでしょ?たかが黒龍よ!王族派と反王族派の公爵同士が意地のぶつけ合いで、ジン君はお陰で大金持ちよね」


「いやいや、これも三人で分けましょう!こんなにあっても使えないでしょ」


「いや、前回のでも十分もらいすぎなんだから・・・」


「俺に少し考えがあるので、店に戻ったら相談しますよ」


ジン達はフェリシアやハリス侯爵がこちらに来る前にイリーナがお金の清算をして、『隠蔽の指輪』代白金6枚を『エリックサー』代金白金46枚と金貨80枚から引いてもらい、白金40枚と金貨80枚それに黒龍の代金白金120枚、金貨50枚をジンのカードに入れて貰って、イリーナを馬車の中で待っていた。


「ジン君カードの金額が白金250枚、金貨652枚、銀貨1187枚銅貨211枚となってしまったわ」


「今度冒険者ギルドに入ったら金貨600枚を白金に、銀貨1100枚を金貨に変えた方がいいわよ!」


「うん、わかった、そうするよ」


「さぁ!誰かに捕まらないうちに出ましょう」


ジン達は全員で”魔女の道楽”に戻って来て、ジンが入れるアメリカンコーヒーとショートケーキ4個を出してお茶を楽しんで居る。


「ジン君、先ほどオークションで考えがあるって言っていたけどどういう事?」


「うん、実はこの店をもう少し拡張しないかな?っていう事を考えてのですが・・・」


「この店の隣が錬金術師のディアロさん夫婦が先日ちらっと俺に”歳も歳だし息子夫婦がキースの隣町で錬金術屋をやって居て来て一緒にのんびり暮らしなよと言ってくれて居るんで、御宅で買ってくれると嬉しいのだが”って言って居たんだよ。だから、この際少し店を広げて、作業場をもう少し広くとって、ドラゴンとは言わないけど今の倍はあった方がいいと思うな、住居部分は思いもあるだろうから触らずに、店も少し大きくしてどうでしょうか?」


「へぇー、お隣のディアロの爺さんが君にそんな事言ってたの」


「それとイリーナさんに叱られるかもしれないけれど、俺のスキルでもう少し魔道具を多く店先に出した方がいいかな?って思って」


「実は俺は【付与魔術(エンチャント)】ができるので、洋服に耐火、耐寒とか付与できるし、魔物の解体もできたら他に出さずやりたいけど、迷惑かな?」


「いえ、迷惑だなんて、ジン君の気持ちは嬉しいわ、でもそうなるとイザベラだけで店をやっていくには無理が有るわ」


「キースの支店を売って、王都だけに絞りイリアさんも一緒にしたらどうかな?」


「お母様、それってなかなかいい考えだわ」


「それか、支店は完全に人を雇って、俺が『遠距離通話器』で連絡を貰って

【転移】で日帰りでものの補填をするっという案も有るけど・・・」


「赤の他人の居候の身であまり深くお宅らの家庭内に入り込むのは申し訳ないけどイリーナさんとイリアさん、イザベラが揃ったら良いかなって考えただけなんだ」


「ありがとう、ジン君。私たちのことをそこまで考えてくれて居て・・・、妹とも相談して考えてみるわ」


「何れにしても、俺はお隣に変なのが来るよりは、買える大金が有るから買っておこうと思うけど・・・」


「わかったわ、ジン君幸いイリアのところに『遠距離通話器』が有るから2、3日中に決めるようにするわ」


「ディアロの爺さんには一応買うつもりだと伝えておくよ」


「ケーキ、ごちそうさま」とイザベラ。


「ヒューイ、寝ようか」


「はーい、パパ」

ジン達が2階に上がった後、イリーナとイザベラはジンが提案して来たことを話し合っていた。


「お母さんはこの店をそれほど大きくしたいとは思って居ないのでしょ?名前の通り、道楽的にのんびりやれればいいと・・・」


「そうね、以前はお前がまだ幼い頃お前のお父さんが命を落としてしまい生活するのに途方にくれて、イリアにこの店をやってもらい私が冒険者をやめて王立魔法学園に勤め出して順調に行き出して店も2店舗もてるようになったけど、実はそのせいでイリアには良き相手を見つけてあげれず今だにひとりみでなんか、私とイザベラのために独身のままにさせて申し訳ないと思って居たの。一緒に歳を重ねられれば姉妹としては嬉しいわ」


「私は、この店の規模は変えなくても、ジンがいうように、台所と作業場をもっと広げて、私も魔道具を自分でもっと作って人が使ってくれたらうれしいし、この前のジンがくれた岩竜で甲羅で作った盾をすごく喜んで買ってくれたお客がまた来て買ってくれたのをみるにつけ、もう少し作業場が広くきちんとあれば作る楽しみ、売る楽しみが増えると思うし、イリアおば様と魔法談義もできるし・・・」


「お前はジン君の提案を受け入れたいのだね?」


「お前はジン君の事どう思って居るの?好きなんだろ?」


「この1ヶ月一緒にいて惹かれて居るのは間違いないわ。でも未だ愛とかいう段階ではないわ」


「そう、私も実はジン君が好きよ!若ければお前から奪ってでも旦那にしたいほどね」


「イリア叔母様が同じこと言っていたわ、お母さんは絶対ジンのこと好きになって居ると・・・」


「でも、息子のような感じだよ。それよりも私は王立魔法学院をそろそろやめたいと思って居るのだよ」


「えええ?どうして!」


「実はね、色々きょうもお前見ただろう?王族派と反王族派のオークション、学園も貴族の子弟の中で別れていて、教師まで巻き込んでとても魔法を学ぶ学校というには程遠良い状況で、政争の場所と化して居るのよ」


「そんなにひどいの?」


「ああ、そりゃひどいもんだよ、だからジン君が我が家にいることでさらに私に皆が彼を派閥に入れようと最近ではうるさくてしょうがないのよ」


「だって、ジンはこの世界に来て未だ1ヶ月だよ?そんな短期間で彼の存在は騒ぎになっているの?」


「それだけ未踏破のダンジョンを全て1週間のうちにあっという間に踏破するなんて前代未聞なことなのよ!」


「だから、私も学校を早めにやめて、イリアとイザベラでこのお店で魔法具を作って売ったり、時々はごくごく簡単なクエストをジン君に手伝って貰って受けて魔法を楽しめたらと思っているんだ!」


「それなら決まりじゃん!ジンの提案を受けようよ」


「お前ね、それって私たちとジン君達の結びつきが下宿人と大家の関係ではなくなることよ」


「それはそれで、成り行きに任せれば良いじゃない。もしかしてジンがお母さんか叔母さんの旦那になったりしてね・・・」


「だって、ジンは本当は私よりだいぶ年上だったと言っていたもの」


「明日イリアに話してみようかね、何れにしてもこの店のままでも私は来月学校を退職するつもりだったから、手続きを今週提出するわ」


翌朝、イザベラの作った朝食を食べたジンとヒューイとドールはすぐ近くの王都冒険者ギルドのクエスト出ている掲示板の前にいた。


「パパ、簡単な討伐依頼しか出てないねどうしようか?」


「取り敢えず、カードの金額を整理してもらうようにリリアンに頼もう」


「リリアン、金貨を白金に銀貨を金貨に変更してもらえる?」ジンはカードをリリアンに渡した。


「はいできましたよ、白金256枚、金貨63枚、銀貨87枚、銅貨211枚です」


ジンはカードを受け取りギルドを出て隣の隣の錬金術師のディアロの爺さんのところに行った。


「ディアロ爺さん、先日俺に話してくれていた件、決めたよ。この店を今の状態で金貨40枚で購入するよ」


「そうかい?ばあさんや、ジン君が買ってくれることになったぞ!」


「それじゃジン君、早々商業ギルドに行って手続きしたいから一緒に行ってくれ」


ジン達とディアロ爺さんは王立魔法学院の近くの商業ギルドに行き、登記関係の書類と今年の税金の支払い関係を済ませてディアロ爺さんに金貨40枚、商業ギルドに金貨4枚を納めて手続きを終えた。


カード金額は白金256枚、金貨19枚、銀貨87枚、銅貨211枚となった。


「ジン君、わしらは既に引っ越す準備はできているので、明日の朝の馬車で息子のところに向かうから、明日からで良いかな?」


「もちろんですよ、明日俺が見送り、鍵をもらいます」そう言って、ジンは”魔女の道楽”に戻って来た。


「イザベラ、隣の家は明日から俺のものになったから、明後日からなら立て直してイリーナさんの名義かイザベラの名義に変更して家を広げられるぞ」


「お母さんが今日中に学園からイリアおばさんと話をするそうよ、それとね、母があ来月からこの店で私たちとお店をやるわ」


「ええ?教頭の職は?」


「学校は辞めるそうよ、昨夜あれから色々聞いたのだけど学園にこれ以上いると政争に巻き込まれる恐れがあって、嫌だそうよ」


「それで、時々はジンと冒険者に出て魔法を楽しみたいそうよ!」

「ほんと?そしたらイザベラも一緒に冒険者で親子でパーティーでも組めるじゃん」


「あなたはノーテンキで良いわね!」


「何だよ、ノーテンキって!」


「君は鈍感でノーテンキだって云うことよ」


「俺はナイーブで繊細な人間だぞ」


「きょうはギルド行かないの?」


「さっき行って来たけど討伐依頼が少なくて、それでお隣のディアロ爺さんと商業ギルドに行き手続きを終えて来たんだ」


「イザベラ、魔道具で冒険者達にテントを売ろうよ、外面は一人用だけど、組み立てて中は4人ぐらいはいれて、魔物避けの魔法を付与するのはどう?」


「そんなテント、作れるの?」


「わからない、でも考えてみる、昼飯はイザベラ考えてくれ」


「ヒューイとドール、店番を頼むよ」


「はーい、パパ」


ジンは近くの雑貨専門店でテントを3張り一人用を購入して来た。

また、洋服屋からフード付きの外套を2着購入してきた。


ジンはテントを作業場で3張りとも組み立てて、中に入り込み馬車の『亜空間』を作った要領で<タブレット>の【亜空間魔法】をクリックする。”【亜空間魔法】レベルが上がりました。Lv20000になりました”と声が響いて来た。


馬車を作るときはLv200だったのが今回で【亜空間魔法】レベルがLv20000に上がってくれた。


【次元ストレージ】を作るよりはるかに簡単に『亜空間』を四人分作り込むことに成功した。


次にジンは<タブレット>で【GOD】の検索機能で魔物を寄せ付けない匂い、又は方法、と文字を入れてenterキーをポチった。


『ガレン草と徐魔草を一緒に水に入れ熱した液体を塗布すると、レベル8以下の魔物を全く寄せ付けない、また8以上の魔物も殆ど近づいては来ない』


「イザベラ、魔物避け薬剤を作ったら売れるよな?」


「そんなものあるの?」


「ガレン草と徐魔草を煮込んだ液体を瓶詰めにして霧状に散布すれば良いのさ」


霧状に散布する霧吹きを【モデリング】で作り込み10個作り瓶とセットにした。

”【モデリング】レベルが上限値に達しました。 今後はアナウンスされません”と頭に声が響いて来た。


ジンはガレン草も徐魔草も知らないので<タブレット>頼みだ!


【GOD】ガレン草と打ち込みenterをポチると絵が出て来て【MAP】にグリーンの点滅が表示された。


同様に徐魔草を打ち込みチェックすると【MAP】にやはり緑の点滅が出た。


頭の中で同時表記と念じるとガレン草が丸印、徐魔草が四角マークで同一の地図上に出たので、ジンはイザベラに「ちょっと薬草を取りに行ってくる」

と言って、【転移】して二つの薬草を取って来た。


「ジン、お昼できたわ、一緒に食べましょ。ヒューイちゃんも来て!」


「はーい」


「イザベラ、テント1張りだけどできたから見てくれないか?」


「よかったら魔物避けと対で売れば売れると思うがな」


「マナバイソンのステーキか、良い塩加減だな」とジン。


その時『遠距離通話器』が連絡を伝えて来た。

「あっ、イリア叔母さんからだわ」

『遠距離通話器』に向かってイザベラが話して喜んでいた。


「ジン、昨夜の件叔母さんも賛成で早々に家を処分して王都にくるそうよ、

明日、店をやる人間を信用できる人にお願いするそうよ」


「よかったな、明日隣の家とこの家をどのようにくっつけるか検討だな」


イザベラはこれから忙しくなると張り切る自分がいることをうれしくかんじていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る