第20話 キースに向かって

翌朝、ジンはいつもより1時間ほど早く起き、キースに向かう準備をした。

特に荷物は【次元ストレージ】に全部入れてあるので特に改めて持って行くものはない。

自分のベッドに入り込んで来たヒューイを起こして、階下に降りていき、「イザベラ、おはよう!俺たち飯食ったらいつでも行けるからな!」


「おはよう!ヒューイちゃんも取り敢えず顔洗って朝食を食べてしまって」


「はぁーい」


「ドール、裏に回って『フジ』と馬車をつないで出れるように準備してくれるか?」


「かしこまりました」


「イザベラの方は準備いいのか?」


「うん、ジンが作ってくれた『マジックリング 』にイリア叔母さんの所に持って行くものは全部入れたから荷物は無いわ」


「途中での食事は俺の方の『美食の皿』と『魔法の鍋』が有るから特に食材は要らないな!」


ジンとヒューイはイザベラが準備していた朝食を平らげて、片付けた後、店の戸締りをして馬車に三人で向かった。


「ジン、馬車の中はお尻が痛くならない?」


「イザベラさん、パパの馬車は、振動を抑えるサスペンションのスプリングがついて居るし、車輪がタイヤという異世界のものだから全然揺れないし大丈夫だよ」


御者台にドールとジンがいる。


王都ダゼルを出てヘルカスまでおよそ1日弱、昼近くになり、途中の村で昼食休憩を取った。


馬車の中には食卓もあり、『美食の皿』でピザを出して、果実ジュースと一緒に食べる。


『フジ』にはオークの照り焼きをブロックで出して食べさせて、水もあげた。


「やはり寄り合い馬車の旅とは雲泥のさね!快適だわ」


「イザベラ、叔母さんの所に置く『遠距離通話器』はちゃんと持って来たか?」

「私が誰?その点は抜かりないわ」


「ジンは未だイリア叔母さまには会ったことないのよね?」


「ああ、最初に店に行った時はいきなり魔女の女王様が出て来たからな(笑)」


「叔母さんて、イリーナさんとやはり似て居るのか?」


「どうだろう?少しきつい感じの顔立ちかな?」


「旦那は?」


「独身よ、ジンの事気にいるかもしれなくてよ?」


「キースでは宿に泊まるの?イザベラは今までどうしてた?」


「叔母の家が小さいけど小ぢんまりした家があるのでそこに泊まるわ」


「そうか、俺たちは”とまり木”に宿泊して久々に看板娘のローリでもからかうことにするよ」


「叔母の家狭いので一緒に泊まれれば良いのだけど、ごめんね!」


「なんだよ、謝る必要なんてないぞ、もともと俺たちは”とまり木”に泊まる予定だから」


「さぁ、昼食も食べたしヘルカスの宿に向かうぞ」


しばらくすると、ジンが馬車を止めた。


「どうしたの?」とイザベラ。


「いや、前方1キロ先に盗賊らしき連中がこの馬車を狙って居るぞ」


「もう少し進めばどう出るか分かるだろ?」


「イザベラはこの中で座って入れば直ぐ片付けるから」


500メートルほど進み、強盗の姿がはっきり認識できる距離まで近づいた時、ジンが<タブレット>に強盗の居る場所を表示させて、ジンは【イレージング】を発動させた。


イザベラは奇跡を見たようだ。


茂みに隠れたり、木の影に潜んで居る野盗の12、3名が一瞬で消えてしまった。


「ジン、今何したの?」


「切って倒しても屍体の処理に困るし、捕まえても街まで連れて行くのも大変だから全て消したんだよ」


「消したって、そんな魔法なんて無いわよ!」


「俺のスキルだよ」


「・・・・・」イザベラ。


その後は、オークが5匹、フォレストウルフ14匹、をドールが『雷剣』で簡単に片付け、夕方前にはヘルカスに着いた。


ヘルカスでオークとフォレストウルフを納品して、カードには白金90枚、金貨403枚、銀貨1060枚、銅貨211枚になった。


「ヘルカスの街で安くて美味しい宿を紹介してくれる?」と受付に聞くとギルドを出て400メートルほど行った同じ並びにある”群青”という宿が評判いいですと教えてもらって向かった。


「すみません、1泊ツイン一部屋にシングル一部屋有ります?」


「はぁーい、大丈夫ですニャン!」と可愛い獣人の猫族の娘さんが出て来た。


「ツインが銅貨80枚、シングル50枚ですニャン、食事は5時から10時半、ラストが9時半ですニャン」


ジンは現金で銅貨130枚を払い、部屋のキーを受け取った。


「イザベラが210号室、俺とヒューイとドールが202号室だ、シャワーを浴びて今から1時間後に食堂で夕食を取ろうぜ!」


「わかったわ、それじゃ1時間後に」


部屋に入って、ドールは椅子に座って二人はシャワーを浴びて着替え、少しベッドで休んで食堂に降りて行った。

直ぐにイザベラも来て三人で食事をとる。

ファングボアの塩炒めでまあまあの味でご飯が進みジンは2杯、ヒューイが3杯もたべた。


「イザベラ、俺たちの部屋でお茶でも飲むか?」


「ええ頂くわ」


ジンとヒューイに続いてイザベラが部屋に入り、ドールがベッドに座って、椅子をイザベラに譲った。


コーヒーのアメリカンとティラミスのケーキにチョコレートケーキを出した。


「きょうは違うお菓子ね、この味もいいわね。ジンは何種類ぐらいのお菓子を出せるの?」


「考えられるのは無限だぞ、組み合わせでいくらでも作れるからな、その中でイザベラが時に気に入ったものが有ればそれをたくさん出してあげるよ」


「ジンがいた世界って、豊かだったのね!」


「物質面では豊かかもしれないが、人間的にはどうだろうかな?」


「自然もどんどん破壊されて、それこそ雲にも届く高さの建物が聳え、機械で動く乗り物がすごいスピード走り、空を飛び、俺の居たところでは王都からキースまで数時間で着いてしまうぞ!」


「それって、すごく便利じゃない」


「だけど、景色を楽しんだり、人と触れ合う旅の良さもなくなるぜ!」


「利便性を追求するあまり、人の心をほんの少し犠牲にして居るかな?」


「戻りたいとは思わない?」


「戻れたとしても、俺があちらの世界ではもう、居場所が無いからな、オジキと叔母に育ててもらった感謝をしたいぐらいで未練は無いな」


「そう・・・」


「なんだよ、寂しそうな顔すんなよ、俺はこの世界を今は十分に楽しんでいるし、これからも色々楽しむつもりなんだから」


「明日も早いからそろそろ寝たほうがいいぞ」


「そうね、部屋に戻るわ、おやすみなさい」


「おお、おやすみ」


「ヒューイ俺たちも寝よう」


「はーい、パパ」


翌朝宿の朝食を食べて、再びヘルカスからケーベルに向かって進み出した。


ケーベルまでは何事もなく進み、ケーベルの宿を出てタウンベルに向かう途中でワイバーンが三匹飛んでいる奴が馬車を見つけて急降下してくる。


ヒューイが神龍の姿になり迎え撃とうとした途端、ヒューイの姿を見た三匹のワイバーンが逃げ出すが、ヒューイが追いかけて三匹の首をちぎって降りて来た。


「パパ、逃がしても良かったけど、また弱い人間を襲ったりするかもしれないから殺しちゃった」


「お前じゃなくて俺が行ったら逆に襲ってきたかもしれないしな!良いよ」


その後は何事もなく、タウンベルに着いて、まず冒険者ギルドに行き、ワイバーン3匹を納品して、金貨120枚を受け取りカードに入金して貰う。


カードには白金90枚、金貨523枚、銀貨1060枚、銅貨211枚になった。


ジン達は宿に向かって歩いていると、彼らをギルドからずっと後をつけて来る冒険者風の男達4人がいた。


「イザベラ、ちょっと俺の手を握れ、ヒューイもドールと俺に捕まれ」


「なななに?こんな所で手を握れって?」


「違う!何勘違いしてるんだよ、後をつけて来る4人組が居るから、【転移】でギルドの裏に戻って馬車でやり過ごすから」


一瞬で馬車に転移した4人はイザベラとドールを馬車に居てもらい【シールド】を掛けて、ギルドの食堂で暫く時間を潰し、4人組が戻ってこないのを

確認して、馬車に戻った。


「イザベラ、宿に行ってもあいつら、金が目当てだから、面倒なのでこのままキースを目指して走るよ。明日午前中にはキースに着くから、この街を出たら暫くして夕食にしようや!」


「たまには馬車で野営も良いわね!そうしましよ」


ジンはドールに言って馬車を動かした。

街を出て、30分程したらあたりは真っ暗になり、ジンが【ライティング】で街道を照らしながら走り、キース迄後40キロ程迄来たあたりで、馬車止め【シールド】を掛けてドールを御者台に残し馬車の中で3人は夕食を食べるのだった!


イザベラは宿の定食よりジンが出す夕食の方が美味しく、野外で食べるので、はしゃいでいた。


ジンは『フジ』にマナバイソンの焼いた肉を3切れと水を与え、[明日は早朝から走ってキースに早目に向かうから頼むな]と念話した。


ジンはイザベラにシャワーを浴びて、寝ていいぞと伝えた。


さすがに夜なので魔物が何度か来るが【シールド】されている馬車には全く近ずけない。


ジンは御者台に行き星空を観あげた。


前世では見られない数の星が空を埋め尽くす程に輝いて居る。


"東京の空はこんなに綺麗に星が見えなかったよな?やっぱりこちらの方が空気が綺麗なのかな?"などと考えながら暫くは夜空の天体ショーを眺めて、馬車の中に入った。


既にヒューイもシャワーを浴びてベッドで寝息をたてていた。


イザベラは未だ起きて居てジンが馬車の中に戻って来るのを待っていたようだ。


「どうしたの?ジン」


「いやぁー、外の様子を見に行ったら、あまりに星空が綺麗なので、暫く見とれてた」


「俺がいた世界は空気がここより汚れているせいか、あんなに綺麗に見えないから・・・」


「そう、あんまり戻らないから心配したわ」


「それって俺の事を少しは心配してくれたのか?」


「そうよ、大事な金づるじゃなくて食づるじゃないの!」


「全くお前はロマンが無いのかよ」


「うふふふふ!おやすみジン」

イザベラは謎の笑みを浮かべ、ジンに背中を向けて寝てしまった。


翌朝、ヒューイとジンが先に起きてイザベラが起きて来たタイミングで朝食 を始めた。


クロワッサンに果実ジュースとアスパラベーコン巻とウインナーソーセージに卵の目玉焼きで、『フジ』にもウインナーソーセージとオークの照り焼きバーガーを3個与えて、早々にキースに向かった。


かなりスピードを出して走り10時にはキースの城門に着いて、カードを見せて、街の中に入って行った。


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