第53話 リィズvsガルム

 カイトとリィズさんはハイム城を一直線に目指したが、塞ぐ耳から漏れ出た音が、ずっと耐えしのいできた体に無理が生じてふらつく。


「リィズしっかりしろ」

 カイトがリィズさんに気を確かにもってもらうため、声をかけるがルヴィーさんの一戦からここまで、休む事なく傷付いた体に、おまけにサイレンの音だ。さすがのリィズさんももう限界で近くの建物の屋根に降り体を休ませた。


 「少し休ませてくれ」


 「リィズ大丈夫かよ。まぁ幸いもう竜たちは追ってこないからいいけどな」

 

 カイトは呑気なことをいい安心しきっていたが、地に叩き伏せられたガルムさんが、サイレンの音にもがきながらも強靭な精神力で意識を保ち続けていた。


 そして体の自由が利かない中、体の中でも特に柔軟に動かすことが出来た長い尻尾を巧みに使いガルムさんは鋭利に尖った鱗のついた尻尾でサイレンの塔の土台を薙ぎ払った。支柱を失った黒い塔は瞬く間に大きな音をたて崩れ去る。


 「リィズやばいぞ」

 サイレン塔が崩れる様をみてカイトが焦る。


 「ああいくぞ」

 リィズさんもすぐに飛び立ちハイム城を目指す。リィズさんはサイレンのやかましい音がなくなり、嘘みたいに体力を回復させた。

 しかし時刻は午後16時、空をオレンジ色に染め上げた夕日は刻々と沈んでゆき、龍王様からの試練のタイムリミットまで着々と迫っていた。

 

 リィズさんが鼻をピクピクさせ何かを感じとり、突然急加速をはじめる、するとカイトが驚きたまらず声を上げた。

 「おいバカ、少しはかげんしろ。俺まで吹き飛ばされる所だ」


 「奴がくる」


 「奴?」


 「ガルムだ」


 「まだくたばってなかったのかアイツ」

 カイトが振り向くとガルムさんが、威嚇とも取れるうなり声をあげ、とんでもない超迅速でこちらに迫ってくる。


 ガルムさんは見下していた人間に一杯食わされ、危うく任務を失敗するところで、それに腹を立て猪突猛進に二人を襲おうとしていた。


 リィズさんがハイム城に近づき、ガルムさんがそこまで迫ってる中で、カイトをハイム城にちまちまと降ろしてる暇はないとみてカイトに喋りかけた。


 「お前がいては奴とは戦えん。カイト飛べるか?」

 

 「おいおいマジかよ、冗談はよせよ」

 リィズさんは尻尾を上下に大きく揺らしカイトを尻尾の先へとおいやった。


 「おいこの腐れ竜!!バカバカ!俺はお前たちと違ってとべねーんだよ!!」

 カイトが情けない声で鳴き散らかしリィズさんを必死に説得したが、リィズさんが腐れ竜に反応して殺意をこめてカイトを放り投げた。


 「男なら覚悟をきめろ!!」

 リィズさんが珍しく感情的になった。 


 カイトは宙に飛ばされ腕と足をばたつかせ、気持ち少しでも前へ進むように努力をしたが、それも叶わず本来なら全然届く距離だったが、リィズさんが怒りのままに、放り投げたせいで上に大きく放物線を描き、距離を全然稼げなかったのだ。恐ろしや〜口は災の元とはこのことか。


 しかしカイトという男がそこで諦めるほどやわじゃない。飛んで届かないのはこれで2回目、カイトは懐からナイフ取り出しハイム城、城壁へとナイフを突き立てた。


 「クソったれ、こんなみっともない死にかた認めるもんか」

 カイトの刃はレンガとレンガの境目に溝をつくり、震える腕でなんとか持ちこたえていた。そしてもう片方ので手を服の裏側ホルスターに手をかけナイフを取り出し、クライミングの要領で城壁を気合で登りきった。



 「リィズ、どうだ俺も大したもんだろ。少しは人間様を見直したか?」


 「いいからお前は先を急げ、そして王からイヤリングを取り戻すんだ。それはお前にしか出来ないことだ。それを成し遂げたのなら、いくらでも褒めてる」


 「リィズ……」

 カイトはリィズさんが自分を信用して「お前にしかできない」と自分に王との交渉を託してくれたことを嬉しく思った。


 「時間は私が稼ぐ。ここは私が食い止める」


 「褒めるって約束だからな、だからリィズ絶対に死ぬんじゃねーぞ」

 カイトそう言い残し、全力疾走で第1棟の王室を目指した。


 カイトが居なくなり、リィズさんはぼそりと弱音を吐いた。

 「ふんカイトの奴め難しい要求をする。現れたか?」


 ガルムさんは挨拶変わりに第3棟通称軍事棟の壁に激突し自らにブレーキをかけた。


 「ガルム、先輩にとんだ挨拶だな」


 「お前はもう神聖なる竜の民には戻れない、先輩風をふくのはよすんだな。

 遠くお前の背後から聞いていたぞ、とうとう人間の言葉まで話すようになったとは、お前も落ちる所まで落ちたものだな?

 お前は俺を怒らせたあの人間もただではすませない。俺の周りにいる目障りな奴は俺の気が済むまで殺してくれる」


 「お前にとっていい口実が出来たという訳か?」


 「なんだと?」


 「ガルムお前が私に順位争いに負けて私を逆恨みしてることは知っている」


 「ここにきてまだ自分の優位性を主張するか?愚かな、心身とも傷付いた今のお前等相手ではないわ。貴様はここで俺に殺されるタダそれだけだ」


 「そうだな、どうやらここが私の死に場所なりそうだ。だがただで死んでやるつもりはない。竜たるもの最後まで勇敢に戦おう」


 「そんな満身創痍の体で私の相手がつとまるとでも?」


 「油断すると痛い目をみるぞ、女だからと油断したあの時のようにな?」


 「油断なぞするか、俺はこの時を待っていたんだ貴様をこの場でずたずたに噛み砕いてくれる」

 ガルムさんのその言葉とともに、ガルムさんはリィズさんに鋭く伸びた爪と牙を向けた。

 二人は宙で取っ組み合い、長い首を交差しながら相手の首元の急所を狙い噛み付こうとする。押し合いへし合いする中はじめの攻撃を制したのはガルムさんの方だった。


 「どうだリィズ痛いか、だが俺が貴様から受けた屈辱はこんなものではないぞ」

 リィズさんが悲鳴をあげ首元から出血する。リィズさんは首捉え離さないガルムさんに翼を羽ばたかせガルムさんを地上に叩きふせた。

 

 大きな音と衝撃により、ガルムさんは噛み付いた口を離し痛みに打ちひしがれた。


 「未だにあの時のことを逆恨みしているとは器量の小さい男め」

 リィズさんそういわれ、閉じた目を開き、怒りをあらわにしたガルムさんが反撃し体を180回転させると、逆にリィズさんの体を地面に叩きつけた。


 「あんなことだと俺は許せないんだよ、女が男の上に立つことがな。今ここで俺が上だということを証明してやる」


 「満身創痍の私に勝ったところでそれが証明出来るのか?プライドもクソもない奴め」


 「殺し合いとはそういうものだ、フェアでなく当たり前、いかに自分に有利な状況に持ち込むか、そして相手の息の根をとめ最後に生き残った者が勝者となるのだ」

 ガルムさんがリィズさんに全体重をこめた攻撃を繰り出そうとした時、リィズさんはガルムさんが振りかぶり一瞬宙に浮いた際に、翼を羽ばたかせ体をスライドさせ、ガルムさんが打撃を空振ってる隙に上空に避難した。

 だがすぐにガルムさんも空に上がった。並んだ二人の竜の傷の差は明らかだった。リィズさんは血が足元までしたたり、呼吸も荒い。



 「リィズ今度ばかりは部が悪かったな、勝てないと分かってて戦うものじゃない」


 「お前が戦う理由が勝つことだけならば、私は違う。勝てないと分かっていても引けない理由があるから戦ってるのさ。

 負けると分かってても立ち向かうお前にそれだけの度胸はあるか?お前は自分自身の小さな虚栄心を満足させるために戦っているだけに過ぎないじゃないか?」


 「黙れ、自分のために戦って何が悪い、引けない理由だと人間にそこまでする価値があるとでも」


 「相変わらず人間を下にみてるらしいな、いかにも竜らしい発想だ。私もそうだった。

 だがよく考えてみろ、私達竜は人を評価できるほど人間のこと知っているのか?政府の考え方が全人類の総意ではないのだ。

 お互いに理解が足りてないだけ、どちらが少しお互いの事を理解しようと思えば戦いはなくなる……人間からそう教えられたよ。彼女は、無条件に私を信じてくれた……だから私も人間を信じてやろうと思えたのさ」


 「人間寄りな考え方だな。攻撃を仕掛けてきたのは人間だと言うことを忘れたか?」


 「お前はその首謀者が私達と同じ竜だということを知っているか?」


 「ルヴィーか、だが奴はもう我ら同族ではない。人と呼ぶべき愚か者だ」

 その言葉を最後に二人が正面からぶつかり渾身の攻撃を繰り出した。

 

 結果は相打ち。両方とも首の付け根を噛み付いていた。


 「ガルム刺し違えたぞ」

 でもそれは偶然の結果じゃない、リィズさんは端から生きてかえれることは考えてなかった。この戦いの後、彼女にはもう自分の居場所がないことを悟っていたからだ。

 彼女は自分の急所を噛ませることで、相手の無謀になった首元に噛み付けたのだ。


 そして両方が力こめ噛み付き、ついに二人とも力尽き、地上に落ちた。


 リィズさんは意識がもうろうとする中、竜たちがサイレンの音から復活し翼を羽ばたかせる音をきいた。


 「竜共めが動き出したか、たちあがらなくては、体よいうことをきいてくれ、うー」

 力をこめ立ち上がろうとするが、節々から血がふきだし、膝から崩れた。


 「はぁ、はぁ、はぁ」

 空を見上げ、リィズは空を飛ぶ竜を見上げることをしか出来なかったが、息絶えるその前に最後の希望を見ることになる。

 赤い大きな竜が復活した竜たちをなぎ払ったのだ。


 「あの赤い竜は?そうかアサか。元の姿に戻れたんだな、これでようやく私は役目を終えられる」


リィズさんは満ち足りた表情で笑顔をつくり、瞳をそっと閉じた。


 私はそのままハイム城へ飛び去っていった。

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