第51話 混沌の音色

 ガルムさんとその護衛の2頭の竜だ。

 ガルムさんはその場に留まり進路をけん制し。2頭の竜は左右に分かれリィズさんの横につくと体当たりを仕掛けてきた。


 「きゃー」

 突進される度にリィズさんの体が大きく揺れ、私達はなんとか振り落とされないよう体の全体に力を入れなんとか耐えしのいだ。


 リィズさんも抵抗し、突進をしかけてきたタイミングで竜に噛みつき撃退した。するともう一頭の竜は怯み距離をとった。


 リィズさんはそのまま駆け抜けサイレンの塔を目指した。ガルムさんの横を通り過ぎたリィズさんだったがガルムさんは攻撃することはなかった。しかし私達が足止めをくってるうちに他の竜たちが集まってきており、周囲には10数頭の竜に囲まれ状況は最悪だった。その状況にリィズさんも足をとめ、しばしのこうちゃくの後ガルムさんがリィズさんに言った。


 「リィズ多勢に無勢だぞ、私もこんなやり方で貴様に勝とうとは思わん。その人間を捨て去り私達と共に任務を果たせ」



 「アサもうサイレンに直接乗り込むのは無理だ」

 リィズさん小声で私に言った。


 「だってそれじゃ」


 不安がる私みてカイトが言う。

 「まだ手はある。あのサイレンは地震などで揺れを感知すると自動で作動する。それ利用してお前の弓で矢を当てるんだ」


 「分かったわ」

 慌てて弓を手にとり、矢を取ろうとするもスルリと手から抜け落ち、矢を1本無駄にしてしまった。筒を除きこむと矢はもう1本しか残されてなかった。


 「焦るなアサ、時間は私が稼ぐ」

 リィズさんそういい私は小さく頷いた。


 「ガルム、確かにこの状況では流石に私もお手上げだ」


 リィズさんは首を大きくまげ私の姿をガルムさんから隠し、私はその裏で弓を引いた。距離を伸ばすためにめいいっぱい引かれた弓は大きくしならせ、その反動で腕が震え狙いが定まらない。


 そんな不安を過ぎらせる中、カイトが私の腕を掴みさらに弓を引いた。


 「カイト?」

 私はカイトに顔を向けた。


 「アサ集中しろ」

 突然カイトに腕を掴まれドキッとした私だったが、カイトの眼差しはサイレンを見つめており、私もそっちに視線を移した。


 「うん」

 カイトが力を貸してくれたおかげで腕のブレはなくなった。後は狙いを定めるだけ、けどそれが1番難しい。今までで1番距離が離れている上に的が小さい、もうマグレでどうにかできるものでもない。


 「弓の経験は俺にはねぇ、タイミングはお前に任せるぞ」


 「分かった」

 私は集中して的を見つめる。しかし狙いが定まらない、腕のブレはなくなったが、瞳がちらついて的を絞れない。

 ダメだ。私は絶望から瞳を閉じた。


 これがジョセだったらきっと涼しい顔して的を射抜くんだろうな。ジョセ今一度私に力を貸して。


 私はカルーモでジョセに弓の使い方を教わった時のことを思いだした。あのときのジョセの言葉を。


 「アサ、的をよくみろ。そして後ろめたい気持ちを何も考えるな。目標のその一点だけに全神経を集中させるんだ」

 私はジョセの言うとおり何も考えず、ただ目の前のサイレンに全神経を集中させた。揺れていた瞳が定まり、その一瞬私の目が赤色に染まった。


 「今、指を離して!!」

 私の言葉、カイトは力を緩め、矢は凄い勢いでとんでいき、見事サイレンの制御盤に命中し、ゴーンと大きな甲高い音を響かせた。


 「当たった」


 衝撃を感知しサイレンの大きな音がバルセルラ中に鳴り響く。



 その音はバルセルラの近くまできていたお母さんのもとまで届いていた。


 「何事でしょうか?」

 お母さんが驚いた面持ちで言った。


 「やはり先程の黒い大群は竜だったのでは?」


 「あれはカラスですよ。運転手さん急いで下さい」

 お母さんはここで引き返される訳にはいかず、口から出任せをいい運転手にバルセルラに向かわせた。


 「わかりましたよ」

 運転手さんもルドワンから追加で料金を受け取ってしまっただけに、お客とあって強く言えずにいた。


 「なんだか胸騒ぎがします」




 時を同じくしてルドワン、ジョセ一行達は結局私のことが心配になって、後を追ってきてルドワンまで流れ着いていた。


 「何が起きてるんだ?」

 ジョセが神妙そうな顔をしてつぶやく。

 ポルンさんは黙って空をみやげ、どうやら耳では状況を把握してるようだ。


「ジョセちゃんこの音って?」


「これはバルセルラのサイレンだ」

 ジョセはそういうと、足早に見張り塔に昇り、柱に片手をかけ身を乗りだした。

 「アサお前は今そこにいるのか?」




 バルセルラはサイレンを鳴り響かせ、大きな音が街全体に響く。サイレンの音は竜達の動きにも変化を与えた。


 「これって」


 「何がおきてるんだ?」

 私の目に入ってきたのは竜達が一斉に平衡感覚を失いふらつきバタバタと倒れていったのだ。建物にぶつかるもの地上に落ちて行くもの。


 この時カイトは気が付いた。

 「こいつらみんな音に弱いんだ」


 そうだリップも大きな音を聴いた時に弱ってた。あればリップだけじゃなく龍みんなの特性だったんだ。


 「うわ」

 リィズさんもその例外でなく、体勢を崩した。


 「リップ耳を塞いで、あー」

 私はリップの心配をしたが、揺れるリィズさんの上で、踏ん張るのが精一杯。


 「リィズさんしっかりして」

 私はなんとかなってとサイレンにも負けじと叫んだが、リィズさんは急降下してゆくばかり。

 カイトは対照的にこんな状況でも冷静さを欠くことなく、的確に指示をだした。

 「アサ、リィズの耳を押さえるんだ」

 

 「分かった、やってみる」

 私とカイトで片方ずつリィズさんの耳を塞ぎ、いくらか音を遮断することでなんとか体勢を立て直したリィズさんだったが、目の前から制御を失った一頭の竜が私たちに目の前に現れ。リィズさんとっさに避ける事が出来ずに正面から激突してしまった。

 リィズさんより小ぶりの竜ではあったがそれでもその衝撃はすさまじく、私とカイトは踏ん張りなんとか投げ飛ばされずに済んだ。


 しかしその衝撃で、耳に手を使っていたリップがリュックからとばされてしまった。


 「リップ」

 私はすかさず片手をリップに伸ばした。


 リップの足を掴み、安心した私だったが身を乗り出したがゆえに、自分の体を支えきれず私はそのままリィズさんの体を滑り落ち、空へとほうりなげだされてしまった。


 「アサー」

 カイトが私に手を伸ばして叫んだが二人の手が交わることはなかった。


 片耳が開いたことでまたリィズさんがバランスを崩しはじめる。


 「カイト私の耳をおさせろ」

 カイトはすぐにリィズさんの耳を塞いだが、リィズさんはあろうことか私を助けずにはいかず、そのままハイム城を目指した。


 すかさずカイトがリィズさんを問いただす。

 「どういうつもりだお前。なぜアサを助けにいかない?」

 カイトはこの行動にリィズさんに不信感抱かずにはいられなかった。


 「お前は俺たちの味方じゃなかったのか?おいリィズ」


 私の言葉を思い出した。お互い理解してから争いがおこるんです。


 その言葉を思い出し、ついにリィズさんは人間の言葉を口にした。


 「彼女は我々と同じ血ひくものだ。あの程度では死なん」


 「なんだってアサが」

 リィズさんのその言葉にカイトに怒りで熱くなっていた感情が、一瞬で血の気が引いてしまった。


 「今はハイム城を目指すが先決だ。この争いをとめるためにも」


「リィズ……お前のその言葉信じるぞ。

……つーかお前人の言葉喋れたんだな」


 「こんな下世話な言葉を使うことになるとは思わなかったーー」


 それを聞いたカイトは顔をむすっとさせたが 「ーーでも彼女のおかげでその気持ちが変わった」 その言葉を聞き、口には出さなかったが、俺もだと思い口角が自然と上がらせた。

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