第42話 お母さんの手紙

 その頃私はルヴィーさんの部屋で、彼女から手渡された母からの手紙の便箋を開いていた。

 中からは二枚の手紙と御守りが1つ入っていた。御守りに何か見覚えがあるなと思ったらジョセから貰った物と同じものだった。ということはこれはカルーモの物だ。

 私は御守りを机への端に置き、お母さんの手紙を読み進めた。


 アサお母さんは今馬車に乗ってバルセルラに向かっています。

 あなたを追ったお父さんが重傷で帰ってきました。幸い命に別状はありません。

 でも私はあなた何かとんでもないことに巻き込まわれたのではないかととても心配なのです。

 あなたがあれだけリップを大切に思っていたことを知っていたのに、あなたを止められなかったことを親としてとても責任を感じています。今はあなたの無事を祈るばかりです。


 それともう1つあなたに伝えなくてはならないことがあります。

 あなたの部屋で赤い本を見つけました。開かれたページも見ました。はじめに言ってしまうとあれは私が書いたものではありません。

 勘のいいあなたならあの本を手にした時に気付いてしまったからしれない。


 17年前、お父さんがエルモの朝日がのぼる丘で一人取り残された赤ん坊を、バルセルラの家に持ち帰ってきたことがあったの。

 当時私達が子供が出来ないことを悩んでたこともあり、神の恵みと感謝して、その子を喜んで養子に迎え入れたわ。

 本当に可愛い子でね。他の子供達が泣いてる時期に、その子だけはいつもニコニコ笑っているの。まるでお日さまのようにほっぺを赤くして。

 その笑顔に私達がどれだけが救われたことか。

 私達の太陽、アサあなたよ。


 お父さんがあなたが朝日がのぼる丘に行くことを心良く思わなかったのは、あなたが何か思い出すんじゃないかってバカなこと言って。


 本当はあなたが成人を迎えた時にお父さんと言おうと決めていた。でもこんな形であなたに打ち明けることになってしまったことが母親としてとても心苦しい。

 いえ本当に辛いのあなたの方よね。十と七の年の子供が受け入れる現実には重すぎる。

 気付いてあげれなくて、あなたが一番辛いときに何もしてあげれなくて本当にごめんなさい。あの本を見つけた時、誰にも相談できずに怖くて辛かったでしょ。私達に裏切られたと思ったよね。


 でもこれだけは分かって欲しい。私達がともに生きた時間は紛れもない真実です。そこに嘘はなく、あなたを心の底から娘として愛していました。

 あなたが望むのであれば私はこれからもあなたにお母さんと呼ばれたい。

 すべてを知った今、私があなたを娘と呼ぶことを許してくれますか?


 そこで文章は終わっていた。私は手紙を掴む手が震えているのを感じた。それはお母さんの書く文章が終わるにつれ涙でにじんでいってるのに気付いたからだ。その瞬間手紙に無数もの涙が降り注いだ。

 でも私はそんなこと一ミリも気にすることなく声を大にして言うのだ。

 「そんなの許す決まってるじゃない」


 私は今まででこんなにもお母さんの胸に飛び込みたいと思ったことがあっただろうか?

 私も勿論辛かったけど、お母さんがこの手紙を書いてたことを想像すると胸が張り裂けそうでいっぱいになった。

 私は自分のためではなく、お母さんに1秒でも早く安心させてあげたかったのだ。そしてお母さんに言うの「私はあなたの娘で、たった一人のお母さんなのよ」って。

 でももう一人のお母さんにも会ってみたいって気持ちもあるの。お母さんそれはいけないことなのでしょうか?私にはわからないのです。


 私はそれからもそのことにはついて、頭をぐるぐると巡らすのであった。




 時を同じくしてルヴィーさんが軍艦リンドセル号に到着して、搭乗員に挨拶を済ませていた。

 そして操舵室にて副官バルバロスに出会うのであった。


 「バルバロス今回は私の補佐をよろしく頼む」

 ルヴィーさんは建前上一見すると何も問題ない挨拶をしたが、この言葉には私が上だという意味合いが含まれていた。

 口調は穏やかだったがルヴィーさんの目がそれを物語っていた。


 「ああ分かっている、隊長はお前だ」バルバボスさんも王様の言い付けとあって頭では分かってる様子だが「だが口出しはさえてもらうからな」

 女に命令されるのはプライドが許さないらしい。


 「ああそれで結構だ。それで発進準備状況はどうなってる?」

 ルヴィーさんは衝突することを避けバルバロスさんに準備状況をきいた。


 「システムトラブルチェックが後もう少しで終わる。詳しいことはミハエルお前がいってやれ」


 「はい、ノントラブルでいけば15分程で完了します」

 ミハエルと呼ばれる女性が言った。年は20代前半程で金色の髪を帽子に収まるようにまとめている。


 ミハエルさんが言ってから間もなくして警報音が聞こえてきた。


 「早速トラブルか?」

 ルヴィーさんが目を細めどすのきいた声でミハエルさんに言ったが、ミハエルさんは肝がすわってるのか、はたまた鈍感なのか、ルヴィーさん圧にも動じることなくはきはきと答えた。


 「違います。どうやら城内からのようです」


 「ミハエルモニターに映し出せるか?」


 「はい、やってみます」

 ミハエルさんがパソコンのキーボードをカチカチと叩き、大形モニターに城内の監視カメラの映像を最大分割で写し出した。

 大量の映像の中ではじめに異変に気付いたのはやはりルヴィーさんであった。

 「35番の映像だ」


 ルヴィーさんのその言葉にミハエルさんは35番の映像をクリックして、大型モニターの一画面にそれを写し出した。

 するとそこには燃え盛る炎が黒煙を上げる様子が映し出された。


 「火災のようですね」

 ミハエルさんが唖然とした様子でいった。


 「奴の仕業か」

 ルヴィーさんは爪を噛み、あの時カイトに遭遇したことを思い出していた。


 「ルヴィーお前何か知っているのか?」

バルバロスさんが聞いた。


 「内通者の仕業だ。恐らくアサが目的だろう」


 「だが奴は仮拘束所にいるのだろう?なら警備兵もいるし問題はなかろう」


 「そうだな……」

 ルヴィーさんはバルバロスさんに背中を向けて言い、バルバボスさんに本当のことを打ち明けることはしなかった。

 バルバボスに責められるのを面倒に思ったからだ。


 3人はまたモニター映った赤く燃え盛る炎を見つめはじめに口を開いたのはミハエルさんたった。


 「私達も消化活動に向かいますか?」


 ルヴィーさんはミハエルさんがバルバロスさんに聞く様をみて、バルバロスさんが口を開こうとしたところを手を当て制止した。

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