第41話 噛み合わない二人
カイトはバッグからタオルを取りだしリップにぐるりと巻き付けた。これはせめてものカモフラージュだ。
「リップお前、前より少し太ったんじゃないか?」
カイトの奴ったらなんてデリカシーのないやつ。この時ばかりはカイトとリップが通じ会えなくて本当に良かったと心から思った。話が通じていればまた振り出しに戻っていたはずだわ。
「リップこれからどうする?イヤリングはこっちにあるし、道しるべも出せんぞ」
「くあ、くあ、くあ」
「うっ」
カイトにはリップが言ってることがわからず、それが妙案なのか判断することも出来なかった。そして1つの考えに至る。
「自分で考えるしかないか」
カイトはリップがお荷物に思えたが逆にリップに何ができるのかを考えみた。
「お前確か火吹けるんだよな?」
「くあ?」
「これだよこれ」
とカイトはジュッポをおもむろに取りだし、火を灯した。小さな火ではあったがリップが炎に関心があることもあり虜のように目を輝かして見つめた。
そして次の瞬間、リップが大口をあけ壮大に盛大に炎を吹いてみせた。
カイトの顔は一瞬にしてリップの炎の中消えてしまった。
「あちあちあちー」
火を吹いた勢いで甲冑が閉まってくれたおかげでカイトはなんとか大火傷は逃れた。
「テメー俺を殺すつもりかよ」
これにはカイトが怒っても仕方とない思う、でも当の本人は「くあ?」と知らんぷりし、まるで反省の色がない。
カイトは動物にこれ以上ムキになるのもどうかと思い、それ以上は追求しなかった。
「アサの居場所がわからないなら、こっちから知らせをだすか」
カイトは悪そうにニヤリと笑うと、避難訓練で良く使われる軍事棟2階の調理室厨房へと向かった。
その頃ルヴィーさんは王様と龍のアジト襲撃作戦の最終謁見を行っていた。
「軍艦は用意はできましたか?」
「ああ、今小娘供が発進準備を進めてるだろう」
「小娘ですか……」
ルヴィーさんが眉間をひそめた。
それに気づいた王様が言った。
「不服か?」
「いえ別に」
「遠慮するでない、お前の言いたいことわかる。でも時代も変わりつつあるのだ。男共にも機械を触らしてやったのだがどうもおなごの方が覚えが早くてな。何も心配することはない彼女らはエリートだ」
ルヴィーさんはその言葉に安堵し王様に改まって言った。
「陛下この度は私にこの作戦の指揮をお任せにいただき本当に感謝しております。私が責任をもって彼女達の命をお預かり致します」
王様はルヴィーさんの変わりように感動し同時に誇らしくも思った。
「任せたぞ」
王様がそう言い、何か大事なこと思い出したかのように早口でルヴィーさんに告げた。
「そうだ、お前に1つ言い忘れたことがあった。お前も軍を離れてた身だ、お前に限って感覚が鈍るということはないだろうが、今作戦の補佐にバルバロスをつけた」
「……」
ルヴィーさんがまた分かりやすくも顔を歪ませた。
王様もすぐに事態を察した。
「お前と奴は馬が合わんかったな。だが彼はお前が去った後も沢山の戦の指揮をした男だ。でも勘違いせんでおくれ指揮官があくまで君だ。私はバルバロスならお前のよきパートナーになってくれるとーー」
「陛下私なら大丈夫です。もう子供ようなことは申しませぬ。作戦となれば私情など抜きに作戦成功にじんりきをだすまでです、それは彼も同じでしょうから」
「ルヴィーお主成長したのう」
王様はルヴィーさんの成長に感動した。
「陛下に比べればまだ赤子も同然です。陛下お手をお出しください」
王様が言われるまま手を出すと、ルヴィーさん王様に何かを手渡しそっと掌を閉じた。
王様が不思議そうにルヴィーさん見つめ手を開くとそこには赤く光るわたしのイヤリングがあった。
「これは?これがなければ龍のアジトがわからないのではないか」
王様のいう通りだ、これは龍のアジトを知られる鍵のはず。
するとルヴィーさんは右側の揉み上げをたくし上げ自身の青いイヤリングを王様にみせた。そのイヤリングが私が以前みたより鮮やかに光ってるようにみえた。まるでルヴィーさんの瞳の色のようだ。
「私には自分のものがありますのでもう必要ない物です」
「そうか」
王様は納得し視線をルヴィーさんからイヤリングに戻した。
「それは非常に珍しく高価なものです。それになにより美しい陛下がお持ちになり、どうぞ王家の宝にしてください」
ルヴィーさんは後半部分暗に何か含ませるような陰を感じさせる言い方をした。
「それではいってまいります」
ルヴィーさんは王室を出るなり脇にある柱を拳の横叩いた。
「くそが私への監視役のつもりか」
叩いたルヴィーさんの拳が怒りから震えていた。ルヴィーさんも手を抜いて叩いたのだろうが、それでも柱に小さなひびを作り出してしまった。
ルヴィーさんは呼吸を整え自身を落ち着かせると、軍事棟にある発着場へと向かった。
ルヴィーさんが発着場に向かう際、同じく軍事棟いて厨房を目指していたカイトに遭遇する。
カイトはその白髪から通り過ぎる時にちらりとルヴィーさんを横目で見たが、ルヴィーさんは目もくれることもなく素通りした。しかしカイトが通り過ぎた後に振り返った。それはカイトの姿を確認するためではない、以前に嗅いだことのあった香りがしたような気がしたからだ。
「まさかな」
ルヴィーさんは気のせいだと思い、それ以上深追いをすることはしなかった。それは私が竜の子供を母親の元に返していると思い込んでいたからだ。
カイトは1つ階を降り調理室厨房へとやってきた。
ここはお昼時と夜の二回と決められた時間しか人の出入りがないので、現在の午前の9時を少し過ぎようとしてるこの時間帯では誰も姿も見受けられなかった。
そのためカイトがリップ下ろし自由に歩かせた。
「なんか悪い気もするがリップ一思いにやってくれ」
リップに火を吹く方向を指差すカイトだが当の本人はなんのことだかさっぱりのご様子。
「くあ?」
「お前も物分かりの悪い奴だな」
も、とはカイトの奴私のこといってるのかしら。
カイトは懲りたはずのジュッポに火をつけ、出来るだけ自分から遠ざけリップに合図を送った。
しかしリップはその火に目をキラキラとさせ、まるで恋する乙女のようにうっとりとしてしまった。
「おいおいさっきと全然違うじゃねーかよ」
この調子ではカイトの思惑通りことが進むにはもう少し時間が掛かりそうだ。
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