第40話 リップ合流
対照的にカイトは冷静沈着で、むしろムカッぱらがすっきりしたのではないかと思う程、涼しい顔をしていた。
「ゲドロフいつまでも突っ立てないでお前も手伝ってくれ」
「おう」
二人で警備兵を仮拘束の通路まで運び、カイトはゲドロフさんに入り口の見張り役をお願いした。
「頼むから急いでくれよ、俺たちの立場が危うくなるからな」
「わかった。さっさと終わらせてくる」
そんな台詞を吐いたカイトであったが、その場所に私がいるはずもなく、カイトは牢部屋につくと唖然とするであった。
「アサがいねー。ウソだろ」
カイトは自分の目を疑った。でも何度袖で目を擦ろうが私がそこに現れることはない。
カイトは何のためにゲドロフさんに無理強いをさせたのかと絶望した。
カイトはいないと分かっていながらも、三部屋ある格子で中の透けた牢部屋の扉を順々に開いていった。
そして最後の扉を開ききった所で膝をついて頭を抱えた。
「あいつら仕事サボって突っ立てただけじゃねーかよ」
悔しさが混み上がってきたが、いつまでもここで時間をかけるわけにはいかなかった。カイトは呆然とし膝に手をかけたちあがると、部屋の奥、格子がついた三角窓に赤い輝きを見つける。
カイトの背丈なら背伸びせずとも届き、丁度目線の高さに位置していた。
近づき落とさないように慎重に手で取ると、それはアサが身に着けていた赤いイヤリングだった。
「やっぱりアサはここにいたんだ」
カイトは私がここにいたことを確信した。
すると奥からゲドロフさんの声が聞こえてきた。
「カイト急いでくれ」
「わかった。もう少し待ってくれ」
カイトが声を張り上げゲドロフさんに言った。
そして視線をイヤリングに戻すと、わずかだがそのイヤリングはまだ光の線をだし続けていた。
私がその場を離れたことで、光の強さは微弱になっており今にも消えそうなか細いものだが、リップの元へとはしっかりと届けられていた。
勿論カイトがそんなことを知るよしもなく、ただその光の先を不思議そうに見つめていた。
「何が起きてるんだ?」
カイトが今にも消えかかりそうな、その光を見つめているとあることに気づいた。はっきりとはまだ見えないが光の先で何かがうごめいているようだ。
「何かくる」
目を袖で擦るがどうやら幻ではなさそうだ。それどころかさっきより、点に見えていたものが大きくなっている気さえした。
カイトは一瞬、龍が襲ってきたのではないかとぞっとしたが、それはみるみる内に大きくなっていき「キー」という甲高い声が聞こえてきた。
それはまるでバイクのアクセルを吹かすように近づくにつれ音を強めていった。
カイトは恐怖心から体を固まらせ、近づくその物体から目を離せずにいた。
カイトがそれをリップだと理解したときには、リップは格子のついた三角窓をぶち破り、カイトと衝突していた。
カイトはリップを腹で受け止めはしたが、その勢いはすまじく吹き飛ばされその場で倒れこんでしまった。これではまるで軽い交通事故だ。
リップはというとカイトを私だと勘違いしてるのか頬をすりすりと擦り、甘えている。
「どうしたカイト」
ゲドロフさんが大きな物音を聞きつけカイトの元に駆け付けてきた。
カイトはゲドロフさんがパニックにならないように腹の痛みに耐え、穏やかに言った。
「変な動物に妙になつかれてな」
「変な動物だって」
ゲドロフさんはさっき龍というキーワードを聞いていただけあり、それが龍ではないかと疑っていた。
「リップ残念だが俺はアサじゃないからな」
リップが私の声じゃないと気付き、顔を上げてカイトと目が合うなり、カイトの腹を蹴り飛ばし後ろに跳びはねた。
カイトはまたしもうづくまり、今度は膝をついてうつ伏せに倒れこむことになってしまった。
「キー、キー」とリップが犬のようにカイトに威嚇した。
腹の痛みがおさまりはじめカイトはリップ言った。
「リップ安心しろ、俺はお前の味方だ」
リップは言葉の雰囲気から鳴くことはやめたが、相変わらず目を細め警戒心を解こうとしない。
リップには人間の言葉が分からないのだ。それはカイトも同様であった。私がいない以上二人の意志疎通は難しいと思われたが、カイトは機転をきかせあることを思い付いた。
「お前人の言葉がわからないのか?なら」
そういうとカイトは利き手の革手袋を外し、リップにむけ手を差し出した。
「握手だ。アサから教わらなかったか?」
リップは私から握手を教わっている。ただ怖かっただけよね。リップは一歩、一歩カイトに歩みより、手に触れるとカイトのお腹に飛び込んだ。
それは握手というよりお手に近かったが何はともあれ、リップがようやくカイトに心を許してくれたみたい。
カイトがリップを抱き上げ、立ち上がり言った。
「リップ、アサがいないんだ。力を貸してくれ」
「クー」
リップは人の言葉は分からなかったが、アサという私のキーワードと私がいないこの状況から大体の事は察した。
「カイトそれ龍の子供じゃないのか?」
ゲドロフさんがカイトにおどろおどろしく聞いた。
カイトはゲドロフさんを変に刺激を与えないように直接的な言葉は避け言った。
「ゲドロフ、これ以上おまえに迷惑をかける訳には行かない。後は俺一人でなんとかしてみせるよ」
そういうとカイトはリップをつれ仮拘束所の出口に向かった。
ゲドロフさんはカイトを追うわけでもなく只只カイトの背中を見つめるのであった。
そしてカイトが仮拘束所の出口の前でゲドロフさんに振り返った。仮拘束所は明かりが殆どないこともあり、カイトの周りから城内の光がこぼれだし少し眩しくみえた。
「ゲドロフ、口外だけはしないでくれよ」
カイトは笑顔でそう言い残し、ゲドロフさんを置いてどこかに駆け出してしまった。
「カイトの奴無茶しやがって、でも奴が間違ってることをしてるとは思えねーんだよな」
ゲドロフさんはやれやれと思いながらも、どうしてかカイトのやったことに否定的にはなれなかった。そしてゲドロフさんは下の階におり何事もなかったようにいつもの業務に戻るのであった。
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