第33話 龍を人をーー
カイトも龍に跨がりリィズさんが勢いよく飛び、穴蔵を脱出する。
穴蔵をでるまで、私は後ろにたたずむリップみて、リップが見えなくなるまで手を振り続けた。
「アサ、前をしっかり見ろ。振り落とされるぞ」
カイトにそういわれ私は前に向きかえり、リィズさんの体に覆われた鎧のような鱗にしっかり掴まった。
マリクル山脈から地を離れるとそこには無数の星空が広がっており、絶景だった。
曇り空が少し残り満点のそらとは言えないが、空を飛ぶのがこんな気持ちいいなんて思わなかった。
「きゃー」
私がアトラクションに乗ってるかのようなリアクションすると、すかさずカイトが突っ込みをいれた。
「遊びにいく訳じゃないんだからな」
「いいじゃない?少しくらいはめを外したって。私龍王様の前で頑張ったのよ?」
「龍王様?」
カイトには何のことかさっぱりだ。
「きゃははは」と緊張が解けたよう笑い楽しむ私。
「それに比べて、龍の前でただ震えてた人はどこの誰かしら?」
カイトの恥ずかしさで顔が赤くなる。
「俺はお前のために……」
「私のために?」
「もういい」
カイトがふてくされて口を詰むんだ。
上でそんな会話繰り広げてるなか、リィズさんは黙ったまま、目的地のバルセルラを目指した。
人との会話には入りたくないということなのか。なり染め無用ということなんだろうか。
「おい、それよりこの龍、本当に信用できるのか?」
「安心してリィズさんは私達の力になってくれるって」
「それでバルセルラには何しにいくんだ?」
それを言われて初めてカイトが何も知らずにいることに気付いた。
「このイヤリングをーー」
説明をいいかけた所で、リィズさんの体が何かに突き上げられたかのように大きく揺れた。
「きゃ」
私は必死にリィズさんの体にしがみついた。
「おいおい、なんのつもりだ。俺達を振り落とすつもりか」
リィズさんがそのまま上昇を続け、視界が急に悪くなる。
「すまんな、雲の中の方が目立たないと思ってな」
気付くと私達は雲の中をはしっていた。
リィズさんは話終わった後も私を見続け、暗に何かを示してるのだろうかのようだった。
だけど見え隠れするその思惑までは私にはわからなかった。
少し恐く感じ、私はカイトに顔を向けた。
「リィズさんが雲の中の方が目立たなくていいからって」
カイトにリィズさんの言葉を伝えた。
「本当かよ、やっぱり信用できねぇーな」
カイトが口をへの字にして言った。
「リィズさんも謝ってるから。ねっ」
(ねっ)の所でリィズさんに視線をおくったが、それでもまだおっかない顔してる。言葉は通じるけど龍の奥底に眠る感情まで私にわからなかった。
「それで話の続きだ」
「えっと--」
私はカイトにこれまでのことの行きさつを説明した。
説明をしだすと曲がったリィズさんの首が正面を向き、翼をはばかせ、空に直線を描くようにその線は雲を切り裂き力強く前に進んだ。
「龍たちはこのイヤリングを返すことを要求してる」
説明を一通り済ませるとカイトは難しい顔をし考えこんだ。
「そうなると城に入って直接、王に交渉しないとなぁ」
バルセルラの王様か、龍の王様の次は国の王さまだなんて、本来私が会談していい相手じゃないよ。
私にはキッカやモコの悪ガキに説教するくらいがちょうどいいのに。
「代わりになるものはあるか?」
「代わりって?」
「税金の代わりだよ。そのまま返して下さいってのは無理があるだろ」
「どうしよカイト、私お金そんなにもってないよ」
「仕方ないな、俺が立て替えてやるよ」
「ありがとう、いいとこあるじゃん」
私はリィズさんにしがみつきながらも肩でカイトを腕叩いた。
「対したことじゃない。あんまくっつくなよ」
カイトが照れて顔を赤らめる。
「城には関係者しか入れないから、俺が先行して道を案内する。龍討伐で見張りはほとんど出払ってるはずだから、上手くいけばなんとかなるかもな」
「そっか」
バルセルラの情勢に詳しいカイトがいてくれて本当に良かった。さっきはどうかと思ったけど、今は心強く感じる。
「アサもう少し飛ばすぞ、しっかり掴まっていろ」
リィズさんが私達に言った。
「わかりました」
そして一気に空を駆け抜けていった。気付けば空はすっかり明るくなっていた。曇り空はバルセルラに向かうほど晴れていった。腕時計をみると時間は午前8時を回っていた。
「着いたぞ。ここをまっすぐ進めば森を抜けられる」
「ありがとうございました」
「健闘を祈る」
「行こうカイト」
カイトともに走り去ろうとした時、リィズさんが私の足を止めた。
「アサ少しいいか?」
「はい?」
私は振り向き不思議そうに返した。リィズさんの真剣そうな顔をみて私は空気を察っしカイトの退席を求めた。
「カイト少し席を外してくれる?」
カイトもリィズさんの気持ちをくんでくれたようで「早く済ませろよ」といってくれた。
カイトがバルセルラに向かい、席を外すとようやくリィズさんが話しはじめた。
「あの男、本当に信用に足る者なのか?」
「どうしてそう思いますか?」
リィズさんにその理由を聞いた。
「奴は人間だ。我々龍の味方をするとは思えない」
やっぱり人間に対して不信感を抱いてるようだ。こちらから姿を見せたとはいえ、リィズさんにとっては突然襲撃されたも同然、信用できない気持ちは痛いほどわかる。でもこの事件を解決に導くにはカイトの力が必要。私はリィズさんにカイトのことを信用してもらえるように自分に例えて理解を得ようとした。
「そんなことをいったら私だって人間です。それでも私はリップに会ってあの子を助けてあげたいと思いました」
「奴は軍人だ。我々の討伐を目的として送りこまれた奴だ。お前とは訳がちがう」
「確かにはじめはそうだったかもしれないですけど、龍達の事情をしって彼も私に協力してくれました。あれは軍人としてじゃなく彼自身の意思だとおまいます」
リィズさんには響いていないのか黙ったまま。
「お互い気持ちが伝わってないから争いおきてしまうんです。だから私が龍と人間との橋渡しをします」
リィズさんはまだ黙ってる。もっと訴えかけなきゃ届かない。
「人だって龍に力を貸すことだってあります。その逆だって、私はリィズさんの助けがあったからこうして今イヤリングを取り戻しにいけるんです」
「………………………」
「龍、人それぞれ区別せず、彼個人の姿をみてあげて下さい。
それに彼に人を騙すなんてそんな器用なことできませんよ。だって彼バカですから」
「……………………………………」
長い沈黙のなかリィズさんがようやく言葉を口にした。
「そうか……お前のその直感信じよう。くれぐれも気を付ける事だ」
リィズさんに私の思いが届いたようだ。
「私は近くでお前達を見守ろう」
そういうとリィズさんは翼をひらげ大空へととびさっていった。
それを見つめる私、リィズさんもこちらの姿がみえなくなるまで、こちらを見下ろしている。
この時はじめてリィズさんが少し私を認めてくれたような、そんな気がした。リィズさんが私に託してくれたこの試練、絶対に成功させてみせる。
私は振りかえりゆっくりとバルセルラに歩みを進めた。入り口で待つカイトの姿がみえ、私はリィズさんに託された気持ちを胸にカイトの元へ駆けていった。
「おまたせ」
「長かったな、何はなしこんでたんだ?」
私は首を傾げ少し考えこんだ末、カイトに言った。
「カイトがバカなことしないか見張っておけってさ」
「なんだよそれ」
カイトも私の減らず口に慣れたみたいで笑って返してくれた。
「たいした話じゃないってことよ」
私たちは王都バルセルラへと足を踏み入れた。
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