第27話 ルドワン脱出
それから私たちは雨が弱まった後、プレコットの店を出て山道の入り口を目指した。
「ルヴィーさんまだ全然降ってますよ。止んでからじゃだめなんですか?」
「雨が降ってるほうが住民がいなくてやりやすい」
ルヴィーさんの駆け足が早いものだからついて行こうにも全然追い付けない。
遂には私は膝に手をついて止めてしまった。
「はぁはぁはぁ」
荒れた息遣いが止まらない苦しい。リップが隙間から手を出し私の肩を叩いて鳴いた。
「分かってるよリップ、頑張らないとね」
体に無理をしてなんとか走り抜くとルヴィーさんは門番のところ既に到着しており、私は近くの草の繁った木の裏に身を潜めそちらに耳を傾けた。
「やぁ諸君お仕事お疲れ様」
ルヴィーさんが揚々と門番に話しかけた。
「あん?誰だお前?」
怒気きいた声。ルヴィーさんのファーストコンタクトは失敗かな。ルヴィーさんってベルセルラ軍で名が知れてないのね。
べし。
ルヴィーさんが不機嫌そうな顔を頭にチョップをかました。
「いてー」
見た目は軽そうに見えたが兵隊が大きくのけぞった所を見ると、中々衝撃だったのだろう。
「言葉には気を付けるべきだぞ青年。私はルヴィー中尉であるぞ」
「ルヴィーだって、聞いたことあるぞ」
チョップ受けた兵隊が言った。そして隣にならぶもう一人の兵隊はルヴィーさんの事をもう少しばかり知っていた。
「確か剣客の名手だよ。元将軍アルバトラ様と並ぶ実力者だったときく」
「流石先輩だね、話が早くて助かる。ここの門番は私が引き受ける。君らは下がっていいよ」
「我々はアガレス隊長の指示で動いてます。隊長からの命令でなければ受け入れられません」
「そのアガレス隊長って人から頼まれたんだ」
ルヴィーさん口からでまかせを言った。
「そうですか。なら通信機で連絡をとらせていただきます」
両頬を下首筋にロングソードをつきあてた。
「余計な真似はするな、騒ぎを大きくしたくない。そのまま動くな」
「アサ今のうちに急ぎな」
ルヴィーさんは木陰潜む私の存在を察知してたようだ。
表に出てルヴィーさんと目を合わせた。
「あとの事は私が引きうける」
「ありがとうございます。御武運を」
私はそういい、振り返ることなく必死に全速力で走った。先程走ったばかりで息は完全には回復しきれてないけど、そんなことも言ってられない。なにせ軍人はライフルを持っている、撃ち殺される可能性だってあるのだ。私はとにかく前だけみて、前方にそびえる山に向かって走り続けた。
「よしこれで一件落着」
ルヴィーさんが私が見えなくなっていくことを確認して言った。
「こんなことをしてただですむと思っているのか」
歯を向けられた兵隊が顔を引きつらせ言った。
「初めに只ですまなくなるのは君達だと言うことを理解した方がいい。まずはその厄介な装置からだ」
ルヴィーさんが兵隊が耳にあてた通信機を叩き切り、右の手でもう一人の兵隊腰に下げた通信機も同様に破壊した。
軽い爆発とともに二人の兵隊がルヴィーさんから間合い離し、拵えた剣を鞘から抜いた。
「いくら過去の名手とはいえ、こっちは二人ががりだ負けるはずがない」
数の優位性を説く二人だったが、ルヴィーさん至って冷静だった。
「対した自信だな、階級をいってみろ」
「……」
二人ともだんまりを決め込む。その理由は単純で威張れるほどのものではなかったからだ。ほとんどの階級の上の精鋭隊は竜討伐に駆り出されてしまって街の監視をまかされているのは言わば残り物ばかり。二人の兵隊の右胸につけられているバッチがそれを物語っていた。
「どいつも格下だな」
ルヴィーさんの胸には金色に光るバッチがつけられていた。
「軍の所属の記録が消された今のあんたに今さらその階級は無意味、そのバッチも本来なら王都に返上すべきだ」
「口喧嘩もこのへんにしようか、悪いが一瞬で決めさせてもらう」
脚をバネに一気に自分の間合いに入り込み左右対称に剣を振りかざし、兵隊の腰より少し上を重い一撃を見舞った。
ルヴィーさんの言葉通り勝負は一瞬でついた。その一撃を受けた二人はその衝撃から大きく吹き飛んだ。
「腕はないが鎧は大したもんだ致命傷を与えるには及ばなかったか」
アーマにひびが入り破損はしているのがそのお陰で二人は致命傷は避けていた。しかしその衝撃を大きく兵隊は頭をうち気を失っている。
もう一人のルヴィーさんが先輩呼んだ人は若い人より経験はあったのか落下時に首をあげ受け身をしっかりとっていたようでなんとか意識を保てていた。
「おっ、気絶しないとは大したものだな」
そういい彼の元に近づくルヴィーさん。その表情は顔色を1つ変えず冷血無地の狂気さえ感じる。
「命だけは助けてくれ」
「どうしたものかな」
ルヴィーさんが1度納めた剣を兵士に向けた。ルヴィーさんの顔がにやりとしもてあそぶように剣をゆらゆらと揺らし悩むそぶりをみせる。
ガタガタ
馬のかける足音。ルヴィーさんの過敏に働く感覚が察知して馬をとらえたが肝心のばしゅがいない。
ルヴィーさんの視界の外天上から降り立った剣士は片手で握っていた剣を吹き飛ばした。
ルヴィーさんがすかさず降りかえり、もう1つの脇差しを抜いた。
その剣士は地面についた膝を曲げ立ちあけがりルヴィーさんに向きかえった。
「ルヴィーそこまでだ」
髭をはやし渋くしゃがれた声。
「おやおや誰かと思えばアルバトラ様じゃありませんか?」
アルバトラ様、その昔将軍と呼ばれ恐れられた剣士は私のお父さんだった。
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