第25話 白銀の女性

 「あっここだ」

 ブレアの質屋はすぐにみつかった。


 「ジョセったら酒場と併用してる店なら、前もって言ってくれれば、こんなに手こずる事なかったのに」と思ったが手元の紙切れみて「この地図じゃどの道同じか」


 店の前に立ち、最終確認でリップに話しかけた。

 「リップ心の準備はいいわね」


 「くー」

 リップはどこで覚えたのか敬礼してみせた。 


 「じゃー手筈通りね」

 扉をあけると夕暮れ時なのに、案の定お酒を飲んでる客がカウンターにずらりと座っている。

 子供の私が場近いだからだろうか、店主、客、共にこちらを横目に物珍しそうに見ている。

 客のは男性が多いが、中には若い女性の人もおり、カップル率も高い。その中で一際目立つ女性がいた。

 カウンター席の一番端に座り、悶々とお酒を飲む彼女は、どうやら一人できてるようで、肘をついた堂々たるその姿から、お得意様の常連客なんだろうと推測できた。


 ショートヘアの白い髪に一切の曇りのない青い瞳。ショートはジョセより少し長めで毛羽立ってる。

 左の目元には何かの紋章のような入れ墨が彫られてる。髪を染めているのかは定かじゃないけど、もし仮に地毛なら遠い国からきた人なんだろう。

 服装は簡易的な鎧をきている。左は肩から手にかけてアーマーがつけられているが、右側は腕のみで方には黒布、手には黒い手袋をつけ、内側はゴムで処理が施されている。

 胸部分もアーマーついており、中央に向かって緩やかに尖っている。

 下は黒ズボンに膝から足はアーマーブーツを着用している。

 バルセルラ軍の鎧に比べると完全防備とはいえず継ぎ接ぎ感がある。

 立ち尽くしている私を見かねてか店主が「いつまでもそこでじっとしてないで座りなよ」と少しカリカリした様子でいった。

 店主はまだ20代前半程で、短めの髪は前髪を中央で分けており、金髪に染め上げている。第一印象はヤンキーな兄ちゃんと言ったところで私の苦手なタイプだ


 「すみません、あちらに用がありまして」

 私は酒場のカウンターとは別の隣の質屋とおぼしきカウンターを指差した。



 「あーそうかい」

 店主は気だるそうに言うと、隣のカウンターに移動した。私も困惑しながらも後をついていく。


 カウンターに着き「あのジョセさんの紹介でお店に電話があったと思うのですが?」

 ジョセの名前を出され、驚いた様子の店主。

 「ってことはあんたがアサさんか?」


 「そうです」


 「なんだよ、ジョセの野郎。ただのガキじゃねーか」

 その答えを聞くなり店主はあからさまに落胆の様子を見せつけた。溜め息をはき散らかし、掌で目元をかくし、頭を何度もくしゃくしゃと。

 「ジョセにはべっぴんがくるからってことで、サービスするって話だったんだぜ。それがこんなガキとはな」


 むー、確かに私は美人じゃないし、カトリーヌさんみたいにスタイルがいい訳でもない。でもここまではっきり言われたら腹が立つわ。子供だから化粧だってしてないし、スタイルだってきっとこれからなんだから。私は怒る気持ちを抑えに抑え、本題に入った。


 「見るだけ見てくださいよ」

 カウンターにずっしりとしたリュックを持ち上げ言った。することを済ませて早くここから出よう。じゃないと私が爆発しそうだ。


 店主には持ち上げたカバーしかみえないようにして中身を隠し、先ほどの段取り通りリップに道具を持ち上げてもらいはし繋ぎをしてもらった。


 「ふん」

 店主は乗り気ではなさそうだが、小さな虫眼鏡のようなものを取りだし鑑定を始めた。

 リップに選別してもらって惜しいな思うものもあったが、もうゴールも近いものね。お金と少しの食糧があれば事足りるし、ライトもリップが灯してくれれば問題ない。


 リュックから物を出しきり、リュックを背負うと嘘みたいに体が軽い。これならリップ入れてもへっちゃらかも。


 待合の椅子にすわり数分。鑑定を終えるのを待ち、そして私の名前が呼ばれた。


 「はい」

 こういうのってドキドキするものだ。


 「うちではこれしか払えねーな」

 お札を数えると12000ミラだった。品数からすると少し物足りない気もするけど、私には十分な大金だ。

受け皿にのったお金を手をつけようとした瞬間、ある人物が席から立ち上がった。


 「ジェイドそんな若い子に意地悪言ってやるなよ」

 白髪の女性だ。声は思ったより低く、その表情から色々苦労してきたことが伺える。

 店主のジェイドさんはいらんこというなという表情で彼女を睨み付ける。これこそ無言の圧力だ。

 なんだかおっぱしはじまりそうで私は生唾を飲み込んだ。さっきまで沸騰してた感情が一瞬にして凍てついてしまって意気消沈。


 「こっちのものは置いといてもこっちは上物のはずだぜ」


 「なんだよ、ルヴィーこいつの肩を持つつもりか?」


 「別に特別扱いしろなんていってねーさ。せめて適正の額で取引しな。でないとルドワン1の骨董屋の名が泣けるぜ」


 「質屋だ、そんな古くせーもん置いてねーだろ」

 彼女の言葉を訂正するジェイドさん。


 「どっちも似たようなもんだろ」

 どっち引くようすはない。


 「ルヴィー俺がぼったくってるっていいたいのか?いつも付けで飲んでるくせに今日はやけに偉そうじゃねーか?」


 いわんこっちゃない。どんどん二人の掛け合いがヒートアップしてる。周りは止めるどころか、面白がって見世物にしてる始末。私は1歩引き二人の間に挟まれないよう距離を取った。


 「そうかい。ならアサちゃん、その品物私が3万ミラで買い取ってあげるよ」

 離れるもルヴィーと呼ばれる女性に肩をかけられホールドされてしまった。


 「バルセルラに行けばそれでもお釣がくる額だと思うがどうするよジェイド」


 「ふん、そんな金ないくせに」

 腕を組みそんな挑発にならないと顔背けるジェイドさん。


 しかしその言葉をきいてルヴィーさんの口元がニヤリと笑った。

 「確かに金はないが、借りる宛は腐るほどあるのさ」

 ルヴィーさんは声色をかえ自信たっぷり。かと思えば私に向きかえり軽い口調

で言った。


 「アサちゃんちょっと待っててくれるかな」


 「はい」

 突然話を振られ考える間もなく返事を返してしまった。


 それをきいて焦るジェイドさん。ジェイドさんもルヴィーさんがはったりを言ってないことを分かってる様子。


 「わかった、わかったよ。今回は特別その額で取引してやる」

 受け皿にもう3万ミラをたたきつけジェイドさんがいった。

 少し受け取りずらかったけど、ルヴィーさんが顔で催促するのでお金を受け取り、ジェイドさんにお礼を言った。

 ジェイドさんはルヴィーさんに向きかえり「だがルヴィー今日の分はしっかり払ってもらうからな」


 「わーたよ」

 ルヴィーさんはそういうと自分の席にあったお酒を一気に飲みきり、お金をカウンターにバンっと置いて、そのまま店を出ていってしまった。机に置かれたお金は小銭ばかりで細かい。


 ジェイドさんがお金を数えていると「おいルヴィー300ミラたらねーぞ」

 開いたままの扉に叫ぶジェイドさんだが姿の見えないルヴィーさんの元には届いてないようだ。


 「足りない分私が払います」

 私は財布を開きそのカウンターに300ミラをおいてルヴィーさんを追った。


 「ありがとうございました」

 店の前で振り返りもう1度お礼をして、開いた扉を優しく閉めた。


 嵐が過ぎ去ったかのようブレアの酒場で

 一人の小太りの男性がジェイドさんに向かって一言言った。

 「おいジョイドお客がありがとうございました、なんてどっちが客かわからねーな。はははは」


 「何がおかしいんだよ」

 カウンターを叩き、ジェイドさんの大きな叫びが店内を響きかせ、酒場はたちまち静まりかえったが、時間が少したてばまたいつもの空間がそこにはあった。ルドワンに住む人にとってはこの程度いつもの見慣れた光景なのだ。


 店をでるとルヴィーさんとおぼしき点が見えた。


 「あの人もうあんなとこまで。意図的に食い逃げしてるのかしら。今は追わなきゃ」

 走って追いかける私。ルヴィーさんに近づいていることから走って逃げてる訳ではなさそう。でもその1歩が以上にでかい。


 「あの先程はありがとうございます」       

 ルヴィーさんに追い付き一声かけた。


 「あれ着いてきちゃったの?せっかくきたんだから一杯飲んでけばよかったのに」


 「私まだ17でそんな年じゃないです」


 「17なんて大人みたいなもんさ黙ってたら何も言われないよ」

 話が逸れそうだったので本題を切り出した。


 「あのお礼をさせて下さい」


 「まぁ酒場を追い出されちゃった訳だし、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


 「え、私お酒は飲めませんので」


 「喫茶店なんてルドワンにそんな可愛い店なんてないよ。どこにもお酒は置いてるもんだ」


 不安そうな私の顔をみてルヴィーさんが言った。「心配しなくてもソフトドリンクぐらいあるさ」


 「さぁそうと決まれば急いだ急いだ」

 そう言うとルヴィーさんはお店に向けて一直線に走り出した。


 「えーまた走るの、元気な人だな」

 ルヴィーさんの走りについていける訳もなく私はまた点に向かって走ることになってしまった。トホホ。

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