寄り道② あるプレイヤーのプロローグ
「はい、それでは時間なので始めて行きましょう!『War Fairy』配信直前!公式生放送!毎度お馴染み広報担当の田中です」
『またお前か田中ァ!待ってたよ!』『WF楽しみ』『事前登録目標達成おめ』『名前がダサいよね』『←それは言わないお約束w』
「そして、今回はゲストとして2人の豪華ゲストの方に来ていただきました。まずは、ルネ役の…」
「
『もみじちゃんだ!』『可愛い』『←もみじちゃんは綺麗だろうがks』『沸点低すぎて草』『綺麗でかわいいでFA!』『結婚して』
「そして、ロイバー・クリステフ役の…」
「
『スーさん!』『スーさんじゃないか!』『やっぱりイケボ』『男でも惚れる声』『┌(┌^o^)┐』『湧くな湧くなw』『腐海へお帰り…』
「今回は配信直前ということで、配信記念イベント情報など重要な情報満載となっております!それでは先ずゲストのお二人に――」
◆◆◆
『――というわけで配信終了となります!それでは皆様、『War Fairy』をお楽しみください!』
時刻は丁度21時。アプリストアを開けば、確かにダウンロードが可能になっている。
迷わず、ダウンロードを開始。
………。
…どうやらアクセスが集中しているようでちょっと遅い。まぁ、そんなことだろうとは思っていたが。
とりあえず、放置したまま少し待つとしよう。
『War Fairy』、通称WF。名前がダサいというのは良くネタにされているが、そもそもこれ自体が異常だ。ダサい名前なのに話題になるという時点でおかしい。
公式サイトで公開されている「作品紹介」や「世界観」を読んでも、これといって目新しさはない。ありきたり。そう、それら1つ1つはどこにでもありそうなモノに過ぎないのだ。
だが、それにもかかわらず話題になった。それはやはりCMの存在が大きいのだろう。「テレビ離れ」が真剣に議論される時代ではあるものの、それでもまだ大きな力がある。テレビを通して、WFはその美麗なグラフィックと、心躍るBGMを人々に刻み付けた。勿論、他媒体でのCMも完ぺきだったと言っていい。
あの生放送に出ていた田中なる人物が初めて任された大きな仕事だったということだが、つまりはそういうことだろう。無論、制作陣のスキルの高さもあろうが、あの男の宣伝に関する力が並外れていたのは間違いない。
…しかし、いくら宣伝が上手くいって話題になろうとも、ゲーム自体が面白くなければ人は離れる。当たり前の事だ。
俺は様々なゲームの攻略サイトを管理・運営する傍ら、ゲームの批評も行っている。話題性などに誤魔化されず、しっかりとこのゲームを見極めるつもりだ。
そんなことを取り留めもなく思考しているうちにダウンロードが終わったらしい。
早速アプリを起動する。
すると、先ず短めの動画が再生された。物語の舞台となる「カオス」の世界を俯瞰し飛び回るかのような映像だ。相変わらず美麗である。どうやら、CMとは異なる、初起動時の専用動画らしく、自然と胸が躍った。「ここからこの世界を冒険するのか…!」という、あの感覚である。相変わらず、この運営はゲームの魅力というものを熟知しているようだ。
BGMも素晴らしい。何と言うのか、童心に返される心持になる。昔、二つ折りのゲーム機で遊ぶ有名タイトルのカセットを、親にせがんで発売日に買ってもらったことを思い出した。当日は平日だったので学校に行き、ワクワクしながら駆け足で帰り、家に帰って直ぐに起動したんだったか。あの時、起動と同時に流れ出した音楽でワクワクが最高潮に達したのだ。
それから物語のプロローグが始まった。
普通の一般人が何やら超常存在に拉致され、迫る危機を知らされ、救世を託される。
ありきたりな展開ではある。特に最近のネット小説にあふれているような内容だ。
…もっとも、即座に掌返しをされて記憶を奪われるとは思わなかったが。
主人公が目を覚ますと、それまでとは全く違う景色の場所にいる。
やがて一枚絵で、青空を背景にこちらを覗き込む黒髪の少女の絵が挟まれた。
ふむ。どうやら、この女の子、「ルネ」がメインヒロインらしい。
『尋ねる前に、名乗るべき。キミ、名前は?』
ここでプレイヤーネームを打ち込むようだ。
確か、公式サイトで紹介されていた主人公のデフォルトネームは「
俺は世界観に没入するのが好きなので、あえてデフォルトネームを打ち込む。ゲームをするときの俺のちょっとした流儀だ。
その後何やかんやあって戦闘になった。
どうやら戦闘システム解説のためのチュートリアルらしい。
…メインヒロインの武器が鎌というのはちょっと珍しい気がするな。即死属性でも持っているんだろうか?
ルネを攻撃位置に配置し、エネミーを攻撃する。
すると、攻撃エフェクトの後、120という数字が浮かんだ。
『「攻撃」を行うと相手にダメージを与え、「HP(体力値)」を削ることが出来ます。攻撃するキャラクターの「STR(攻撃値)」が高い程ダメージは大きく、また相手の「VIT(耐久値)」が高い程低くなります』
ふむ、なるほど。普通だな。もっとも、ここを複雑にしたところで意味はない。むしろ複雑すぎると少し萎える。まぁ、やり込み要素的観点で言えばそういうのもありなのだが。ソシャゲにはそういうのを求めていない。
『相手の攻撃でキャラクターのHPが0になると、「戦闘不能」状態となります。この状態のキャラクターは戦闘に参加できません。また、プレイヤーのHPが0になると敗北、クエスト失敗となります』
「戦闘不能」は状態ね。このように表記するということは後々復活系の何かもあるのだろう。ふむ、戦略の幅が広まるな。そういう意味では頭も使う戦闘システムと言える。
そういえば、単純さではなく、ギリギリの戦いを楽しむ方向性だとは、事前に発表されていたか。
『攻撃する、或いは攻撃されるとキャラクター及びプレイヤーのスキルゲージが上昇します。これが一定の値となることでキャラクター固有の「奥義」が発動可能です。プレイヤーは「プレイヤースキル」が発動可能となります』
ふむふむ、なるほど。「必殺技」ということだな。これがどれだけ見応えがあるかでも評価は分かれるが、さて。
戦闘が続いていく。
すると、クリティカルの表記と共に220という数値が浮かぶ。
『攻撃時に「クリティカル」が発生することがあります。通常とは異なる計算が行われ、大きなダメージを与えることが可能です。また、クリティカル発生時にはスキルゲージが追加で上昇します。なお、クリティカルの発生率は装備などで上昇させることが出来ます』
なるほど。装備構成で自分だけの戦い方を構築していくということだな?昔のRPGを彷彿とさせる面白いシステムだ。
『プレイヤーのスキルゲージが溜まりました。プレイヤースキルは味方キャラクターの支援や相手エネミーの妨害に有効です。コマンドから「火炎魔術」を選択してみましょう』
指示に従いコマンドを選択する。
すると、火炎による攻撃が行われ、ダメージが入るとともに敵エネミーの防御バフが解除された。
『相手エネミーに隙が出来ました。「奥義」で勝負を決めましょう』
『「――私の勝ち。じゃあね」』
そうして決め台詞と共にルネの奥義「其の離別は運命に導かれ」が発動し、戦闘終了となった。
なるほど。ゲームシステムは単純なターン制。操作もそれ程難しくはない。
しかし、オート戦闘ではないということは、周回に時間を取られるタイプか…?
『勝利報酬
クエストスキップチケット×1
キズナのカケラ(R)×1
キズナ晶石×3
500G 』
スキップチケット!コレは嬉しい。回数に制限はあるようだが、これは周回のストレスも少なそうだ。
その後、実はもう1体強敵がいることが明らかとなり、主人公とルネは近くの街まで逃げることに。そこで「助けを求める」=「最初の10連ガチャ」という流れのようだ。
少しガチャへの持って行き方に無理がある気もするが…。まぁ、世界観の都合上「召喚」などとは出来ないから仕方ないのかもしれない。名称も「召喚」ではなく「スカウト」となっている。
とりあえず無料10連ガチャを回す。
最初くらいは召喚演出をスキップせずに楽しむべきだろう。
綺麗な金色のエフェクトが光る…いきなり高レアか!?
『月夜の義賊ロイバー・クリステフ(SR)』
『――この永遠の戦乱を終わらせる、だと?馬鹿馬鹿しい……だが、悪くはない。いいぜ、付き合ってやる。報酬は後払いで良いさ』
おぉ!!スーさんのキャラじゃないか!これは幸先が良い!
次は…通常エフェクトのようだ。
『逢魔の盾ロ・ダスク(R)』
む?武器?なるほど、ガチャは武器もキャラも同時排出か。だが、公式生放送では『配信記念装備ガチャ』という内容があった。ということは場合によっては「キャラクターのみ」や「装備のみ」というガチャもあるということか。
次は…ん!?虹色のエフェクトだと!?
『冒険王アドヴェンスド(SSR)』
『む?なんだ、小僧。お主からは奇妙な流れを感じるな。…何ィ?世界を平定する?
ガァハハハハハハ!!!この永遠の混沌をか!何とも面白い!儂も混ぜよ!お忍びのプチ旅行が大冒険に様変わり!これだから冒険はやめられん!』
なんか強そうなのキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
筋骨隆々のジジイである。こういうのはだいたい強い。
と思ったらまたも金色エフェクト!
『守護騎士サー・ウィリアム(SR)』
『世界を平定する…不思議と貴方の言葉には嘘が感じられない。力はなくとも意志は確か、ですか。案外、そういう者が世界を変えるのかもしれませんね。良いでしょう、騎士ウィリアム、我が使命の道すがら、僅かばかりの助力を致しましょう』
おぉ!これまた強そうなキャラ。純白の鎧に身を包んだイケメンである。
『探求者ヴェルモンド(R)』
『ふむ、世界すら喰らい尽くす邪悪…。興味深い。実に興味深い。どうか、このヴェルモンドを貴方様の旅にご同行させていただきたい。必ずやお力になって見せましょう』
こちらは痩せぎすの研究者といった感じか。目元には大きな隈がある。マッドな雰囲気が凄まじい。
その後は、『逢魔の鎧リ・ダスク(R)』『宝剣ルーア(R)』『護天弓カエルム(SR)』『熱砂の槍ラ・サマク(R)』『氷魔剣リオート・オルム(SSR)』と装備が続いて終了した。
すると、『引き直しますか?』という選択肢が出てくる。
どうやら、10回まで引き直しが可能ということらしい。
むむ。悩む。悩むぞ。軽くSNSで調べたところ、どうやら最高でもキャラSSRが一体と装備SSRが1つで限界らしい。ならば、この結果で十分なのではないだろうか?
しかし、キャラクターが全て男というのは、なんともムサ苦しい…。
もうちょっと華が欲しいような…いや、しかし…。
暫く葛藤した後、俺は引き直しをせずにゲームを始めることにするのだった。
ついでに、ガチャ結果のスクショをSNSにあげておく。
さて、このゲームの見極めはまだ終わっていない。とりあえず今日はとことん遊ぶとしようか!
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